岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます。

2008年02月

Yahoo! ブログから引っ越しました。

道路特定財源の経済分析

【特定財源制度の是非】
 道路特定財源制度は一定の条件が整えば合理性をもつ,という経済学での理論的基礎付けは存在する。これは,燃料税を道路利用料を徴収する次善の手段と位置づける。適切な税率が設定されており,税収をすべて道路の建設・維持管理に向けると,効率的な道路の供給がされる。
 ただし,適切な税率の設定と適切な予算配分ができれば,燃料税を一般財源にして,同額の予算で適切な道路整備をすることもできるので,一般財源と特定財源に優劣はつかない。
 適切な税率が設定できても適切な予算配分ができなければ,一般財源では問題が生じるので,特定財源制度がよい。適切な税率が設定されなければ,一般財源でも特定財源でも,政治的決定がもたらす問題が生じる。問題が小さい方を選択すればよいが,残念ながら経済学者は問題の大きさを高い精度で推定できていない。国会での議論を経て,意思決定されるべきだろう。

【暫定税率】
 国では,特定財源収入が道路整備費を上回っている。現行の暫定税率のまま特定財源を維持することは無理である。税率をどうするかは,地球温暖化問題も踏まえて考えていかなければいけない。
 暫定税率を維持する政府案は,一般財源化も名ばかりであり(「政府法案で道路特定財源は一般財源化されるのか」を参照),地球温暖化問題の考え方も整理できていない。
 地方は,道路投資が特定財源収入を上回っており,一般財源が道路のために使われている。一般財源の投入は,生活道路では周辺の地価の上昇で便益が及ぶので,固定資産税を財源とする考え方で正当化を図ることができる。
 民主党案は,暫定税率を廃止しながら,地方の道路投資を維持するとしているが,一般財源をさらに投入することに合理的な根拠は見出せない。
 こうした与野党の考え方のおかしいところは,すでに常識的な議論でも理解されているので,大きなところでは経済学を踏み外してはいないといえるだろう。

【取得・保有課税】
 経済学の考え方とずれが生じているのは,燃料税以外(取得・保有段階)の自動車関係諸税の扱いである。適切な道路利用料は道路利用に応じて,かつ道路の混雑事情に応じて,徴収しなければならい。ガソリン消費は走行距離にかなり比例するものの,燃料税も完全な道路利用料とはならないという問題がある。取得税や保有税は,自動車を動かしても動かさなくても課税されるので道路利用との関係がさらに薄く,燃料課税に劣る税である。道路整備の財源調達手段とする理由がない。地方では自動車は必需品という主張に説得力がある以上,ぜいたく品課税という根拠も成立しない。
 かりに減税するなら,燃料税ではなく,取得・保有課税が先である(あるいは,取得・保有課税を燃料税に振り替える)。経済学的に考えると,民主党がまず立ち上げるべきなのは「車検法定費用値下げ隊」であろう。メディアと国民の関心も,ガソリンが安くなるかどうかに向かっており,経済学的に見た場合に問題のある取得・保有課税がもっと議論の前面に出てこないのは残念だ。


(もう少し経済学用語を使った,道路特定財源制度の合理性の説明)
・道路の建設・維持管理のライフタイムでの費用をどう調達するか,として道路建設の意思決定の問題を考える。
・道路利用で生じる混雑と,燃料消費が環境へ与える負荷をとりあえず無視する。
・道路の利用料が徴収でき,競争的な価格形成ができれば,市場メカニズムに基づいて,効率的な道路の利用と供給ができる。
・道路の建設・維持管理の平均費用が一定(規模に関する収穫一定)の場合,利用料収入が道路の総費用に充てられる。なぜなら,
   規模に関する収穫一定から,平均費用=限界費用
   競争的価格形成から,価格=限界費用
   よって,利用料収入=価格×利用量=平均費用×利用量=総費用
・道路利用料の徴収は実務上困難であり,利用料を徴収する次善の手段として,燃料税を用いる。競争的価格に相当する税率が設定され,税収が道路の建設・維持管理費用に充当されれば,上と同じ効率的な道路の利用と供給ができる。

(参考)
 同僚の金本良嗣教授による「道路特定財源制度の経済分析」が,下記のURLよりダウンロード可能である。道路特定財源制度の経済学的な意味と,適切な税率の考え方と数量的な評価が要領よくまとめられており,有益である。
http://www.e.u-tokyo.ac.jp/~kanemoto/kane_jis.html

