3月4日の日本経済新聞朝刊の経済教室欄に拙稿「『官製春闘』,経済かく乱も」が掲載されました。「賃上げ2巡目の論点」シリーズの初回になります。
 拙稿は官製春闘に批判的なのですが,賃上げをするな,という主張ではなく,賃金決定への介入方法が経済原則を逸脱して問題だという趣旨です。政府が賃上げを直接要請するのはあきれた話ですが,新聞で「どこの阿呆が考えついたのか」と悪態をつくわけにはいかないので,落ち着いて経済学の常識的観点から問題点と代替策を示すようにしています。

 建設的な意見とするために,拙稿ではまず,実質賃金の向上を図るには何をすれば良いか,という問題設定をしました。そして,実質賃金(名目賃金/消費者物価)を

(名目賃金/名目GDP)×実質GDP×(GDPデフレータ/消費者物価)

と3項目に分解します。ここでは,海外との要素所得のやりとりを捨象して,GDPデフレータと輸出財価格が同じ動きをすると想定します。
 これにより,労働分配率の上昇,生産性向上,交易条件の改善が実質賃金を上げることになると整理でき,拙稿ではその順番で論じています(順番は,朝に記事をざっと読むときの都合の良さを考慮して決めました)。最初の「労働分配率の上昇」では所得分配と企業統治,2番目の「生産性向上」は経済成長,最後の「交易条件の改善」は国際貿易とマクロ経済の問題が関わっており,1つの問題設定を考えるのに幅広い分野の経済学の知識が使われることになります。
 拙稿の課題に関連する最近の分析には,今年1月に出された『日本経済2014-2015』(内閣府)の第2章第2節(PDF file)があります。ときの政権の方向性がおかしいと内閣府の経済分析も歪められかねず,財政運営やデフレ脱却ではそういう症状が出ていますが,官製春闘に関わるこの箇所は,何とか踏みとどまっておおむね堅実な分析がされています。

 余談ですが,私は常用漢字表外字を含む「乖離」,「攪乱」をよく使います。今回の原稿では前者は「隔たり」に言い換えましたが,表題にも使われた後者はうまくいかず,ひらがな交じりになってしまいました。

[追記:2015年3月8日]
 新聞掲載の拙稿にある,
日銀は物価上昇の予想を形成するため、13年4月に量的・質的金融緩和を導入し、2年程度で2%の消費者物価上昇率を目指すとした。しかし2年が経過しようとするなかで、原油安の影響などで消費者物価上昇率はゼロ%付近まで落ち込む見通しである。結果として物価上昇も賃金上昇も起こらなかったといえる。
について,Twitterで
「結果として物価上昇も賃金上昇も起こらなかった」とのことですが、2014年に物価は上がっております(その結果、実質賃金も前年同月比割れがずっと続いています)。この点についてはどのようなお考えをお持ちでしょうか。
という質問を頂きました。
 ここは,日銀が目指す物価上昇(物価が持続的に2%上昇すること)は起こらなかったという文意です。この箇所を含む拙稿の後半部は基調的な物価上昇に関する議論であることをおわかりいただけると考え,簡潔に「物価上昇」と書いています。