岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます。

2008年05月

Yahoo! ブログから引っ越しました。

人口動態の変化と財政・社会保障制度のあり方に関する研究会

 16日は,財務省財務総合政策研究所の「人口動態の変化と財政・社会保障制度のあり方に関する研究会」の論文合評会に出席し,金子隆一先生(国立社会保障・人口問題研究所)と麻生良文先生(慶應義塾大学)の論文の討論者を務めました。
 研究会は,来月に報告書をまとめて,公表する予定のようです。

 現在は官邸で社会保障国民会議が開催されているところですが,霞が関での社会保障の研究会は以前からあちこちで開かれています。少子・高齢化は急速に進行しますが,きちんとした制度改革で対応するわけでもなく,役所は研究ばかりしている印象を受けます。政策提言は十分に出尽くした状態であり,政府の決断と行動が必要なのではないでしょうか。


(参考)
「人口動態の変化と財政・社会保障制度のあり方に関する研究会」
http://www.mof.go.jp/jouhou/soken/kenkyu/zk081.htm

ねじれ国会+会期制+一事不再議=不条理(解決編)

 問題編と解決編を分ける趣向を試みたが,2つが分かれるのは結局読みにくいようなので,問題編を再掲する。

(問題編)
 ねじれ国会ではこれまで野党が審議を引き延ばしてきたが,会期末に向けて与党が審議を引き延ばす可能性がある。
 通常国会の会期は6月15日まで。会期末までに参議院で結論の出ない政府提出法案は,(a)継続審議とするか,(b)廃案とするかの選択がある。

(a) 継続審議になった場合は,次期国会では参議院先議の扱いになり,否決されればそこで廃案となり,衆議院での再可決はない。その場合,一事不再議の原則により,同じ法案を衆議院に出し直すことはできない。次期国会で採決されないままでも,衆議院がみなし否決で再可決することはできない。「60日ルール」は同一会期に衆議院で先に可決された法案に適用されるからである。
(b) 廃案になった場合は,次期国会であらためて衆議院に提出することができる。

 このため,参議院では,与党が政府提出法案の廃案を,野党が継続審議を望むという,不思議な事態が生じる。
 現在,衆議院を通過していない政府提出法案が多くある。大幅な会期延長がない限り,これらが衆議院を通過して参議院へ送られてしまうと,上にのべた事態に直面する。衆議院で会期末を迎え,継続審議になれば,次期国会では衆議院先議の扱いになる。そのため,与党が政府提出法案の審議を衆議院で(!)引き延ばして,参議院へ法案を送ることを避ける行動をとることが考えられる。
 与えられたルールのもとでの与野党(ここではとくに与党)の行動が不条理に見えるのは,制度が不条理だからである。どこかを変えるべきであるが,それはどこか。私は,会期制をやめるべきと考える。

(解決編)
 衆議院に先に提出された政府提出法案の会期末の扱いについて,衆議院を通過して参議院にあるものは与党が廃案を,野党が継続審議を望む。衆議院にあるものは与党が審議を遅らせて,衆議院での継続審議を望む。この現象の原因は,(1)国会が完全ねじれではなく,不完全ねじれにあること,(2)「会期制」(会期不継続の原則),のいずれかにある。
 かりに与党が衆議院で再可決することができないという完全ねじれ状態になっていれば,参議院で政府案を可決してもらうしかなく,それも早い方がいい。したがって,会期末に参議院にある法案を廃案にして次期国会で一からやり直すよりは,継続審議を望む。また,参議院へ送ることを遅らせる利益もない。
 かりに「会期制」(会期不継続の原則)をとらず,法案審議のプロセスが今期と次期で切れ目なくつながっていれば,問題は生じない。法案が参議院で会期をまたいでも,引き続き衆議院先議の扱いとなれば,与党が衆議院通過を遅らせる理由がなくなる。

「一事不再議」は不条理の本質ではない。かりに一事不再議の原則が存在しなくても,与党が会期末に政府法案の廃案を望むことに変化はない。一事不再議の原則がなければ,継続審議にした場合に次期国会で参議院で否決されても再度出し直すことができるが,野党が法案の成立を阻止したいならば,参議院で採決せずに廃案をねらうので,与党にとって事態が改善したことにはならない。
 なお,これまでのねじれ国会での議論で,一事不再議の我田引水的解釈が横行して,混乱を招いている。現行憲法と国会法に明文規定はないが,ここでは,大日本帝国憲法にあった明文規定「両議院ノ一ニ於テ否決シタル法律案ハ同会期中ニ於テ再ヒ提出スルコトヲ得ス」に対応するように,否決されて廃案になった法案は同じ会期に提出できない,という狭い解釈で用いている。これを一院が議決しただけで,二院制のもとで決着のついていない法案に適用する議論がされ,わけがわからなくなっている。歳入関連法案をめぐる3月末の攻防でも一事不再議の議論が持ち出されたが,これはまだ法案審議中のことなので,「なぜ民主党は対案を可決しなかったか」では,一事不再議は一切関係ないものと扱った。

