岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます。

2007年12月

Yahoo! ブログから引っ越しました。

産業投資のリスク

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 財政投融資のうち,財政融資資金は償還確実性を精査してリスクをとらない建前であるのに対して,産業投資はリスクをとるのが役割である。このリスクの最終的な負担者は国民であり,国民にどのように説明するかが大事であるが,IR資料となる「財投レポート」をはじめとする,多くの資料ではそのことがよく見えてこない。
埋蔵金探訪(4):公営企業金融公庫」で,省庁別財務書類に産業投資の対象機関の純資産額の一覧表があることを紹介したが,これは産業投資のリスクを分析する手がかりになり得る。そこで,2005年度末で純資産額/資本金の比率が低い機関の一覧表を作成してみた。なぜこれら機関の資本が毀損しているのか,産業投資のリスクはどうなっているのか。これを足がかりにして,世論の関心が高まることを期待したい。

 財政制度等審議会にある公会計基本小委員会の専門委員をしており,公会計改革には若干の関わりがあるので,今回はその活用方法を提案してみた。

(参考)
 2005年度末の産業投資勘定の出資金の評価は決算書と省庁別財務書類で,以下のようになっている。
決算書 3.59兆円(取得原価で評価)
 JT・NTT株 0.31兆円
 その他機関 3.28兆円
省庁別財務書類 7.62兆円
 JT・NTT株 4.75兆円(市場価格で評価)
 その他機関 2.87兆円(取得原価に強制評価減適用)
ちなみに,その他機関の出資分に相当する純資産額の合計は7.28兆円である。

「産業投資特別会計(産業投資勘定)平成17年度財務書類」は下記のURLに掲載されている。
http://www.mof.go.jp/jouhou/kaikei/zaimu/190330.htm

(関係する過去記事)
埋蔵金探訪(3):産業投資特別会計(産業投資勘定)

埋蔵金探訪(4):公営企業金融公庫

「省庁別財務書類」では,産業投資特別会計(産業投資勘定)が出資する法人の資本金と純資産額の詳細が報告されている。財投機関の剰余と欠損が一覧できるという,重宝な資料である。欠損が生じている機関については,その機関の事業と財投の関与の妥当性を検討すべきであろう。
 今回の記事は,2005年度末で資本金166億円に対し純資産額が2.81兆円という,桁違いの剰余をもつ公営企業金融公庫の話。

 公営公庫の事業は,政府保証債を発行して地方公営企業に融資することだが,融資期間が債券満期よりも長いために,金利リスクを抱えている。それに備えた債券借換損失引当金が2005年度末の貸借対照表で2.6兆円となっていた。総資産25.9兆円の10%に及ぶ。
 この水準が妥当かどうかという問題がある。金利変動準備金は必要な額を計上して,それを上回る剰余金は国庫に納付すべきものである。低金利が続くなかで生じた剰余金が一切国庫に納付されず,公庫内に積み立てられてきたことで,引当金が形成された。またALMを通して必要な準備金を圧縮する努力もせず,漫然と融資期間よりも短期の資金調達をおこなってきた。
 公営公庫は政策金融改革の一環で,2008年10月に地方共同法人化される。公営公庫は産業投資勘定が100%出資する金融機関なので,いくらで地方に譲渡するかという問題が生じる。2006年6月に政策金融改革推進本部と行政改革推進本部が決定した「政策金融改革に係る制度設計」では,「公庫が保有する既往の資産・負債は、デューデリジェンスに基づき適切に同組織に移管・管理する」とされた。債券借換損失引当金の価値があれば,それを国庫に引き上げ,地方がその分の出資をおこなうことになるはずだが,結果的に,地方が出資なしですべてを継承することで決着した。
 ところが,新組織移行時に約3.4兆円になると見込まれる債券借換損失引当金は金利変動準備金として,1.2兆円が既往債権に対応する準備金,2.2兆円は新たな貸付業務のための財務基盤とされることになった。引当金は適正水準でもなかったし,無価値でもなかったことになる。
 どういうデューデリジェンスがされたのか,理解に苦しむ。

