6月27日に経済財政諮問会議で「基本方針2008」(以下,「骨太2008」)がまとめられた。焦点になっていた社会保障費の削減については,ややこしいことになっている。歳出歳入一体改革の当初の目標を実質的に変更したのだが,目標を堅持したという言い方を通そうとしているからだ。
 一体改革の当初の計画は,5年間(2007~2011年度)で国と地方で1.6兆円の社会保障費の削減を目指すというものだった。今回の「骨太2008」は,この目標は変えずに,社会保障に対する新しいニーズについては一層の歳出削減で財源を捻出して,予算をつけるという整理になった。具体的な文言は以下の通りである(22頁)。

「1.真に必要なニーズにこたえるための財源の重点配分を行いつつ、歳出全般にわたって、これまで行ってきた歳出改革の努力を決して緩めることなく、国、地方を通じ、引き続き「基本方針2006」、「基本方針2007」に則り、最大限の削減を行う。
2.重要課題実現のために、必要不可欠となる政策経費については、まずは、これまで以上にムダ・ゼロ、政策の棚卸し等を徹底し、一般会計、特別会計の歳出経費の削減を通じて対応する。
3.以上の歳出改革の取組を行って、なお対応しきれない社会保障や少子化などに伴う負担増に対しては、安定的な財源を確保し、将来世代への負担の先送りは行わない。」

 1と3は従来からの一体改革の考え方であるが,その間に新たに2がはさまった形になる。しかし,このことが1と矛盾してしまう。
 一体改革での歳出削減の数値目標は,2011年度の歳出額を自然体(現行制度が維持され,新規の歳出削減も歳出増加もおこなわない)からどれだけ減らすかという考え方で作られている。一体改革期間中に歳出増加につながる新規施策をおこなえば,それ以上の歳出削減をしないと目標の削減額を達成できない。社会保障の場合,既存の経費を1.6兆円削る一方で,例えば新規に0.3兆円の予算をつければ,それは1.3兆円の歳出削減と計算することになる。他の分野で一体改革での計画以外の新規の歳出削減を0.3兆円上積みすると「骨太2008」に加えられた2の条件を満たすが,そうすると,一体改革で分野ごとに決めた歳出削減目標から社会保障分野の削減額が小さくなり,それ以外の分野で削減額が大きくなっている。つまり,一体改革に内容の変更が生じている。

 「骨太2008」を受けた来年度の国の予算編成では,2200億円の社会保障費を削減する一方で,特別枠のようなものを設けて,社会保障の新しいニーズに予算をつけるような姿が予想される。その際には,一体改革の当初計画に沿った歳出削減と,2に相当する新規の歳出削減を区別して示してもらわないと,はたして一体改革が着実に進んでいるかどうかが確認できない。
 2006年末には,一体改革の初年度(2007年度)の予算政府案によって,一体改革の歳出削減がどのように進展しているかを説明する資料が諮問会議に出された。2007年末にも同様の説明がされるのかと思っていたのだが,そうした資料は出てこなかった。一体改革の数字は国・地方を合わせて国民経済計算ベースのものなので,それに合わせた資料を出してもらわないと,外部の人間には検証できない。すでに諮問会議の説明責任に疑問が投げかけられる状況になっているので,今年末には,来年度予算編成を踏まえた一体改革の進捗状況を,数字を出してきちんと説明すべきである。その際に,分野別の進捗状況を当初の計画と対比して示してくれと要求すれば,上にのべたような「基本方針2008」に含まれる矛盾があらわになるはずだ。

(参考)
「経済財政改革の基本方針2008」
http://www.keizai-shimon.go.jp/cabinet/2008/decision0627.html

「財政健全化の中期的目標及び平成19 年度予算案との関係について」(2006年12月26日)
2007年度予算編成によって一体改革がどう進捗しているかを説明した,諮問会議での内閣府提出資料
http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2006/1226/item3.pdf

(関係する過去記事)
2008年度予算のシーリング