国土交通省道路局 財源
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-funds/ir-funds.html

民主党 道路特定財源制度改革
http://www.dpj.or.jp/special/douro_tokutei/index.html

中京大学 学術講演会

 2月22日に,中京大学大学院経済学研究科主催の学術講演会で,「持続可能な社会保障の課題」と題する講演をおこないました。
 私が指導していた湯田道生氏が中京大学に勤務しており,研究室にお邪魔をしました。

中京大学大学院経済学研究科
http://www.econo.chukyo-u.ac.jp/kenkyuka/

暫定税率が遡及できない理由

(2008年4月2日追記 この記事では,暫定税率を延長する政府案の再可決はできない趣旨で書かれていますが,3月31日に成立した「つなぎ法案」によって,それを可能にする措置がとられるようです。その事情については,「暫定税率再可決の法律論」で説明しています)

 2004年4月に施行された税制改正で,不動産の売却損を他の所得と相殺することを認めないようにすることが,1月に遡って適用された。改正が遡及して適用されたことで不利益を被ったという訴訟がいくつかおこされている。1月に福岡地裁は違憲という踏み込んだ判断を示したが,2月14日の東京地裁の判決は合理性を認め,司法の判断がわかれた。
 納税者の利益になる遡及は可だが,不利益になる遡及は不可,というのが一般の理解だ。どこまで遡及適用が許されるかが,問い直される形になっている。これを,いまが旬のガソリン国会の話題に結びつけると,ものすごい話になる(可能性がかなり小さいので,頭の体操に近いものであるが)。
 テロ特措法の場合と違って,租税法規不遡及の原則のもとでは,政府が現在提出している暫定税率を延長する法案を,そのまま衆議院で3分の2以上の賛成で再可決するわけにはいかない。
 例えば,揮発油税・地方道路税の暫定税率は現在,租税特別措置法第89条第2項で,

「平成五年十二月一日から平成二十年三月三十一日までの間に揮発油の製造場から移出され、又は保税地域から引き取られる揮発油に係る揮発油税及び地方道路税の税額は、揮発油税法第九条及び地方道路税法第四条の規定にかかわらず、揮発油一キロリットルにつき、揮発油税にあつては四万八千六百円の税率により計算した金額とし、地方道路税にあつては五千二百円の税率により計算した金額とする。」

と規定されている。現在,政府が提出している法案は,「平成五年十二月一日から平成二十年三月三十一日」を「平成五年十二月一日から平成三十年三月三十一日」に変更しようとするものである。かりに,改正法案が今年4月以降に成立することになると,4月1日までさかのぼって暫定税率を適用することになってしまう。したがって,参議院が3月までに議決しない場合には,あらためて法律が施行される日以降に暫定税率が適用されるような法律を提出し直さないといけない。参議院が議決をせずに最も引き伸ばしを図った場合には,与党が法案を成立させるには下記の手順を踏まないといけない。

1)衆議院が現在の改正法案を可決
2)4月以降に新しい法案を提出(2008年3月18日修正 理由は記事末尾に)
3)衆議院で新しい法案を可決
4)60日以降に,参議院が否決したとみなして,新しい法案を衆議院で再可決

法律が成立するのに6月までかかる。
 かりに遡及適用が許されるならば,政府・与党は3月までの間に,暫定税率を遡及適用する方針であることを周知させることによって,新しい法案を提出することなく,現在の改正法案を衆議院で再可決して,成立を図る手がある。4月にガソリンが安くなることもない。
 ただし,テロ特措法になぞらえれば,旧特措法の期限が切れた後も,新しい特措法が遡及適用されるからという理由で,海上自衛隊がインド洋で引き続き給油活動するような話なので,国民の反発を招くだろう。

