高齢者向けの社会保障給付の多くは現役世代の負担で賄われているため,少子高齢化が進むと財政状況が悪化する。逆に言うと,社会保険を積立方式に移行して,社会保障給付を自分の現役時の負担で賄えるようにすれば,人口構成が変化しても財政状況に影響を与えない(専門的には,人口構成の変化が経済環境を変えて財政に影響を与えることに注意しなければいけないが,この影響は今回の記事の趣旨ではないので捨象する)。
積立方式への移行を実現できない障害として指摘されるのが,「二重の負担」の問題である。公的年金を例にとると,現在は積立金が十分ではないので,積立方式に移行するには,今の現役世代は自分の年金給付分を保険料で積み立てるだけでなく,積立金の裏打ちがない給付の財源も負担しなければならず,負担が重くなるというものである。
福井唯嗣京都産業大学准教授と私が共同開発した医療・介護保険財政モデルの2008年4月版では,医療保険と介護保険を積立方式へ移行した場合の二重の負担の姿を明らかにしている。現行の医療・介護保険制度は中期的に均衡財政となるよう運営されており,将来の高齢化に備えて積立金をもつという発想はない。われわれのモデルでは,約100年かけて高齢者医療(65歳以上)と介護の給付に使われる保険料負担分を現役時に積み立てる制度に移行する政策を考えている。積立金を保有するために,移行期間中は高い保険料を徴収しなければいけない。マクロ的には,将来に急増する給付費を事前に積み立てておく形になる。旧版のシミュレーション期間は積立方式への移行が終了するまでの期間であったため,将来世代の生涯にわたる負担を計算できていなかった。今回の改訂では,シミュレーション計算を十分に延長し,将来世代の生涯にわたる負担を計算できるようにした。
積立方式への移行を実現できない障害として指摘されるのが,「二重の負担」の問題である。公的年金を例にとると,現在は積立金が十分ではないので,積立方式に移行するには,今の現役世代は自分の年金給付分を保険料で積み立てるだけでなく,積立金の裏打ちがない給付の財源も負担しなければならず,負担が重くなるというものである。
福井唯嗣京都産業大学准教授と私が共同開発した医療・介護保険財政モデルの2008年4月版では,医療保険と介護保険を積立方式へ移行した場合の二重の負担の姿を明らかにしている。現行の医療・介護保険制度は中期的に均衡財政となるよう運営されており,将来の高齢化に備えて積立金をもつという発想はない。われわれのモデルでは,約100年かけて高齢者医療(65歳以上)と介護の給付に使われる保険料負担分を現役時に積み立てる制度に移行する政策を考えている。積立金を保有するために,移行期間中は高い保険料を徴収しなければいけない。マクロ的には,将来に急増する給付費を事前に積み立てておく形になる。旧版のシミュレーション期間は積立方式への移行が終了するまでの期間であったため,将来世代の生涯にわたる負担を計算できていなかった。今回の改訂では,シミュレーション計算を十分に延長し,将来世代の生涯にわたる負担を計算できるようにした。
その結果が示すのは,二重の負担は積立方式への移行を妨げる要因ではないことである。まず,上の図は各世代の生涯負担率を示したものである。横軸に出生年,縦軸に生涯所得に対する医療・介護給付に使われる税と保険料の生涯負担の比率が示されている。移行過程の保険料が高くなるため,2030年代頃生まれの世代に二重の負担が課されることが観察される。この二重の負担があるから積立方式への移行をしないとなると,現行制度が維持される。焦点は,そのもとでの各世代の負担がどうなるかだ。
上の図は,均衡財政方式で運営を続けた場合の生涯負担率を重ねたものである。注目は,二重の負担を被る世代の生涯負担率は,均衡財政方式の方がより高くなることである。その理由は,均衡財政方式のもとでは負担率が年々上昇を続けることで,これらの世代の負担率がもっと高くなるためである。
このように,二重の負担を被る世代の負担が重くなるから積立方式への移行は困難,という理屈は成立しない。積立方式への移行は,保険料負担を平準化することで,彼らの負担率を引き下げる。そのかわりに,先に生まれた世代(1995年生まれ以前)の負担が上昇することになる。
積立方式への移行は,現在の保険料を引き上げないといけないため,政治的に実現が難しいともいわれる。確かに,現在のすべての有権者の負担が上昇する。しかしその意味では,現在の有権者間に利害対立はない。われわれが一致して将来の世代に何を残すかの決断である。
このように,二重の負担を被る世代の負担が重くなるから積立方式への移行は困難,という理屈は成立しない。積立方式への移行は,保険料負担を平準化することで,彼らの負担率を引き下げる。そのかわりに,先に生まれた世代(1995年生まれ以前)の負担が上昇することになる。
積立方式への移行は,現在の保険料を引き上げないといけないため,政治的に実現が難しいともいわれる。確かに,現在のすべての有権者の負担が上昇する。しかしその意味では,現在の有権者間に利害対立はない。われわれが一致して将来の世代に何を残すかの決断である。
(注)
以上の計算の概要は,下記の文書に示されています。これはモデルの解説を目的とした文書ですので,政策の議論はおこなわれていません。今回のモデルに基づいて政策を議論する原稿を現在執筆中です。
岩本康志・福井唯嗣,「医療・介護保険財政モデル(2008年4月版)について」
https://iwmtyss.com/HLIModel/Manual2008-04Rev.pdf
以上の計算の概要は,下記の文書に示されています。これはモデルの解説を目的とした文書ですので,政策の議論はおこなわれていません。今回のモデルに基づいて政策を議論する原稿を現在執筆中です。
岩本康志・福井唯嗣,「医療・介護保険財政モデル(2008年4月版)について」
https://iwmtyss.com/HLIModel/Manual2008-04Rev.pdf