岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます。

Yahoo! ブログから引っ越しました。

『ALLマクロ』

 マクロ経済学の入門教科書『アセモグル/レイブソン/リスト マクロ経済学』が2月1日,東洋経済新報社から出版されました。監訳を担当しています。
 幸いなことに好評のようで,Amazon.co.jpを覗いたところ,マクロ経済学の売れ筋ランキング1位をいただいていました。

 出版社サイトのページでは,「試し読み」コーナーがあり,著者まえがき,監訳者まえがき,第1章の最初の部分が読めます。

 この教科書とレイブソン教授をからめた紹介記事「Freeing Econ 101」があります。『マンキュー経済学』と対比させた本書の特徴などが書かれています。
 行動経済学の大家レイブソン教授の本領が発揮される『ALLミクロ』日本語版は,鋭意準備中(2020年春に刊行予定)です。ご期待ください。
 でも,いまは『ALLマクロ』をよろしく。

ホームページを移転しました

 2018年4月から2年間,国立国会図書館に専門調査員として出向しています。この期間は東京大学のWebサーバーが使えないため,新しいWebサイトを開設しました。

岩本康志のホームページ

 度々URLが変わるのは不便なので,東大に復帰してもこのサイトを使う予定です。

 また,Yahoo!ジオシティーズが3月にサービスを終了するため,そこにあったサイトも移転します。

岩本ゼミ同窓会

医療経済学研究会議
(こちらは「岩本康志のホームページ」サイトに吸収しました)

 各サイトの更新が追いついておらず,過去文書の倉庫と化しています。何とかしたいとは思っていますが,しばらくご容赦ください。

『健康政策の経済分析』出版

 鈴木亘氏,両角良子氏,湯田道生氏との共著書『健康政策の経済分析:レセプトデータによる評価と提言』が東京大学出版会から出版されました。
 2009年度から福井県のレセプトデータを使用した研究を進めており,本書の本体は,これまで4人の共同論文の形で学会,学術雑誌等に発表してきた研究成果をまとめたものです。他に書下ろしとして,レセプトデータ分析の意義と課題をとりあげた序章と第8章,プログラム評価の計量経済学を概説した補論を含みます。専門書ですが,医療・保健政策,ビッグデータを用いる政策評価の両分野の関係者にとって,今後の方向性を示す書籍を世に出せたのではないかと自負しています。
 「健康政策」とは本書の分析対象を特徴づけるために我々が命名したもので,現状の医療・介護制度改革の重要の柱となっている「疾病や虚弱の発生後のサービス提供に偏重していた現状から,その予防にサービス資源を転換する施策」を総称するものとして使っています。
 目次は以下の通りです。

序章 根拠に基づく健康政策(EBHP)に向けて
 第I部 費用構造の解明
第1章 医療費・介護費の集中度と持続性
第2章 死亡前1年間の医療費・介護費
第3章 高齢者の社会的入院:介護保険導入後に減少したか
第3章補論 連続入院期間から定義した「社会的入院」規模の推計
 第II部 政策効果の分析
第4章 通所リハビリテーションの提供体制:介護費への影響
第5章 介護予防給付:状態像への影響
第6章 特定健診・特定保健指導:「平均への回帰」への対処
 第III部 政策立案の支援
第7章 国民健康保険の財政予測
第8章 これからの健康政策への提言
補論 プログラム評価の計量経済分析