 制度改革で,上のような事態を避けるにはどうすればよいか。衆議院で与党が3分の2以上の議席をもつかどうかは選挙の結果として決まることである。現行憲法のもとでは,不完全ねじれが生じない制度は無理である。よって,会期制の廃止が結論である。

(注1)
 審議中の法案について,一院だけの議決をもとに一事不再議の原則をもちだして,わけがわからなくなった議論の事例
(1) 新テロ特措法案で,参議院で民主党の対案が先に可決されれば,衆議院を通過した政府案が参議院に送られてきても,参議院はすでに対案を可決しているので審議できない。憲法第59条第4項「参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる」とあるが,参議院は審議できないから法案は受け取れないので,「60日ルール」の適用はない。
(2) 歳入関連法案で,参議院で民主党の対案が可決され,衆議院に送られてきても,衆議院はすでに政府案を可決しているので,対案は審議できない。歳入関連法案は日切れとなり,大混乱が生じる。

(注2)
 憲法を改正して不完全ねじれ現象をなくそうとする場合は,衆議院優越事項をなくして完全ねじれ状態だけ起こるようにするか,衆議院優越を強化して完全ねじれ状態も不完全ねじれ状態も実質的に生じないようにするか,という正反対の方向への改革がある。その選択のためには,どういう統治機構にするか,という理念を明確にしておく必要がある。

(関係する過去記事)
ねじれ国会+会期制+一事不再議=不条理

ねじれ国会の攻防戦

一体改革の蟻の一穴

 2007年度から2011年度の間に11.4~14.3兆円の国・地方の歳出を削減する歳出歳入一体改革の計画のなかでもっとも困難なのが,社会保障費の削減である。国の一般会計予算では毎年2200億円を削減することとしており,2008年度予算では診療報酬・薬価改訂で660億円を削減,政管健保の国庫負担を1000億円削減する等の算段をしている。診療報酬・薬価改訂はこの4月から実施されたが,政管健保の国庫負担の削減は法改正が必要で,2月8日に「平成二十年度における政府等が管掌する健康保険の事業に係る国庫補助額の特例及び健康保険組合等による支援の特例措置等に関する法律案」が国会に提出された。この法律は7月1日施行を予定しているが,衆議院ではまだ審議に入っていない。洞爺湖サミット開幕が7月7日に控え,会期延長は小幅と観測されており,会期中の成立が難しい状況にあるといえよう。
 財政健全化のためには,歳出削減は恒久的なものでなくてはならない。しかし,国庫負担の削減分を肩代わりする組合健保の反発で,法案は2008年度限りの措置とされた。2009年度以降のことは,附則に「保険者の費用負担の在り方について速やかに検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講じるものとする」と盛り込まれており,未確定である。また,国庫負担を被用者保険が肩代わりするのは,社会保障基金をのぞいた国・地方の歳出(一体改革の対象)は減少するが,社会保障基金を含めた一般政府ベースでは歳出削減になっていない。この1000億円を一体改革の歳出削減にカウントするのは,もともと無理を重ねている。
 その上,法案が成立しないと現行制度による国庫負担が継続するので,2008年度の歳出削減計画のうちの1000億円が達成されないことになる。その際は,2009年度以降の3年間のノルマに,この1000億円を追加する必要があるが,今年度達成が難しかったものが,来年度以降うまくできるのかどうか。また,各論反対のなかを全体のコミットメントをてこに歳出削減を進めているところで,計画の一部が壊れることは他の分野にも波及する可能性がある。
 こうした意味で,一体改革の命運にも影響を与える事態であるといえる。何気なくスルーするのか,一体改革自体をどうするのかまで戻った骨太の議論をするのか。今年の骨太方針を決定する時期には,法案の運命も判明していると思われるが,どういう展開になるのか注目される。

(参考)
「平成二十年度における政府等が管掌する健康保険の事業に係る国庫補助額の特例及び健康保険組合等による支援の特例措置等に関する法律案」の要綱・案文等は下記のURLにある。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/169.html

(関係する過去記事)
2008年度予算のシーリング

ねじれ国会+会期制+一事不再議=不条理

 ねじれ国会ではこれまで野党が審議を引き延ばしてきたが,会期末に向けて与党が審議を引き延ばす可能性がある。
 通常国会の会期は6月15日まで。会期末までに参議院で結論の出ない政府提出法案は,(a)継続審議とするか,(b)廃案とするかの選択がある。

(a) 継続審議になった場合は,次期国会では参議院先議の扱いになり,否決されればそこで廃案となり,衆議院での再可決はない。その場合,一事不再議の原則により,同じ法案を衆議院に出し直すことはできない。次期国会で採決されないままでも,衆議院がみなし否決で再可決することはできない。「60日ルール」は同一会期に衆議院で先に可決された法案に適用されるからである。
(b) 廃案になった場合は,次期国会であらためて衆議院に提出することができる。

