日銀総裁の空席を招いた事態は国内では衝撃的かもしれないが,外国はもう少し冷静に受け止めるだろう。日本の中央銀行のことまで関心のある知的水準の人は,米国で議会多数派と大統領の支持政党が違うときに同意人事が進まないことも見てきている。Upper houseで多数派の野党の同意が得られない,と説明すれば,何が起こっているかは把握してくれる(議院内閣制なのにどうしてupper houseがそんなことをするのか,と聞き返されたら,憲法改正まで話がおよぶ統治構造をめぐる大議論になる)。
 国会同意人事は,国会のチェック機能と行政の円滑な執行をどうバランスさせるかで制度設計と運営を考える必要がある。まずは,不同意が起こり得ることを前提として,それが生み出す摩擦を最小化する工夫が必要だ。
(1) 空席は制度がまったく目的としないことなので,任期切れで空席になる事態を回避するために,後任が決まるまで前任者がその職務をおこなう規定を設ける。空席を狙ってゆさぶりをかけるような,誰が見てもチェック機能の乱用となる動きを封じる効果もある。
(2) 不同意にされた人が社会的に傷つかない配慮が政治にも国民にも求められる。国会の判断に対する議論をすれば,候補者がさらし者になる。心無い人たちが人格攻撃を始める懸念がある。メディアがそれに乗るようなことは厳に慎むべきである。不同意にされた人がさらし者になって傷つくことが続けば,誰も国会同意人事の打診を受諾しなくなる。
(3) 不同意にされたからといって,きちんとした候補者を出しているなら,政府も傷つく必要はない。不同意の結果も制度の想定内である。要は,人事が大変なだけである。(2)の条件が満たされていれば,すぐにつぎの案を出していけばよい。

 一番難しいのが,野党側の対応だろう。
 経済政策では賛否両論があるのが常である。金融政策では,金利を上げれば借り手は困るし,金利を下げれば貸し手が困る。どういう金利に対しても批判することが可能だ。政策に関わる経歴の候補者が野党の反対する政策に関与していたことは,よく起こると考えられる。それでいちいち野党が反対したら,可もなく不可もない,能力があるのかないのかわからない人しか選ばれなくなってしまう。多数派となった野党側にはある程度の許容が必要だが,その線引きは難しそうだ。

 両院の同意以外の方法に変更することは,二院制の理念に関わり,憲法にもつながる問題である。
 両院の判断が違った場合に衆議院の判断を優先させる規定を設けるのは,事実上衆議院の同意のみとすることと同じである。法案なら修正妥協の余地があるが,同意・不同意の二者択一では,両院協議会を開いても無意味である(内閣総理大臣指名の憲法規定も同じで,衆議院が内閣総理大臣を指名する,とした方がすっきりする)。
 衆議院のみの同意とする案は,一院制への移行の議論になりそうである。