 以下,「立ち読み」用に,「はしがき」のさわり(中核部分を少しだけ短くしたもの)掲載します。

 近年は矢継ぎ早に医療・介護制度の改革が実施されている。重点が置かれている施策としては,(1)支払方式がもつインセンティブによって患者と医療・介護サービス提供者の行動を誘導すること,(2)サービス提供体制を改革し,整備すること,(3)疾病・虚弱の予防に取り組むこと,の3点をあげることができる。
 経済的インセンティブに関係する施策は当然,経済学的分析が進んできたものの,後者の2つの分野の施策の評価には医学的視点が必要になってくるので,経済学者による分析は相対的に遅れているといえる。しかしながら,使用される資源への影響や政策の因果効果の推定には,経済学的分析が有用である。また,費用の適正化(削減)を図る経済的インセンティブの付与は保険機能の低下という副作用とのトレードオフに直面するが,ニーズに合致するようにサービス提供体制を変えていく施策は,費用の低下と質の向上のどちらか,あるいは両方を達成できる潜在的可能性があるという点から,現在の問題を改善するためには効果的であることが期待され,そのあり方について研究することは重要と思われる。
 ところが,これらの制度改革によって保険財政やQOLの改善がみられたかどうかは定かではなく,「政策評価」が十分に行われているとは言い難い。その背景には,わが国の医療・介護分野の政策決定が高度に政治的であり,PDCA(plan-do-check-act)サイクルが十分に根付いていないことがまず挙げられる。
 このことは,ニーズに合わせたサービスを提供する施策の推進に当たって,深刻な問題となる。こうした施策が有効となる背景には,施策の評価を行う仕組みが組み込まれていないため,現状の提供体制がニーズに適切に対応していないことがある。すると,PDCAサイクルが根付かないまま施策を推進すれば,それは問題をもたらす原因を放置して,問題の解決に向かう愚を犯していると言える。現在の医療・介護制度改革において,根拠に基づく政策立案ができる体制を実現することは,改革の成果をより大きくするということではなく,そもそも改革を成功させるための前提条件なのである。
 厳密な政策評価を行うことを極めて困難にしている問題に,そもそも医療・介護分野で利用可能なミクロデータが非常に未整備な状況であるという課題も存在する。
 この問題は,都道府県や市町村ではさらに深刻である。近年の医療・介護制度改革では,地域別の政策立案・評価が重要になりつつある。しかしながら,こうした地域単位の政策立案・評価に必要なデータ資源は,全国単位のそれに比べてさらに未整備な状態である。そこで我々の研究班は,健康施策の先進県である福井県の全面協力を得て,同県をフィールドにして,地域医療・地域介護における「根拠に基づく保健政策」のパイロット・スタディーを実施することにした。
 幸いにも,西川一誠福井県知事の強力なリーダーシップに支えられ,2009年度からは,福井県と東京大学高齢社会総合研究機構による共同研究の一環として,本格的な研究を実施する機会を得た。具体的には,福井県国民健康保険団体連合会が共同電算処理で管理している調査客体について,医療保険(国民健康保険)レセプト,介護保険レセプト,特定健診・特定保健指導データの情報を個人間で接合した「総合的パネルデータ」を構築し,それをベースに様々な政策研究や政策評価を行ってきた。
 個人の受けた医療・介護サービスの情報を連結するデータベースの構築は,これまでもいくつかの研究プロジェクトで試みられてきたものの,いずれも単一の市町村や病院単位など,小規模かつ試行的なものでしかなかった。福井県の全市町という大規模なフィールドで,このような「ビッグデータ」を構築したことは,その時点において,画期的な取り組みであったと言えよう。また,特定健診データも,制度開始時から接合可能な形でデータベースに組み込まれている。本書は,この貴重なデータを用いて,これまで4名の共著論文の形で学会,学術雑誌等に発表してきた共同研究の成果をまとめたものである。

日本経済新聞・経済教室「過剰な景気対策,副作用大」

 9月8日の日本経済新聞朝刊の経済教室欄に拙稿「過剰な景気対策,副作用大」が掲載されました。「財政・金融政策の行方」シリーズの初回になります。これは日銀が今月,異次元緩和を総括することに連動した企画です。拙稿では8月に決定された経済対策(そのなかの財政出動)の評価を中心にしていますが,金融政策との併用についても触れています。

 経済状況の概観は循環面では順調,構造面では課題あり,ということで失業率,GDPギャップ(需給ギャップ),潜在成長率の現況に触れています。最終稿では削除されましたが,以下の文章を用意していました。

8月の月例経済報告は「景気は、このところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている」としている。8月24日に発表になった景気動向指数(CI一致指数)の基調判断は「足踏みを示している」とあるが,先行指数は昨年後半から低下したものの,今年に入って持ち直している。

