【特定財源制度の是非】
道路特定財源制度は一定の条件が整えば合理性をもつ,という経済学での理論的基礎付けは存在する。これは,燃料税を道路利用料を徴収する次善の手段と位置づける。適切な税率が設定されており,税収をすべて道路の建設・維持管理に向けると,効率的な道路の供給がされる。
ただし,適切な税率の設定と適切な予算配分ができれば,燃料税を一般財源にして,同額の予算で適切な道路整備をすることもできるので,一般財源と特定財源に優劣はつかない。
適切な税率が設定できても適切な予算配分ができなければ,一般財源では問題が生じるので,特定財源制度がよい。適切な税率が設定されなければ,一般財源でも特定財源でも,政治的決定がもたらす問題が生じる。問題が小さい方を選択すればよいが,残念ながら経済学者は問題の大きさを高い精度で推定できていない。国会での議論を経て,意思決定されるべきだろう。
【暫定税率】
国では,特定財源収入が道路整備費を上回っている。現行の暫定税率のまま特定財源を維持することは無理である。税率をどうするかは,地球温暖化問題も踏まえて考えていかなければいけない。
暫定税率を維持する政府案は,一般財源化も名ばかりであり(「政府法案で道路特定財源は一般財源化されるのか」を参照),地球温暖化問題の考え方も整理できていない。
地方は,道路投資が特定財源収入を上回っており,一般財源が道路のために使われている。一般財源の投入は,生活道路では周辺の地価の上昇で便益が及ぶので,固定資産税を財源とする考え方で正当化を図ることができる。
民主党案は,暫定税率を廃止しながら,地方の道路投資を維持するとしているが,一般財源をさらに投入することに合理的な根拠は見出せない。
こうした与野党の考え方のおかしいところは,すでに常識的な議論でも理解されているので,大きなところでは経済学を踏み外してはいないといえるだろう。
【取得・保有課税】
経済学の考え方とずれが生じているのは,燃料税以外(取得・保有段階)の自動車関係諸税の扱いである。適切な道路利用料は道路利用に応じて,かつ道路の混雑事情に応じて,徴収しなければならい。ガソリン消費は走行距離にかなり比例するものの,燃料税も完全な道路利用料とはならないという問題がある。取得税や保有税は,自動車を動かしても動かさなくても課税されるので道路利用との関係がさらに薄く,燃料課税に劣る税である。道路整備の財源調達手段とする理由がない。地方では自動車は必需品という主張に説得力がある以上,ぜいたく品課税という根拠も成立しない。
かりに減税するなら,燃料税ではなく,取得・保有課税が先である(あるいは,取得・保有課税を燃料税に振り替える)。経済学的に考えると,民主党がまず立ち上げるべきなのは「車検法定費用値下げ隊」であろう。メディアと国民の関心も,ガソリンが安くなるかどうかに向かっており,経済学的に見た場合に問題のある取得・保有課税がもっと議論の前面に出てこないのは残念だ。
(もう少し経済学用語を使った,道路特定財源制度の合理性の説明)
・道路の建設・維持管理のライフタイムでの費用をどう調達するか,として道路建設の意思決定の問題を考える。
・道路利用で生じる混雑と,燃料消費が環境へ与える負荷をとりあえず無視する。
・道路の利用料が徴収でき,競争的な価格形成ができれば,市場メカニズムに基づいて,効率的な道路の利用と供給ができる。
・道路の建設・維持管理の平均費用が一定(規模に関する収穫一定)の場合,利用料収入が道路の総費用に充てられる。なぜなら,
規模に関する収穫一定から,平均費用=限界費用
競争的価格形成から,価格=限界費用
よって,利用料収入=価格×利用量=平均費用×利用量=総費用
・道路利用料の徴収は実務上困難であり,利用料を徴収する次善の手段として,燃料税を用いる。競争的価格に相当する税率が設定され,税収が道路の建設・維持管理費用に充当されれば,上と同じ効率的な道路の利用と供給ができる。
(参考)
同僚の金本良嗣教授による「道路特定財源制度の経済分析」が,下記のURLよりダウンロード可能である。道路特定財源制度の経済学的な意味と,適切な税率の考え方と数量的な評価が要領よくまとめられており,有益である。
http://www.e.u-tokyo.ac.jp/~kanemoto/kane_jis.html
国土交通省道路局 財源
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-funds/ir-funds.html
民主党 道路特定財源制度改革
http://www.dpj.or.jp/special/douro_tokutei/index.html
