7月9日の日本経済新聞朝刊の経済教室欄に拙稿「財政運営の前提に甘さ」が掲載されました。「成長戦略の総括」シリーズの第2回になります。
 拙稿は以下のように,今後の財政運営の戦略と関係しています。

 6月に骨太の方針と改訂成長戦略がまとまり,今年後半には来年度の消費税率引き上げに加えて,2020年度までに国と地方の基礎的財政収支を黒字化する目標をどう達成するか,という財政運営の戦略を検討する必要がある。その際の経済成長率の設定は昔から大きな争点であり,小泉政権後期には「上げ潮」派と「財政タカ」派の対立がずいぶん騒がれた。将来の成長率は不確定なので,どちらが正しい見通しなのかを事前に問うても答えはない。
 財政運営の前提として,高めの成長率(安倍政権での「中長期の経済財政に関する試算」[2014年1月20日,内閣府]では「再生ケース」)をとるのか,低めの成長率(「参考ケース」)をとるのかは,以下のような違いになる。
 第1は,財政健全化のスピードの違いである。経済状況が良ければ税収が増えて財政収支は改善し,目標達成時期が早まるが,経済状況が悪ければ目標達成は遅れる。「再生ケース」で目標達成を図ると,高めの成長率が出た場合には2020年度に目標が達成されるが,低めの成長率が出た場合には達成は2020年度より遅れる。「参考ケース」で目標達成を図ると,高めの成長率が出た場合には2020年度よりも早く目標が達成され,低めの成長率が出た場合には2020年度に目標が達成される。
 第2は,目標達成の目算の違いである。「再生ケース」で目標達成を図ると,高めの成長率が出た場合には目標が達成できるが,低めの成長率が出た場合には目標が達成できない。「参考ケース」で目標達成を図ると,高めの成長率が出た場合も低めの成長率が出た場合も目標は達成される。

 どちらの戦略が良いか。私見では,以下のような理由で「参考ケース」で目標達成を図るのが良い。
 第1に,財政健全化目標の達成は,現在のような高債務水準で引き続き国債を市場で消化するために,市場に対して約束するものである。低い成長率が出る可能性が多分にあると,「再生ケース」で目標達成を図れば目標が達成できない可能性が多分にあるので,約束になっていない。
 第2に,高齢化が進み,社会保障費が今後も増加するので,財政健全化のペースを速めるほど,将来の負担を減らすことができ,負担の平準化を図ることができる。

 逆に,「再生ケース」が良いとなるには,高い成長率が確実に見込まれる,財政健全化のペースは遅い方が良い,という根拠が必要だ。前者について,成長戦略によって高い成長率が確実に見込まれるか,を検討したのが今回,日本経済新聞に寄稿した拙稿である。
 そこでは成長が確実に見込まれないという結論になっており,成長戦略に否定的な印象を与えるかもしれないが,成長戦略に反対しているわけではない。「参考ケース」で目標達成を図ることは,低い成長率が望ましいことを意味するわけではないからだ。