 今回の記事は,おっとり刀で埋蔵金を探しにきたら,誰かに召し上げられていましたというお話である。引当金を地方が継承する理由として,剰余は地方が支払う金利で形成されたという主張が平然と横行していた。融資で生じた利益は出資者に帰属するのが,民間での常識である。政策金融改革のときに世論の関心がもう少し高ければ,民間の常識では考えられない話がまかり通ってしまうことは避けられたかもしれない。

 世論の関心はときに興味本位であったり,変な方向に議論が流れることもある。それに振り回されることなく,問題の本質をとらえることが経済学者の役割である,霞が関埋蔵金ブームに便乗して,記事をシリーズ化したことは,一緒に流されてしまう危険もはらむ。しかし,改革を進めるには世論の関心が重要であることが,公営公庫の教訓である。正しい方向へ世論を喚起するように,この機会を少しでも利用したいと思う。

(参考文献)
「公営企業金融公庫の廃止」(国立国会図書館 調査と情報No. 556)
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0556.pdf

(参考)
「政策金融改革に係る制度設計」
http://www.gyoukaku.go.jp/news/h19/news0313_2.html

「公営企業金融公庫廃止後の新組織について」(総務省・財務省)
http://www.gyoukaku.go.jp/genryoukourituka/dai24/siryou1.pdf

2008年度予算:高齢者医療負担の軽減

 2007年度補正予算についてのことだが,2008年度予算とも密接に関わる話でもある。
 福田首相が総裁選で公約とした高齢者の医療費負担を軽減する施策が,2007年度補正予算に高齢者医療制度円滑導入関係経費1719億円として盛り込まれた。2006年の医療制度改革で高齢者の負担増が決まったが,これを1年間凍結ないし軽減するもの。2008年4月から70~74歳の医療費自己負担を1割から2割に引き上げる措置を1年間凍結する。同時期に発足する高齢者医療制度の保険料(75歳以上の高齢者が負担)を9月まで凍結,10月から2009年3月まで9割軽減する。
 この措置は,財政法が定める「会計年度独立の原則」に反する。
 財政法第12条に,「各会計年度における経費は、その年度の歳入を以て、これを支弁しなければならない。」という規定がある。今回の負担軽減のための財政支出は誰がどう見ても2008年度の経費であり,これは2008年度予算に計上して,2008年度の歳入をあてるべき,というのが財政法の意図である。
 会計年度独立の原則の例外として,繰越がある。財政法第14条の3では,「その性質上又は予算成立後の事由に基き年度内にその支出を終らない見込のあるものについては、予め国会の議決を経て、翌年度に繰り越して使用することができる」とされている。しかし,今回の経費は翌年度に発生することが最初から明白なので,繰越で処理することはおかしい。

 今回の措置となったことには2つの事情がからむと推測されている。第1に,2008年度当初予算には年金・医療等の経費を自然増の水準から2200億円削減するというシーリングがあり,新たな歳出増を盛り込むことが難しかった。第2に,当初予算に入れることで軽減措置が恒久化する流れになることを回避した。
 かりに財政法に違反するとしたらどれだけ深刻な問題かといえば,きわめて深刻というものでもない。会計年度独立の原則を置く趣旨は,財政規律を守るためである。翌年度の歳入を今年度の経費の財源としてもよい,さらには100年後の歳入でもよい,ということになれば,いくらでも借金してよいことと同じになる。ただし,今回の措置は逆方向の年度不一致であり,今年度の歳入を翌年度の経費に充てている。これは貯蓄になるので,財政規律が損なわれる話ではない。また,1年限りの措置であれば,1年経過すれば,歳出を2007年度にしたか2008年度にしたのかの違いは消えてしまい,後に尾を引く話ではない。弊害があるとすれば,透明性が損なわれることである。
 また,そもそも赤字国債も歳入に含めて予算編成している現状では,当年度の歳入が将来の税収であったりするので,会計年度独立の原則を振りかざせば,財政規律が保てるわけでもない。この意味では,財政法にこだわってもどうか,財政法の規定にも課題がある,という考え方もあり得る。

 しかし,法律は法律である。事情はどうであれ,法律違反の予算は作れない。今回の措置が財政法に反しないという説明が説得力をもってできるのだろうか。

(参考)
2007年度補正予算の情報は下記のURLにある。
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/h19/hosei191220.htm

