10月31日の経済財政諮問会議に示された社会保障国民会議による試算では,2025年度までの社会保障・少子化対策のための追加所要額は消費税率換算で6%程度とされた(基礎年金の国庫負担割合を2分の1に引き上げるが税方式化しない場合)。2006年10月17日の諮問会議では,「給付と負担の選択肢について」(民間議員提出資料)で2025年度に至る財政運営の議論がされた。両者を比較すると,「給付と負担の選択肢について」では社会保障の国庫負担の増加分を消費税率換算すると,給付維持・負担増加ケースで4%程度,給付削減・負担維持ケースで2%程度と見積もられる(注)。それと比較して,社会保障国民会議の試算は給付増加・負担増加の方向に転換した。
 社会保障費用増加に加えて,財政収支改善も消費税増税に頼れば,必要な消費税率はもっと高くなる。私のこれまでの見積もりは,歳出歳入一体改革の路線のもとで3%程度だったが,麻生政権で歳出拡大があると,もっと増税が必要になるかもしれない。暫定的にこれを4%と置くと,消費税率は2015年度で12%程度,2025年度で15%程度がひとつの目安になる。
 2025年度以降も高齢化は進展するので,2025~2050年度の間の医療・介護費用の公費負担増加も非常に重要である。拙稿「社会保障財源としての税と保険料」(http://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/08j034.pdf )では,高齢化要因のみを考慮した場合,消費税率換算で4%程度(GDP比で約2%)と見積もっている。(2009年2月19日追記:別論文と勘違いして,拙稿を福井唯嗣京都産業大学准教授との共著論文と紹介していましたので,訂正しました。)
 以上は,散在する政府のシナリオを再構成することを意図したもので,私が望ましいと考えるシナリオではないことに注意されたい。また,実際には経済前提や医療費の動向次第で変化するものであり,幅をもって考える必要があり,数値はひとつの目安にすぎない。

 社会保障国民会議の試算は中長期的な財政運営の課題の一部を取り出したものである。諮問会議では,財政収支全体の予測を早期に発表し,国民の判断を仰いでもらいたい。

(注)
「給付と負担の選択肢について」では,2011年度から2025年度までの医療・介護費用の公費負担の伸びをGDPの1.4~1.5%と見積もっていた。これは,消費税換算で3%程度になる。2011年度までには基礎年金の国庫負担割合の2分の1への引き上げ,その他の公費負担の増加が見込まれる。これを消費税率換算1%程度と見積もると,2025年度までの費用増加は消費税率換算4%程度になる。

(参考)
「『社会保障の機能強化のための追加所要額(試算)』について」(2008年10月31日・吉川洋社会保障国民会議座長提出資料)
http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2008/1031/item3.pdf

「給付と負担の選択肢について」(2006年10月17日,有識者議員提出資料)
http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2007/1017/item2.pdf

「社会保障財源としての税と保険料」(岩本康志)(2009年2月19日:著者名を訂正しました)
http://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/08j034.pdf