2007年度補正予算についてのことだが,2008年度予算とも密接に関わる話でもある。
 福田首相が総裁選で公約とした高齢者の医療費負担を軽減する施策が,2007年度補正予算に高齢者医療制度円滑導入関係経費1719億円として盛り込まれた。2006年の医療制度改革で高齢者の負担増が決まったが,これを1年間凍結ないし軽減するもの。2008年4月から70~74歳の医療費自己負担を1割から2割に引き上げる措置を1年間凍結する。同時期に発足する高齢者医療制度の保険料(75歳以上の高齢者が負担)を9月まで凍結,10月から2009年3月まで9割軽減する。
 この措置は,財政法が定める「会計年度独立の原則」に反する。
 財政法第12条に,「各会計年度における経費は、その年度の歳入を以て、これを支弁しなければならない。」という規定がある。今回の負担軽減のための財政支出は誰がどう見ても2008年度の経費であり,これは2008年度予算に計上して,2008年度の歳入をあてるべき,というのが財政法の意図である。
 会計年度独立の原則の例外として,繰越がある。財政法第14条の3では,「その性質上又は予算成立後の事由に基き年度内にその支出を終らない見込のあるものについては、予め国会の議決を経て、翌年度に繰り越して使用することができる」とされている。しかし,今回の経費は翌年度に発生することが最初から明白なので,繰越で処理することはおかしい。

 今回の措置となったことには2つの事情がからむと推測されている。第1に,2008年度当初予算には年金・医療等の経費を自然増の水準から2200億円削減するというシーリングがあり,新たな歳出増を盛り込むことが難しかった。第2に,当初予算に入れることで軽減措置が恒久化する流れになることを回避した。
 かりに財政法に違反するとしたらどれだけ深刻な問題かといえば,きわめて深刻というものでもない。会計年度独立の原則を置く趣旨は,財政規律を守るためである。翌年度の歳入を今年度の経費の財源としてもよい,さらには100年後の歳入でもよい,ということになれば,いくらでも借金してよいことと同じになる。ただし,今回の措置は逆方向の年度不一致であり,今年度の歳入を翌年度の経費に充てている。これは貯蓄になるので,財政規律が損なわれる話ではない。また,1年限りの措置であれば,1年経過すれば,歳出を2007年度にしたか2008年度にしたのかの違いは消えてしまい,後に尾を引く話ではない。弊害があるとすれば,透明性が損なわれることである。
 また,そもそも赤字国債も歳入に含めて予算編成している現状では,当年度の歳入が将来の税収であったりするので,会計年度独立の原則を振りかざせば,財政規律が保てるわけでもない。この意味では,財政法にこだわってもどうか,財政法の規定にも課題がある,という考え方もあり得る。

 しかし,法律は法律である。事情はどうであれ,法律違反の予算は作れない。今回の措置が財政法に反しないという説明が説得力をもってできるのだろうか。

(参考)
2007年度補正予算の情報は下記のURLにある。
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/h19/hosei191220.htm