 このため,参議院では,与党が政府提出法案の廃案を,野党が継続審議を望むという,不思議な事態が生じる。
 現在,衆議院を通過していない政府提出法案が多くある。大幅な会期延長がない限り,これらが衆議院を通過して参議院へ送られてしまうと,上にのべた事態に直面する。衆議院で会期末を迎え,継続審議になれば,次期国会では衆議院先議の扱いになる。そのため,与党が政府提出法案の審議を衆議院で(!)引き延ばして,参議院へ法案を送ることを避ける行動をとることが考えられる。
 与えられたルールのもとでの与野党(ここではとくに与党)の行動が不条理に見えるのは,制度が不条理だからである。どこかを変えるべきであるが,それはどこか。私は,会期制をやめるべきと考える。
 理由は後日の記事でのべたいと思います。

(注)
 衆議院で可決された法案が参議院で否決された場合は,国会法第83条の2第1項「参議院は、法律案について、衆議院の送付案を否決したときは、その議案を衆議院に返付する」によって,法案が衆議院に戻される。これによって,衆議院での再可決が可能になる。
 衆議院で可決された法案が参議院で継続審議になり,次期国会で否決された場合は,国会法第83条の5「甲議院の送付案を、乙議院において継続審査し後の会期で議決したときは、第83条による」が適用され,第83条第1項「国会の議決を要する議案を甲議院において可決し、又は修正したときは、これを乙議院に送付し、否決したときは、その旨を乙議院に通知する」によって,否決されたことが衆議院に通知されるだけで終わる。

「新雇用戦略」の数値目標

 4月23日の経済財政諮問会議では,舛添厚生労働大臣による「新雇用戦略」の案が発表され,若者,女性,高齢者について,2010年の就業率の数値目標が示された。2月15日の会議で民間議員から10年後の数値目標が示されていたが,より短期の目標が設定されたことには意義がある。
 「『新雇用戦略』で何を目指す」では,10年後の数値目標が厚生労働省による労働力人口の将来見通し(以下,厚生労働省推計)の範囲内にあり,むしろ厚生労働省推計の方が強気であることを指摘した。
 労働力人口が高めに見積もられると,社会保険料収入も高めに推計される。財政予測が楽観的になると,社会保障制度の運営を見損じるおそれがある。その意味で安直な見通しは許されない。
 以下に,2007年の就業率実績値から2012年の厚生労働省推計値まで直線的に上昇するとしたときの2010年の就業率(左)と,「新雇用戦略」の2010年の数値目標(右)を比べてみる。
(25~34歳,男性) 92.7% 92-93%
(25~44歳,女性) 68.1% 66-68%
(60~64歳,男女) 56.4% 56-57%
 厚生労働省推計まで上昇するラインに乗っていれば,「新雇用戦略」の目標は達成できる。厚生労働省推計が実現されることが短期の政策目標となることで,推計についての責任をもたせる形となっている。今後は,安直な見通しの設定を牽制する働きが期待できる。近い将来で就業率が上がらず,遠い将来に就業率が大きく上がるような推計が出てきたら,要注意である。

 数値目標の設定の仕方には,いくつか課題が残る。
 対象範囲が狭いかもしれない。厚生労働省推計では,数値目標が設定された階層以外でも就業率が上昇することが見込まれている。例えば,20~24歳男性の就業者の増加数は,25~29歳,30~34歳の階層よりも大きい。厚生労働省推計では,労働参加の進展によって2012年の就業者が272万人増える。「新雇用戦略」で数値目標が設定された階層での就業者の増加は,この47%にあたる129万人に過ぎない。
 就業率は景気循環の影響を受けるので,構造的な政策に対する目標としては使いづらい面がある。景気が上向いていた場合には,就業率の上昇が政策の効果なのか,循環要因なのかを区別しにくい。目標に幅をもたせているが,それでもこの問題はつきまとう。

 「新雇用戦略」に残る課題は,2010年の目標が達成されたとしても,その先にはより高い目標があることだ。そのときに施策の二の矢はあるのだろうか。

(参考)
「『新雇用戦略』について」(舛添厚労相提出資料,2008年4月23日)
http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2008/0423/item4.pdf

「『新雇用戦略』について(参考資料)」(舛添厚労相提出資料,2008年4月23日)
http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2008/0423/item8.pdf

就業者の推計は,下記資料に掲載されている。
「労働力需給の推計:労働力需給モデル(2007年版)による将来推計」(JILPT資料シリーズNo.34,2008年3月)
http://www.jil.go.jp/institute/chosa/2008/08-034.htm

(関係する過去記事)
『新雇用戦略』で何を目指す

【訂正】『新雇用戦略』は何を目指す
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