政府が13日に決定した東京電力の福島第一原発事故の損害賠償に対する政府支援スキームの代案を提案する。

以下の3つの内容からなる特別法を制定する。
(1)原発事故以降の融資・社債による東電への資金供給には政府保証をつける。
(2)被災者への賠償額が巨額になり東電が債務超過になる場合には,100%減資した上で政府が出資し,一時国有化する。
(3)賠償支払いを終えた時点で政府は株式を売却して,東電は民間会社として再出発する。これ以降の東電への資金供給には政府保証はつけない。

 代案は,経済の基本的ルールを尊重した上で,被害者への賠償が確実におこなわれること,電力が安定的に提供されることの2つの目的を達するために必要最小限に政府が介入するものである。
 第1項は,賠償中に東電が資金繰りに行き詰まると,賠償支払いと電力供給の両面に支障が生じるので,円滑に資金が得られるようにするためである。事故後の融資・社債による資金供給には賠償責任はないと考えられるので,これらに優先弁済権をもたせるとともに,政府保証をつける。
 東電の体力で賠償できるならば,それ以上の政府の介入は必要ないので,第2項は必要なくなる。賠償額が巨額になると債務超過になって,債務調整がされた場合に損害賠償がおこなえなくおそれがある。それを避けるために,債務超過になった場合には,国有化して,東電が賠償を続けられるようにする。
 国有化は被災者への賠償を確実にするための措置なので,その役割が終了した時点で東電は民間会社に戻る。この時点で東電が資産超過であれば,政府は株式の売却益をあげられる。債務超過であれば債務調整がおこなわれる。この際の債務調整は通常の整理でよい。100%減資によって,出資分が政府の損失になる。債務が非常に大きかった場合には,政府保証した債務に対して政府の負担が発生することもある。
 当然,民間企業となった以降の資金供給に対する政府保証は必要なくなる。電力市場の活性化のためには国有企業が長く居座ることはよくない。少額の賠償請求が長く残りそうなら,その部分は政府の管理する基金として切り離し,大半の賠償が終わった時点で東電は民間会社に戻る。基金は,すべての賠償を終えた時点で清算する。

 政府案と代案の主な違いは,以下のようになる。
(1)政府案では既存株主は保護されるが,代案では株主の地位に介入しない(通常の債務調整と同じである)。
(2)政府案では社債保有者は保護される。代案では賠償金支払期間の社債の償還は保証されるが,それ以降の期間は社債保有者の地位に介入しない。
(3)政府案では原発をもつ他電力会社も賠償金を負担するが,代案ではそれはない。
(4)政府案で発生するかもしれない政府の負担は,東電の利益で支払うことができない賠償分である。代案で発生するかもしれない政府の負担は,政府の出資と保証の分である。
(5)政府案では賠償金を東電の利益で返済し終わるまで政府の関与が続くが,代案では大半の賠償金を支払い終えた時点で政府の関与は終了する。つまり,東電が通常の民間会社でない時間は,代案が短い。

(参考)
「情報BOX:原発事故賠償支援の具体的な枠組み」(ロイター,2011年5月13日)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-21081120110513

(関係する過去記事)
東京電力の一時国有化