 景気動向指数の基調判断は,ここ(PDF file)にあるように厳密に定義されており,政権の都合で左右できるようなものではなくなりました。景況判断を人工知能にやらせようという話は以前からありますが,人工知能がよく話題に出る現在では,財政出動の判断も人工知能にやらせるというのも突飛な話ではありません(おそらく人工知能には簡単な問題でしょうが)。
 人工知能まで行かなくても,科学的・客観的な判断基準を作れないか,とは常々私も考えています。とはいいながら,財政出動の是非は人によって判断が分かれ,いつも論争になります。学者が書いている文章なので学術研究を引用して立論の根拠を示して然るべきですが,今回の記事のテーマでは両論ある側の片側の意見を引用するようなことになるのを避け,あえて引用はせずに個人の意見としてまとめました。
 新聞への寄稿では学術的に難しいことは避けて一般読者向けに書くべきことはわかっていますが,それでも難しいことに触れる必要があって,いつも大変な思いをしています。それが今回の記事ではありませんでした。いつもの労力が今回は必要なかったという意味では個人的にはいいことですが,じつは社会にとってはよくないことです。

 経済学者が政策について文章を書くと,政策の9割がほめるところであっても,1割の問題に注目して,ここが悪い,こうすればもっとよくなる,という書き方をしてしまうものです。政策担当者は良い政策を作ろうと努力しているものですから,一般の人がすぐにおかしいと気づく間違いが実際に起こってしまうことはなかなかありません。したがって,政策の実際の課題というのは,専門的な研究の蓄積でつきとめられたことや,一般の人にはなかなか気づきにくいことになり,それを扱う文章をわかりやすく書くことで苦労を背負い込むことになります。そして私の場合,書き切れなかった専門的なことを,こちらのブログに(こちらでもやさしくしていますが)書いたりします。
 ところが今回の記事は,現在の財政政策の大枠について概ね批判的ですが,その論旨に技術的に補足すべきところがほぼありません。趣旨は「政府が景気は回復基調にあると判断しているのに財政出動するのはおかしい」と,簡単です。つまり,きわめてわかりやすいレベルでおかしな政策が展開されているということです。それは,世の中にとってはよくないことです。

 政策に関する記事を書くときに想定する読者は一般の読者に加え,政策担当者です。90点の政策に対して95点を目指せと叱咤する記事の場合は,90点の政策を作る政策担当者は良い政策に対しての知識が十分にあり,かつ向上心もある方ですから,「もうちょっとほめてくれよ」と愚痴を言いながらも,批判に耳を傾けてくれます。明白におかしな方向に行った政策を作る人は,何か別の信念をおもちで,当たり前の批判にも耳を傾けずにそうなってしまったので,今さら耳を傾けてくれません。
 政策担当者に向けて,という意味がなくなる論考を書くのは気落ちするのですが,経済学をきちんと活かすことで何とかモチベーションを保とうとしています。

道理がない消費税増税延期

 安倍首相は,1年半前に衆議院を解散した際の記者会見(2014年11月21日)で,消費税について以下のように発言しました。
 
 消費税の引上げ延期は野党がみんな同意している。だから、選挙の争点ではないといった声があります。しかし、それは違います。野党の人たちは、ではいつから10%へ引き上げるのでしょうか。その時期を明確にしているという話を、私は聞いたことがありません。そこは極めて大切な点であります。財政を立て直し、世界に誇るべき社会保障制度を次世代へと引き渡していく責任が私たちにはあります。私たち自民党・公明党、連立与党はその責任をしっかりと果たしてまいります。
 そのために、平成29年4月から確実に消費税を引き上げることといたします。今回のような景気判断による延期を可能とする景気判断条項は削除いたします。本当にあと3年で景気が良くなるのか。それをやり抜くのが私たちの使命であり、私たちの経済政策であります。

 消費税の増税時期を明確にしたことを衆院選の争点とし,それは2017年4月であり,景気判断による延期はしない,ということが選挙公約となり,衆院選後にここで約束した通りの法律が成立し,公約は実現しました。消費税増税だけをとれば生活にはマイナスですが,国民が享受する公共サービスを支えるために必要なものであり,増税を先送りにすることは弊害があるからこそ,時期を明確にして先送りしないことが強調されているものと思います。