道路特定財源制度は一定の条件が整えば合理性をもつ,という経済学での理論的基礎付けは存在する。これは,燃料税を道路利用料を徴収する次善の手段と位置づける。適切な税率が設定されており,税収をすべて道路の建設・維持管理に向けると,効率的な道路の供給がされる。
ただし,適切な税率の設定と適切な予算配分ができれば,燃料税を一般財源にして,同額の予算で適切な道路整備をすることもできるので,一般財源と特定財源に優劣はつかない。
適切な税率が設定できても適切な予算配分ができなければ,一般財源では問題が生じるので,特定財源制度がよい。適切な税率が設定されなければ,一般財源でも特定財源でも,政治的決定がもたらす問題が生じる。問題が小さい方を選択すればよいが,残念ながら経済学者は問題の大きさを高い精度で推定できていない。国会での議論を経て,意思決定されるべきだろう。
【暫定税率】
国では,特定財源収入が道路整備費を上回っている。現行の暫定税率のまま特定財源を維持することは無理である。税率をどうするかは,地球温暖化問題も踏まえて考えていかなければいけない。
暫定税率を維持する政府案は,一般財源化も名ばかりであり(「政府法案で道路特定財源は一般財源化されるのか」を参照),地球温暖化問題の考え方も整理できていない。
地方は,道路投資が特定財源収入を上回っており,一般財源が道路のために使われている。一般財源の投入は,生活道路では周辺の地価の上昇で便益が及ぶので,固定資産税を財源とする考え方で正当化を図ることができる。
民主党案は,暫定税率を廃止しながら,地方の道路投資を維持するとしているが,一般財源をさらに投入することに合理的な根拠は見出せない。
こうした与野党の考え方のおかしいところは,すでに常識的な議論でも理解されているので,大きなところでは経済学を踏み外してはいないといえるだろう。
【取得・保有課税】
経済学の考え方とずれが生じているのは,燃料税以外(取得・保有段階)の自動車関係諸税の扱いである。適切な道路利用料は道路利用に応じて,かつ道路の混雑事情に応じて,徴収しなければならい。ガソリン消費は走行距離にかなり比例するものの,燃料税も完全な道路利用料とはならないという問題がある。取得税や保有税は,自動車を動かしても動かさなくても課税されるので道路利用との関係がさらに薄く,燃料課税に劣る税である。道路整備の財源調達手段とする理由がない。地方では自動車は必需品という主張に説得力がある以上,ぜいたく品課税という根拠も成立しない。
かりに減税するなら,燃料税ではなく,取得・保有課税が先である(あるいは,取得・保有課税を燃料税に振り替える)。経済学的に考えると,民主党がまず立ち上げるべきなのは「車検法定費用値下げ隊」であろう。メディアと国民の関心も,ガソリンが安くなるかどうかに向かっており,経済学的に見た場合に問題のある取得・保有課税がもっと議論の前面に出てこないのは残念だ。
(もう少し経済学用語を使った,道路特定財源制度の合理性の説明)
・道路の建設・維持管理のライフタイムでの費用をどう調達するか,として道路建設の意思決定の問題を考える。
・道路利用で生じる混雑と,燃料消費が環境へ与える負荷をとりあえず無視する。
・道路の利用料が徴収でき,競争的な価格形成ができれば,市場メカニズムに基づいて,効率的な道路の利用と供給ができる。
・道路の建設・維持管理の平均費用が一定(規模に関する収穫一定)の場合,利用料収入が道路の総費用に充てられる。なぜなら,
規模に関する収穫一定から,平均費用=限界費用
競争的価格形成から,価格=限界費用
よって,利用料収入=価格×利用量=平均費用×利用量=総費用
・道路利用料の徴収は実務上困難であり,利用料を徴収する次善の手段として,燃料税を用いる。競争的価格に相当する税率が設定され,税収が道路の建設・維持管理費用に充当されれば,上と同じ効率的な道路の利用と供給ができる。
(参考)
同僚の金本良嗣教授による「道路特定財源制度の経済分析」が,下記のURLよりダウンロード可能である。道路特定財源制度の経済学的な意味と,適切な税率の考え方と数量的な評価が要領よくまとめられており,有益である。
http://www.e.u-tokyo.ac.jp/~kanemoto/kane_jis.html
国土交通省道路局 財源
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-funds/ir-funds.html
民主党 道路特定財源制度改革
http://www.dpj.or.jp/special/douro_tokutei/index.html