16日に,2010年度予算の概算要求がまとまった。
 この予算の課題は民主党のマニフェストを実現していくことである。この作業は国家戦略室が司令塔となって進めるのかと思っていたが,国家戦略室が舞台になることはほとんどなかった。官僚まかせにせず,政治家同士で議論していたのは良いことだが,司令塔不在のため予算編成が混乱しているように見えてしまったのはどうだっただろうか。結局,マニフェストと予算の関係を示す資料は,財務省から発表された。

 マニフェストでは,初年度の新規施策の歳出項目は4.6兆円であるが,概算要求には4.4兆円が計上された(ガソリン税の暫定税率廃止2.5兆円は概算要求の歳出には含まれない)。
 マニフェストでは,施策の財源を確保することになっている。
 まず,2009年度補正予算から2.9兆円を削減したので,補正予算で計上されていた埋蔵金の活用を温存して,2010年度予算での埋蔵金活用分に充てることが予想される。
 歳出削減は,概算要求段階では1.3兆円が削減されたことになっている。
 新規施策4.4兆円と暫定税率廃止2.5兆円の合計をまかなうには,埋蔵金活用2.9兆円,歳出削減1.3兆円の他に2.7兆円の財源が必要となる。これを一層の歳出削減,埋蔵金の活用,増税を組み合わせて,政府案編成までに工面しないといけない。

 もうひとつの課題は,鳩山首相が国債発行額を増やさないと発言した「公約」である。起点は,麻生政権での2009年度補正予算の44.1兆円となっている。概算要求の歳出総額に合わせて歳入総額を95.0兆円とし,項目をあらく仮置きすると,

 税収 40兆円
 その他収入 8.2兆円
 国債発行額 46.8兆円

となる。税収が40兆円を割ると想定されるので,これをかりに40兆円と置いてみる。その他収入は今年2月時点の見通しを置いている。2009年度補正予算見直しで埋蔵金活用分が回ってくるが,これはもともと2010年度に活用される予定のものが2009年度補正予算に前倒しで活用されたので,結局もとに戻ったと想定する。
 以上の数値には,まだ暫定税率廃止分の2.5兆円が計算に入っていない。これを実行すると,国税の減収と地方の減収を補填する歳出増で2.5兆円が必要となるので,国債発行額が49.3兆円となる。「公約」の44.1兆円に抑えるには,5.2兆円の圧縮が必要になる。税収が40兆円より落ち込むと,もっと圧縮が必要になる。こちらの方が,マニフェストの新規施策をまかなう財源を確保するよりも,きびしい課題になっている。

 歳出削減はどこまで進むか。これまで

 もともと大盤振る舞いの今年度補正予算 2.9兆円(一時的)
 当初予算でまずとりかかったもの 1.3兆円(恒久的)

を削ったので,まずは肩慣らしを終えたところといえる。マニフェストでの恒久的歳出削減は9.1兆円とされているので,残り7.8兆円の削減に向けて,そろそろ本番,という段階である。マニフェストのような歳出削減が実行できるかどうかは「【政権選択選挙】民主党マニフェストの財源」で疑問を呈したが,政権のお手並みを拝見したい。

 財源がすんなり確保できなければ,マニフェストの施策を一部断念するトリアージを考える必要が生じるかもしれない。マニフェストに盛られていない新規施策がだいぶ概算要求に入ってきたが,歳出削減が進まないうちに実現できる余地はない。概算要求の段階で金額が入らない事項要求となったものは,今年度予算での実現が難しくなっている。さらに暫定税率廃止も微妙な位置づけにある。これも年末までの課題である。

 こうして苦労して予算編成しても,国債発行額が税収を上回る。2009年度当初予算と比較して財政収支は悪化している。これからどうするのかと問われても,財政運営の中期目標をもっておらず,4年間は消費税増税しない,という答えしかもちあわせていない。こういう状況を心配して,財政の中期目標をもつべきだという提言があちこちからされているが,政権はどう対応するのだろうか。

(参考)
「マニフェスト(「三党連立政権合意書」を含む)を踏まえた平成22年度一般会計概算要求額」(財務省,2009年10月16日)
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/h22/h211016a.pdf

「平成21年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」(財務省,2009年2月)
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/h21/sy2102a.htm

(関係する過去記事)
【政権選択選挙】民主党マニフェストの財源