2月5日の参議院予算委員会の質疑で,額賀財務相が,政府法案では道路財源が一般財源化された分が将来の道路財源になる旨の答弁をしたそうだ。

「<参院予算委>道路特定財源の使途などで必死の防戦 政府」(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080205-00000118-mai-pol

 答弁内容は事実である。そういう法案を政府が提出しているので,具体的に見てみよう。
 なお,道路特定財源制度の趣旨は,

  特定財源収入(決算)=道路整備費(決算)

となることであるが,予算額と決算額が食い違う場合の調整の規定が予算には入るため,議論がややこしくなる。議論を簡明にするため,以下では予算と決算が一致すると仮定して,一般財源化の本質にかかわる議論にしたい。

 内閣提出の改正法案では,道路特定財源を定める「道路整備費の財源等の特例に関する法律」を改正して,法律名も「道路整備事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律」に改める。改正法案での一般財源化に関連する第3条第1項と第3項は,以下のようになっている。

国土交通省による法案の概要の解説が,下記のURLにある。

「道路整備費の財源等の特例に関する法律の一部を改正する法律案の概要」
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha08/06/060123_.html

第3条
 政府は、平成二十年度以降十箇年間は、毎年度、次に掲げる額の合算額に相当する金額を道路整備費の財源に充てなければならない。ただし、その金額が当該年度の道路整備費の予算額を超えるときは、当該超える金額については、この限りでない。
一 当該年度の揮発油税等の収入額の予算額
二 当該年度の前年度以前で平成二十年度以降の各年度の揮発油税等の収入額の決算額(当該年度の前年度については、揮発油税等の収入額の予算額)の合計額が当該各年度の道路整備費の決算額(当該年度の前年度については、道路整備費の予算額)の合計額を超えるときは、当該超える額
2 (略)
3 政府は、平成二十九年度末における第一項各号に掲げる額の合算額が当該年度の道路整備費の予算額を超えるときは、平成三十年度以降の各年度の道路整備費の予算額の合計額が当該超える額に相当する金額に達するまでの間、毎年度、当該超える額の全部又は一部に相当する金額を道路整備費の財源に充てなければならない。


「揮発油税等の収入額の予算額(決算額)」とは,「一会計年度の揮発油税の収入額の予算額(決算額)の全額に相当する金額及び当該会計年度の石油ガス税の収入額の予算額(決算額)の二分の一に相当する金額の合算額」を指す。
 この条文を,具体的に2008年度以降の予算に即して当てはめていくと,下記のようになる。
(2008年度)
 2008年度に道路整備費の財源に充てなければいけない金額は,第3条第1項の規定より,

  2008年度の揮発油税等収入

となる。そして,それを道路整備費が下回る部分が一般財源化がされることになるが,それは

  2008年度の揮発油税等収入-2008年度の道路整備費=2008年度の「一般財源化」部分

と表される。
(2009年度)
 翌年度の2009年度に道路整備費の財源に充てなければいけない金額は,第3条第1項が規定する2つの項目,

  2009年度の揮発油税等収入
  2008年度の揮発油税等収入-2008年度の道路整備費=2008年度の「一般財源化」部分

の合算額となる。そして,この財源から道路整備費に使われなかった部分が一般財源化される。

  2009年度の道路整備費の財源-2009年度の道路整備費=2009年度の「一般財源化」部分

 合算額をもとの2つの項目に置き直すと,

  2008・2009年度の揮発油税等収入-2008・2009年度の道路整備費=2009年度の「一般財源化」部分

となっている。
(2017年度)
 あとは,同様の計算が繰り返されるので,一気に最終年度の2017年度を説明する。2017年度に道路整備費に充てなければいけない金額は,

  2017年度の揮発油税等収入
  2008~2016年度の揮発油税等収入-2008~2016年度の道路整備費=2016年度の「一般財源化」部分

の合算額である。そして,一般財源化される部分は,

  2017年度の道路整備費の財源-2017年度の道路整備費=2017年度の「一般財源化」部分

となる。合算額をもとの2項に直して当てはめると,

  2008~2017年度の揮発油税等収入-2008~2017年度の道路整備費=2017年度の「一般財源化」部分

となる。
 2017年度の「一般財源化」部分は,2008年度以降の10年間に毎年生じた,新たな「一般財源化」部分の累積額である。
(2018年度以降)
 第3条第3項は,この累積額を,2018年度以降の道路整備費に充てなければいけないことを定めている。

 額賀大臣の答弁通り,「一般財源化」された財源は翌年度の道路整備費の財源になる。別の言い方をすれば,2008~2017年度の揮発油税等収入は,2018年度以降も含めれば,道路整備費に充てなければいけないことになる。
 以上の法案の内容には,いくつか問題がある。
(1)
 果たして,これが一般財源化と呼べるのだろうか。道路特定財源の一般財源化で多くの人がイメージしているのは,揮発油税の税収が道路整備費ではなく,他の用途に使用されることである。政府法案は同年度の予算ではそのように見えるが,将来の道路整備費に充てることを定めている。その意味で,国土交通省が法案を説明した文章である

「揮発油税等の収入額の予算額に相当する金額を毎年度道路整備費に充当する措置を改め、その予算額に相当する金額が各年度において道路整備費の予算額を超える場合には、必ずしも当該年度の道路整備費に充てる必要はないものとする」

の記述は驚くほど,正しい。さらに,昨年12月の「道路特定財源の見直しについて」と題する政府・与党合意にある

「揮発油税の税収等の全額を、各年度の予算において道路整備に充てることを義務付けている道路整備費の財源等の特例に関する法律第3条の規定を改める」

の一文も,政府法案とまったく整合的である。しかし,昨年12月に政府・与党合意の文章を読んだ時点で,私はこのような仕組みになるとはまったく予想していなかっただけに,政府法案には意表をつかれた。
(2)
 もうひとつの深刻な問題は,一般財源化された部分は道路関連の経費に使う,と額賀大臣が答弁していることだ。すでに2008年度予算政府案でも,一般財源化された部分は,揮発油税等の納税者の理解を得るためとして道路関係の歳出に充てている。しかし,将来にそれと同じ金額が再び道路整備費に使われるのである。1回の税収を2回使えるわけではないので,2回目からは他の財源からまかなわれることになる。これでは,「一般財源の道路(関連)財源化」になる。


(2008年2月6日追記)
 文中に「揮発油税等収入」と「特定財源収入」を同じ意味で混在させていましたが,「揮発油税等収入」に統一しました。