岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます。

2008年04月

Yahoo! ブログから引っ越しました。

日本経済研究センター・セミナー

 24日は,日本経済研究センターにて,「経済政策をどう動かすか」と題した講演をおこないました。「人々はインセンティブに反応する」という経済学の視点では,演題に対する解答は「動かさない人に罰を与えよ」となります。そのための制度設計の考え方を解説しました。

(参考)
日本経済研究センター
http://www.jcer.or.jp

公共政策国際コンファレンス

 近況報告としては遅くなってしまいましたが,4月19日に大阪大学公共経済研究会・関西社会経済研究所主催「公共政策国際コンファランス」で「How to Finance Increasing Social Costs」と題した報告をおこないました。

(参考)
(財)関西社会経済研究所
http://www.kiser.or.jp

【訂正】「新雇用戦略」は何を目指す

 4月20日に投稿した「『新雇用戦略』は何を目指す」で,計算ミスがあったので,訂正します。

 厚生労働省の労働力人口の将来推計では,20~24歳男性の労働力率が2030年までに大きく上昇するので,2006年に当てはめて考えると,通学理由の非労働力人口の14%が労働力人口に転じないと,予測値は達成できないと書いていたが,労働力率上昇の2つのシナリオのうちの低い方を間違って用いていた。厚生労働省が労働市場への参加が進むケースとした推計値を用いると,通学理由の非労働力人口の33%が労働力人口に転じないといけないという,もっと大変な結果になる。
 本当にフルタイム学生の3分の1が働き始めるとなると,マッチングで浪人生を減らすような悠長な話では済まされないだろう。

 乗りかかった船なので,他の若年層も見てみると,15~19歳の男女も,2006年の『労働力調査』のデータをもとに考えると,通学以外の理由の非労働力人口すべてが労働力人口に転じても2030年の労働力率の予測値に達しないので,通学理由の非労働力人口が労働力人口に転じなければいけない。
 労働市場の参加が進むケースでは,労働力率は,
 (15~19歳,男子) 16.4%(2006年)→20.0%(2030年)
 (15~19歳,女子) 16.6%(2006年)→21.4%(2030年)
と上昇するとされている。男子で,通学理由の非労働力人口の1.8%,女子で2.1%,それぞれ約5万人ずつが労働力人口に転じないと,2030年の労働力率にならない。
 20~24歳の女性の労働力率も,2006年の70.1%から2030年には74.2%に上昇するが,家事理由の非労働力人口が多いので,上のような「学徒動員」は必然ではない。

(関係する過去記事を訂正しています)
『新雇用戦略』は何を目指す

「新雇用戦略」は何を目指す

(4月22日追記 後半で,厚生労働省推計での2030年の20~24歳男性の労働率の数値を間違って用いたため,記述が間違っていました。該当箇所を示して,訂正しています)

 社会保障財政の長期推計を研究していることから,労働力人口の将来予測には,かねてから関心をもっている。昨年12月の雇用政策研究会(厚生労働省職業安定局長の研究会)報告書のなかで,2030年までの労働力人口の見通しが発表された。約2年に1回ごとに同種の見通しがこれまで発表されており,その最新版となる。研究会の報告書となっているが,年金の財政再計算の前提に用いられるなど,事実上の公式推計と見なしてよい。ここでは単に,厚生労働省推計と呼ぶことにする。これによれば,2006年の労働力率と同水準で推移した場合,2030年の労働力人口が2006年にくらべて1070万人減少し,経済成長の大きな制約要因となることが懸念される。一方,高齢者の雇用確保策や仕事と生活の両立支援等の施策によって労働市場への参加が進むと,全体で約600万人の労働力人口の増加が見込まれる,としている。
 2月の経済財政諮問会議に,民間議員から提出された「新雇用戦略」の全体像では,女性に対して「新待機児童ゼロ作戦」の策定等,若者に対して「ジョブ・カードの全国展開」,高齢者に対して「70歳現役社会」の実現,という対策を講じるものとして,10年後の就業率の数値目標を盛り込んでいる。

(1)
 少子化で労働力人口が減少するなか,非労働力人口を労働市場に呼び込むことで経済成長への負の影響をやわらげたいという考え方は,両者で共通である。諮問会議では,役所が受け入れがたい「高めのボール球」が民間議員から投げられ,激しいやりとりのなかで改革が進んでいくという印象がもたれているが,新雇用戦略はどうだったのか。昨年12月の厚生労働省推計は労働力率で示されたので,直接の比較はできなかった。
 厚生労働省推計の作業は,労働政策研究・研修機構でおこなわれており,その詳細が,4月2日に機構から発表された。そこには就業率の見通しも公表されているので,それをもとに,厚生労働省推計の労働市場参加が進むケースにおける2017年の就業率と,新雇用戦略での10年後の就業率目標を比較してみた。年齢階層の集計の仕方が違うので,『将来推計人口』(出生中位・死亡中位)の2017年の推計人口をもとに,新雇用戦略と比較可能な形に厚生労働省推計を集計し直してみた。結果は,以下の通り。左が厚生労働省推計,右が新雇用戦略の目標値(範囲で示されている)である。