 経済学の視点から遡及適用の是非を考えると,ルールの設定が行動をどう歪めるかにまず注目する。いま行っている行為に関するルールを後から決めることが許されていると,民間の活動を萎縮させてしまうので,一般原則としての不遡及は正当な考えだ。ただし,国会に法律が提出されてから成立・施行されるまでには時間がかかり,その間の活動を歪めてしまう弊害にどう対処するかも問題になる。
 典型的な例は,裁判になっているようなキャピタルゲイン課税の改正である。日本の税制改革のスケジュールでは,例年12月中旬に自民党税制調査会で翌年度の税制改正大綱が決定され,財務省の税制改正大綱も決まる。翌年の通常国会に改正法案が提出され,成立するのは3月頃になる。このようなスケジュールに沿って,キャピタルゲイン課税の増税(あるいは優遇措置の廃止)がされるとしよう。法案が成立することが確実だということがわかれば,施行される前にキャピタルゲインが出る資産を売却して,改革前の税制の適用を受けようと,皆が考えるのは当然だ。キャピタルゲインが実現段階で課税されるのと,そのタイミングの操作が容易であることが,改革の周知と施行がずれてしまうことの弊害を生み出している。改正法の施行を改革の公表まで遡及するようにすれば,こうした租税回避行動は不可能になる。予期された政策変更を予期されない政策に変更にするわけである。
 実務面で問題になるのは,どの段階で皆が税制改正を知ることになるかである。年末に税制改正大綱が報道されているので1月時点で周知されていると考えるか,もっと時間がかかると考えるのか,判断は人によって分かれるかもしれない。

 ルールの設定が行動を歪めるという視点だけでは,遡及適用を認めすぎるかもしれない。テロ特措法は施行が遅れて民間活動が歪むような話ではないという根拠で,遡及適用はテロ特措法では駄目で暫定税率では可能だという主張は,支持を得られにくい。すると,テロ特措法でも暫定税率でも駄目な理由が何かあるか,を考えることになる。
 キャピタルゲイン課税のような申告納税では税の計算が法律成立より後になるが,揮発油税だと法律成立以前に納税時点が来てしまうので,かりに法律が成立しなかった場合には,法律の根拠なく税を徴収する羽目に陥ってしまう。消費税増税が施行前のかけこみ需要と施行後の反動を通してマクロ経済に大きな影響を与えるとしても,遡及適用できないのも,同じ事情が当てはまる。かりに法律が成立しなかった場合でも不都合が生じない場合のみ遡及適用を認める,という制約をつければ,暫定税率もテロ特措法も遡及適用は駄目だということができる。
 これで十分かどうかは,別の事例に適用するなどして検討していくべき課題である。


(2008年3月18日追記 「法案を撤回して,」を削除しました。原文は,国会法第59条「内閣が、各議院の会議又は委員会において議題となつた議案を修正し、又は撤回するには、その院の承諾を要する。但し、一の議院で議決した後は、修正し、又は撤回することはできない。」の規定を考慮しなかったため)

福井県訪問

 15・16日は,東京大学ジェロントロジー寄付研究部門と福井県との研究連携の意見交換のために,諸先生と一緒に福井県庁を訪問しました。
 福井県の健康長寿の取り組みについての事情聴取,グループディスカッション,西川福井県知事との会談などの日程でした。県庁関係者の皆様には大変にお世話になりました。厚くお礼申し上げます。
 福井県は,三世代同居率,平均寿命,元気高齢者の比率が高く,高齢者の環境は比較的恵まれているように見えます。かつて経済企画庁が作成していた新国民生活指標(豊かさ指標)で全国1位を続けるなど,他県の参考になるものがあるかもしれません。一方で,これから後期高齢者が増えていくと,施設介護サービスの利用率が高い状況や自動車に依存した交通体系をどうしていくかの課題を抱えています。
 ジェロントロジー寄付研究部門としては,まずは課題を抽出して,どのような研究プロジェクトを組み立てるかをこれから考えていくことになりそうです。

(参考)
「健康長寿で東大と連携 県、生活調査協力へ」(福井新聞)
http://www.fukuishimbun.co.jp/modules/news2/article.php?storyid=3152

「健康長寿へ東大と研究 県が意見交換 相乗効果を期待」(日刊県民福井)
http://www.chunichi.co.jp/kenmin-fukui/article/local/CK2008021602087987.html

東京大学ジェロントロジー寄付研究部門
http://www.gerontology.jp

審議会で消費者の利益を代表するべき人たち

 1月28日の国民生活審議会総合企画部会の参考資料3-2「各種審議会・研究会等に入っている生活者・消費者の声を代表する委員数」は,全部で61ページの大部なものである。この調査は,審議会で消費者の意見を代表する委員の数が非常に少ないことを示している。そうした委員がゼロの審議会も多数存在する。そうした場合にも経済学者が委員に入っていれば,消費者主権の考えに則って,消費者の利益を代表するべきであろう。それができない人は,たとえ経済学部教授を名乗っていても,経済学者ではない。

(参考)
「各種審議会・研究会等に入っている生活者・消費者の声を代表する委員数」
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/shingikai/kikaku/21th/080128sankoshiryo03-1.pdf

(関係する過去記事)
経済政策の原則は消費者主権
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