「省庁別財務書類」では,産業投資特別会計(産業投資勘定)が出資する法人の資本金と純資産額の詳細が報告されている。財投機関の剰余と欠損が一覧できるという,重宝な資料である。欠損が生じている機関については,その機関の事業と財投の関与の妥当性を検討すべきであろう。
 今回の記事は,2005年度末で資本金166億円に対し純資産額が2.81兆円という,桁違いの剰余をもつ公営企業金融公庫の話。

 公営公庫の事業は,政府保証債を発行して地方公営企業に融資することだが,融資期間が債券満期よりも長いために,金利リスクを抱えている。それに備えた債券借換損失引当金が2005年度末の貸借対照表で2.6兆円となっていた。総資産25.9兆円の10%に及ぶ。
 この水準が妥当かどうかという問題がある。金利変動準備金は必要な額を計上して,それを上回る剰余金は国庫に納付すべきものである。低金利が続くなかで生じた剰余金が一切国庫に納付されず,公庫内に積み立てられてきたことで,引当金が形成された。またALMを通して必要な準備金を圧縮する努力もせず,漫然と融資期間よりも短期の資金調達をおこなってきた。
 公営公庫は政策金融改革の一環で,2008年10月に地方共同法人化される。公営公庫は産業投資勘定が100%出資する金融機関なので,いくらで地方に譲渡するかという問題が生じる。2006年6月に政策金融改革推進本部と行政改革推進本部が決定した「政策金融改革に係る制度設計」では,「公庫が保有する既往の資産・負債は、デューデリジェンスに基づき適切に同組織に移管・管理する」とされた。債券借換損失引当金の価値があれば,それを国庫に引き上げ,地方がその分の出資をおこなうことになるはずだが,結果的に,地方が出資なしですべてを継承することで決着した。
 ところが,新組織移行時に約3.4兆円になると見込まれる債券借換損失引当金は金利変動準備金として,1.2兆円が既往債権に対応する準備金,2.2兆円は新たな貸付業務のための財務基盤とされることになった。引当金は適正水準でもなかったし,無価値でもなかったことになる。
 どういうデューデリジェンスがされたのか,理解に苦しむ。

 今回の記事は,おっとり刀で埋蔵金を探しにきたら,誰かに召し上げられていましたというお話である。引当金を地方が継承する理由として,剰余は地方が支払う金利で形成されたという主張が平然と横行していた。融資で生じた利益は出資者に帰属するのが,民間での常識である。政策金融改革のときに世論の関心がもう少し高ければ,民間の常識では考えられない話がまかり通ってしまうことは避けられたかもしれない。

 世論の関心はときに興味本位であったり,変な方向に議論が流れることもある。それに振り回されることなく,問題の本質をとらえることが経済学者の役割である,霞が関埋蔵金ブームに便乗して,記事をシリーズ化したことは,一緒に流されてしまう危険もはらむ。しかし,改革を進めるには世論の関心が重要であることが,公営公庫の教訓である。正しい方向へ世論を喚起するように,この機会を少しでも利用したいと思う。

(参考文献)
「公営企業金融公庫の廃止」(国立国会図書館 調査と情報No. 556)
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0556.pdf

(参考)
「政策金融改革に係る制度設計」
http://www.gyoukaku.go.jp/news/h19/news0313_2.html

「公営企業金融公庫廃止後の新組織について」(総務省・財務省)
http://www.gyoukaku.go.jp/genryoukourituka/dai24/siryou1.pdf