 (女性,25~44歳) 72.6% 69~72%
 (男性,25~34歳) 94.3% 93~94%
 (男女,60~64歳) 61.3% 60~61%
 (男女,65~69歳) 38.8% 38~39%

 新雇用戦略の目標値を小数点第1位切り捨てと考えると,厚生労働省推計をその範囲内に含む。高めのボール球ではなく,ストライクである。65~69歳層をのぞいては,厚生労働省推計が新雇用戦略の範囲の高い方に位置するので,厚生労働省が強気,諮問会議が慎重,とも考えられる。
 方向性も数値目標もおおむね同じならば,雇用戦略は厚生労働省にまかせておいて,人的・物的資源の限られている諮問会議は,省庁にまかせておけない課題に集中することも考えられたのではないか。もし厚生労働省の強気な見通しに懸念があるのなら,誰も気がつかないように低めの範囲に数値目標を広げるのではなく,推計の是非をめぐって厚生労働省とやりあうことも考えられたのではないか。新雇用戦略については,諮問会議は期待されている役割を果たしていないように見受けられる。

(2)
 厚生労働省推計での労働参加が進むケースは,強気の見通しであるといえる。個人的な利害とかかわるところで気になったものとして,20~24歳男性の労働力率がある。これは,2006年の69.1%から2030年には
[以下,4月22日訂正]
81.3%に上昇するとされている。2006年の『労働力調査』によれば,この階層の382万人の27.7%にあたる106万人が,通学のための非労働力人口になっている。つまり,かりに2006年の時点で通学以外の非労働力人口がすべて労働力人口になっても,労働力率は72.3%までしか上昇しない。労働力率が81.3%まで上昇するには,さらに通学理由の非労働力人口の33%にあたる35万人が労働力人口に転じなければいけない。なお,労働政策研究・研修機構の報告書には,労働力率の上昇がより穏やかなケースも示されており,その場合には2030年に76.2%に上昇するとされている。この場合でも,通学理由の非労働力人口の14%にあたる15万人が非労働力人口に転じなければいけない。
[以上,4月22日訂正。訂正箇所終了]
 大学進学率ないし大学院進学率の低下が国家戦略になれば,大学関係者にとっては深刻な事態である。若年者人口が減少するなかで,大学院生を増やすことは大学の生き残り策のひとつだった。複雑化する社会では大卒以上の学歴が必要となってくるという考えは,社会の理解が得られると私は思っていたが,国家戦略との関係は緊張したものになっている。雇用政策研究会の委員には12名の大学教授が名を連ねているので,もう大学が同意した話だということになるのかもしれないが,この国家戦略はおかしい,という声が起こってくるかもしれない。
 働きながら学ぶパートタイムの学生が増えれば,労働力人口の増加とも両立はできるかもしれない。私の勤務先はフルタイムの学生を念頭に置いているが,やがては対応を迫られることになるかもしれない(しかし,ここしばらくの時間的範囲では,パートタイムの学生への対応はとらないと思う)。
 もうひとつの策は,大学受験での浪人生を減らすことである。受験生の志望と大学定員のマッチングをより高める仕組みができれば,若者がより早く社会に出ることができ,学歴と労働力率の向上が同時に図れるかもしれない。マッチングはゲーム理論の一分野として研究されているが,研究者には,政府の雇用政策と大学経営(ないし自分自身の雇用)を両立させる解について,知恵をしぼってもらいたい。

(参考)
「雇用政策研究会報告の取りまとめについて」(厚生労働省職業安定局,2006年12月25日)
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/12/h1225-3.html

「成長戦略機А愎係柩兩鑪』の全体像」(経済財政諮問会議有識者議員提出資料,2007年2月15日)
http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2008/0215/item1.pdf

「労働力需給の推計:労働力需給モデル(2007年版)による将来推計」(JILPT資料シリーズNo.34,2008年3月)
http://www.jil.go.jp/institute/chosa/2008/08-034.htm

『労働力調査』基本集計・年平均・2006年
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000000110173

社会保障基金の資金過不足の訂正

 4月11日に,『国民経済計算』確報の計数の訂正が発表された。「社会保障基金の財政収支が不思議な動き」(http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/1733167.html )で触れた社会保障基金の財政収支について,資金過不足の計数が約19兆円訂正された。「その他負債」の何かの計数が非金融法人企業部門と取り違えられた模様で,企業部門の資金過不足も同時に訂正され,多くの表に修正が及んでいる。『国民経済計算』利用者はご注意ください。
 まずは,不自然な動きが訂正されて,利用者としてはほっとしたところである。訂正前の計数では,社会保障基金のその他負債が過去の推移から飛び離れて大きくなっていたので,状況証拠通りの結末であった。その割には原因解明まで時間を要したのではないか,計数の異常な動きを監視するシステムがあれば公表前に気がつくのではないか,そもそも誤りの原因は何か,等の課題がある。2006年度確報では,一般政府部門で10兆円単位の大きな計数の訂正が続いた。政府部門では最近いろいろな制度改革があって,『国民経済計算』に反映させるだけでも大変ではあるが,作成当局には正確を期すための一層の努力をお願いしたい。

(参考)
「国民経済計算確報 計数訂正情報」
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/teisei/kakuho.html

(関係する過去記事)
2006年度に基礎的財政収支黒字化達成?
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