マニフェストを実現することが悪い結果になる場合にはどうすればいいか。そのまま悪い政策を実現すれば,それを批判されて政権は支持を落とす。良い政策に変えると,マニフェストを実現しなかったと批判されて,やはり支持を落とす。どう動いても批判されるのはひどい話のように見えるが,マニフェスト選挙の趣旨からすれば,いいかげんなマニフェストを掲げて選挙に臨んだのが悪い。そういう場合は,報いを受けてしかるべきである。

 先週の政府は,来年度予算の国債発行額44兆円以下を目標とするかどうかで迷走した。この目標は民主党のマニフェストに書かれていたものではなく,選挙中に鳩山民主党代表が発言したものである。マニフェストでは,16.8兆円の財源を確保して同額の新規施策に充てるので,とくに財政収支改善の努力はしない。社会保障費の自然増があるので,財政収支はむしろ悪化する。
 麻生政権での概算要求を前提にすると,来年度予算での国債発行額は約47兆円と見積もられる(注1)。財源を確保して新規施策を実現すれば収支中立なので,そこにマニフェストを組み込んだときの国債発行額は理論的には,同額の47兆円となる。さらに,概算要求の出し直しでマニフェスト以外にも要求が膨らんでいる。
 44兆円目標とマニフェストを両立させる道は,マニフェストでの財源確保を前倒しし,新規施策の実行を後ろ倒しして,来年度は3兆円の収支改善を図るとともに,概算要求の出し直しでの余計なものを削ることである(マニフェストは4年後に16.8兆円の財源と支出が釣り合うことになっており,年度進行の自由度はある)。しかし,マニフェストで予定した財源確保がいろいろと怪しくなっており,マニフェストだけの実現も難しくなっている。来年度の財源確保の範囲に新規施策を抑えると,マニフェストの一部の実現をあきらめないといけない。国債発行44兆円枠を守るとなると,それ以上にマニフェストの実現をあきらめないといけない。

 来年度予算については,今の時点でコメントしづらい。
 編成された予算で評価をしたいが,これからどう動いても批判することになるだろう。今の時点で,考えられる選択肢のなかで最も良いと考えられるものを助言することは可能だが,その通りに予算を組んでもらっても,それを批判しなければいけなくなる。これは相当に厳しい姿勢となるが,マニフェストを有権者と政権党の契約とみなす以上,政権を「マニフェストの虜」に追い込む姿勢は崩せない(注2)。

(注1)
 麻生政権時の来年度予算概算要求での歳出総額は92.1兆円。税収を40兆円,税外収入を5兆円とすると,国債発行額は約47兆円となる。
 税収の見積もりは「マニフェスト予算」で説明したものと同じ。
 税外収入は,
(1)今年初の見積もりで,8.2兆円。
(2)今年度1次補正予算で3兆円活用することになり,3兆円減の約5兆円。
(3)鳩山政権での1次補正予算見直しで3兆円を温存して再び8兆円になる。
(4)景気対策で再び3兆円使うことになって,5兆円になる。
という経緯で,5兆円と置いた。「マニフェスト予算」執筆時は,(3)の段階だった。

(注2)
 社民党と国民新党は,民主党のマニフェストには縛られないというのは,一面では正しい。しかし,今年8月の政権選択選挙の結果から見て,連立政権は民主党マニフェストの履行の債務を負うと考えるべきである。

(関係する過去記事)
マニフェスト予算