 安倍首相は6月1日の記者会見で,2014年の発言に関して,以下のようにのべています。
 
 1年半前、衆議院を解散するに当たって、正にこの場所で、私は消費税率の10%への引上げについて、再び延期することはないとはっきりと断言いたしました。リーマンショック級や大震災級の事態が発生しない限り、予定どおり来年4月から10%に引き上げると、繰り返しお約束してまいりました。
 世界経済は今、大きなリスクに直面しています。しかし、率直に申し上げて、現時点でリーマンショック級の事態は発生していない。それが事実であります。
 熊本地震を「大震災級」だとして、再延期の理由にするつもりも、もちろんありません。そうした政治利用は、ひたすら復興に向かって頑張っておられる被災者の皆さんに大変失礼なことであります。
 ですから今回、「再延期する」という私の判断は、これまでのお約束とは異なる「新しい判断」であります。「公約違反ではないか」との御批判があることも真摯に受け止めています。

 この「新しい判断」について,安倍首相の発言を引用します(実際には,上の引用箇所よりも前の発言になります)。
 
 しかし、世界経済は、この1年余りの間に想像を超えるスピードで変化し、不透明感を増しています。
 最大の懸念は、中国など新興国経済に「陰り」が見えることです。(中略)
 こうした世界経済が直面するリスクについて、G7のリーダーたちと伊勢志摩サミットで率直に話し合いました。その結果、「新たに危機に陥ることを回避するため」、「適時に全ての政策対応を行う」ことで合意し、首脳宣言に明記されました。
(中略)
 私は、世界経済の将来を決して「悲観」しているわけではありません。
 しかし、「リスク」には備えなければならない。今そこにある「リスク」を正しく認識し、「危機」に陥ることを回避するため、しっかりと手を打つべきだと考えます。
 今般のG7による合意、共通のリスク認識の下に、日本として構造改革の加速や財政出動など、あらゆる政策を総動員してまいります。そうした中で、内需を腰折れさせかねない消費税率の引上げは延期すべきである。そう判断いたしました。

「今そこにある『リスク』を正しく認識し、『危機』に陥ることを回避するため、しっかりと手を打つべき」とは,まさにその通りです。しかし,その打つ手が真っ先に消費税増税延期になるのは,道理がありません。
 まず,これは世界経済の危機を回避するための手段に入りません。現在の新興国経済の規模は日本経済よりもはるかに大きく,日本が財政出動すれば新興国経済の問題が解決して危機が回避されるわけではありません。増税を延期してもしなくても,新興国発の世界経済の危機は起こるときには起き,起きないときには起きません。これは震災に似ています。増税を延期してもしなくても,南海トラフ地震は起きるときには起き,起きないときには起きません。
 危機の回避ができないとしても,危機が起きたときに日本経済への影響を緩和する対応(一種の防災・減災)になるかといえば,それもなりません。安倍首相が示した「適時」にはならないからです。財政政策は,大きく低下した国内の民間需要を埋め合わせるためにおこなわれます。リーマンショック時の世界的な金融危機に対して各国は大規模な財政刺激をおこないましたが,それは危機「後」のことです。危機「前」にはまだ需要が落ち込んでいませんから,政策効果がありません。震災前に復興事業をやるようなものです。
 道理がなければ,消費税増税は2014年の約束通りに進めるべきでしょう。

 サミット合意文書で「全ての政策対応を行う」や安倍首相の「あらゆる政策を総動員」は,いくら資金をつぎ込んでも,いくら経済活動を犠牲にしても政策を実行していかなければいけない,という意味にはなりません。リスクへの対処が困難で複雑なため,さまざまな政策手段が必要だと考えられることと,どれが適切な手段かがいまは明確でないことから,選択肢を狭めないという意味です。適切な手段がわかってくれば,それを明確に示すような表現に変わってくるでしょう。
 適切な手段を発見し,総動員するには,関係する政府組織の知恵も総動員しなければなりません。首相周辺のごく少数の人間だけで取り組めば,その人間の知恵の範囲に縛られて,道理に合わないものが出てきても不思議ではありません。

(関係する過去記事)
新興国経済の(が)大きい問題




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