2008年度予算:地方の基礎的財政収支

 国と地方を合わせた基礎的財政収支の黒字化を目指しているにもかかわらず,公表されている予算関係の資料は基礎的財政収支の情報に乏しい。
 地方に目を転じると,地方財政計画の基礎的財政収支は,「公債費+公営企業繰出金のうちの企業債償還費普通会計負担分-地方債」で計算されるが,総務省が18日に発表した地方財政対策では企業債償還費が明らかではないため,現時点では公表資料から基礎的財政収支が計算できない。
 地方財政計画の基礎的財政収支は黒字基調であり,財政再建の主たる指標は借入金残高の推移であるという言い訳があるかもしれないが,この段階でも基礎的財政収支は重要な補助的指標である。資料の改善が望まれる。なお,借入金残高の2008年度末の見込みは197兆円程度となり,2007年度末見込み(当初)の199兆円から改善している。
 国の一般会計と地方財政計画は交付税及び譲与税配布金特別会計を通してつながっている。地財対策の資料から,交付税特会の基礎的財政収支の概算を,地方交付税の入口ベースと出口ベースの差で計算してみると,
  2007年度 交付税(入口)14.6兆円 交付税(出口)15.2兆円 基礎的財政赤字0.6兆円
  2008年度 交付税(入口)15.1兆円 交付税(出口)15.4兆円 基礎的財政赤字0.3兆円
となる(2007年度補正予算で計数に変更がなく,当初・補正後予算とも同じになる)。若干の改善ではあるが,法定されていた2007年度5869億円,2008年度6456億円の借入金返済を先送りしたことで,収支改善は進んでいない。国の一般会計と地方財政計画のしわよせを受けた形だ。交付税特会を含めた3者の収支に注意していく必要がある。

参考
「平成20年度地方財政対策のポイント」
http://www.soumu.go.jp/iken/pdf/chizai_20_point.pdf
「平成20年度地方財政対策の概要」
http://www.soumu.go.jp/iken/pdf/chizai_20_gaiyou.pdf

民主党の財源15.3兆円の妥当性

「霞が関埋蔵金」論争の出発点は,11月の自民党財政改革研究会の中間とりまとめ(案)が,民主党の参院選マニフェストを批判した,下記のくだりである。

「民主党主要政策では、補助金の一括交付金化や特殊法人等の原則廃止等により総額で15兆円を超える財源が捻出できるとの具体的な根拠のない提言がなされている。これに関しては、下記の問題があり、いわゆる『霞が関埋蔵金伝説』の域を出ないものである」

 そして,「霞が関埋蔵金」について,

「なお、特別会計の中には、多額の積立金等を有する会計があることから、財政赤字の縮減や税負担の軽減に使える『埋蔵金』が存在するとの指摘もある。しかしながら、例えば保険事業を行う特別会計では保険料を将来の給付等に備えるために積み立てているなど、特別会計の積立金等は各々に目的や理由が存在する。また必要以上のものについては、一定のルールに基づいて財政貢献する(一般会計や国債整理基金特別会計へ繰り入れる)ことが、既に財政健全化を行うにあたっての前提となっているため、『埋蔵金』といったものはない」

と説明している。
 これに対して中川秀直元幹事長が「埋蔵金は実在する」と主張して,埋蔵金の多寡について自民党内で論争が巻き起こり,注目を浴びた次第である。2008年度に財政融資資金から9.8兆円を国債整理基金特別会計に繰り入れることになり,埋蔵金実在説に軍配があがった。
 論争がこれで終結すると,「民主党主要政策=霞が関埋蔵金伝説」は,民主党の主張も間違っていないことを意味してしまう。「歳出の無駄を排除すれば増税は回避できる」という民主党の主張と,「もはやそのような余地は無く,増税は避けられない」という自民党財政再建派の主張は,次期総選挙での大きな論点になると思われるので,より議論が深まることを期待したい。

「自民党財政改革研究会 中間とりまとめ(案)」
http://www.jimin.jp/jimin/seisaku/2007/pdf/seisaku-026.pdf
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