岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます。

2008年10月

Yahoo! ブログから引っ越しました。

金融危機に景気対策で対応する愚かさ

 金融危機の広がりで世界の政策当局が正念場に立たされるなか,麻生首相の出した指示がピント外れだ。
 問題の根源は米国の金融危機であるので,わが国の実体経済への波及をできるだけ食い止めるよう,まずは金融面で全力で対応すべきなのに,それをなおざりにして,財政出動による景気対策で対応しようとしている。いきなりの財政出動は,効果的な税金の使い方ではない。そんな税金があるなら,まだしもウォール街に投下した方が効果的だろう(もちろん,そうしろということではない)。この調子だと,内需拡大で世界経済を牽引する機関車になる,などと言い出しそうで怖い。

 その他に,日本がやるべきこと。
 G7では,米国に,公的資金を投入して積極的な対応をとるように要求し,場合によっては圧力をかけるべき。これまでのところ,米国の政策当局は何をすればよいかを理解しており,何とか対応できている。しかし,政治過程では,納税者の感情的反発が制約条件になり,正しい選択がされるか,きわどくなる。日本の経験に基づき,正しい選択を求める外圧は,米国政策当局への適切な応援である。
 現在,日本銀行の対応が非常に重要である。副総裁が1名欠員で,きわどい状態のなかで,難しい意思決定を連日迫られている。国会が早期に解散しない場合,総裁・副総裁が国会に頻繁に呼び出されると,さらに日銀に負荷がかかる。欠員を招いたのは国会の責任だ。早期に欠員を補充するように,政府・与野党が協力すべきである。

長寿医療制度見直しの厚労相私案

 8日の「高齢者医療制度に関する検討会」で,舛添厚労相が長寿医療制度と国民健康保険の一体化に関する私案を発表した。内容は,両者を一体化して県単位に再編,都道府県が運営し,被用者保険との間で財政調整をおこなうものである。

 まず,私は保険制度の設計について,つぎのように考えている。
 保険制度の単位(加入者集団)には2つの意味があり,2つはかならずしも一体ではない。2つの意味とは,
(1)加入者のリスクをプールして,分散する(いわゆる「保険」の機能),
(2)加入者の代理人として,効率的な医療サービスを実現させる機能(いわゆる「保険者機能」)
である。現実には,老人保健,退職者医療,現在の高齢者医療制度,協会健保等に財政調整が導入され,両者はすでに乖離している。
 財政調整する理念に国民の理解が得られれば,2つを分離して制度設計すればよい。つまり,保険者機能が発揮しやすい形で実体的制度を設計し,リスクを適切にプールする集団の範囲でリスク構造調整をおこなえばいい。

 舛添私案は,そこまで割り切って考えていないので,国保再編という難事業が含まれている。私の考えでは,きちんとした財政調整が導入されれば,75歳で線引きする必要もなかったし,新しく国保を県単位に再編する必要もない。また,これまで保険運営に関わったことのない都道府県が運営する案は,うまく機能するのか疑問だ。地方分権改革で社会保険庁が国民年金業務を市町村から継承して徴収率が激減したように,理念先行で業務を動かすのは失敗の危険が大きい。

 高齢者医療制度の検討では,
(1)独立型 長寿医療制度
(2)突き抜け型 被用者OBはすべて被用者保険に加入する
(3)リスク構造調整
(4)一本化 すべての医療保険制度を1つの制度に統合する
の4方式が議論されてきた。
 一本化案では,すべての国民が同じ負担と給付のルールが適用されるという意味で,制度一元化が達成される。制度間格差の究極の解決策といえる。しかし,現在の制度をご破算にするほどの大改革は実現不可能だと考えられていた。私が「試案・医療保険制度一元化」および「公的医療保険一元化を」(https://iwmtyss.com/Docs/1999/KotekiIryoHokenIchigenkawo.html)で提案したのは,現在の保険制度の形を維持しながら,リスク構造調整によって実質的に制度一元化を達成するものである。保険制度の単位(加入者集団)の2つの意味を分けて考えることが,この提案が意図することの核心である。

(参考文献)
岩本康志(1996),「試案・医療保険一元化」,『日本経済研究』,第33号,11月,119-142頁(八田達夫・八代尚宏編『 社会保険改革』(シリーズ現代経済研究16),日本経済新聞社, 1998年5月,155-179頁に収録)

岩本康志(2002),「高齢者医療保険制度の改革」,『日本経済研究』,第44号,3月,1-21頁

(関係する過去記事)
高齢者医療制度に関する検討会

日本経済新聞・経済教室「たばこ増税 効果いかに」

 10月6日の日本経済新聞朝刊の経済教室欄に拙稿「たばこ増税 効果いかに」が掲載されました。
 たばこ税を単なる増収策として論じるだけではなく,経済学が喫煙規制にどう貢献(場合によっては妨害)してきたかを解説しました。

「日経ネットPLUS」に,拙稿に関連した追加記事を書いており,後藤康雄,鈴木明彦,永浜利広氏によるコメントが寄せられています。また,会員のコメント欄も設けられています。日経ネットPLUSは,新聞媒体と連動して,より付加価値の高い情報を提供するサイトだそうです。会員登録が必要ですが,無料です。

(参考)
日経ネットPLUS
http://netplus.nikkei.co.jp/

(関係する過去記事)
たばこが安い国

高齢者医療制度に関する検討会

 先月,舛添厚労相が長寿医療制度(後期高齢者医療制度)の見直しに突然言及し,大臣直属の「高齢者医療制度に関する検討会」が9月26日に立ち上がった。この委員就任の要請が会議前日にあり,あわただしく出席することになった。

 私は,医療保険はリスク構造調整を用いて一元化を図るべきだと,かねてから考えている。1996年に『日本経済研究』誌に寄稿した「試案・医療保険制度一元化」でくわしく議論しており,その考え方を短く解説したのが,1997年に『日本経済新聞』に寄稿した,「公的医療保険一元化を」(https://iwmtyss.com/Docs/1999/KotekiIryoHokenIchigenkawo.html)である。それから10年以上経ったが,哀しいかな改革の提言の大筋はそのまま今に通用する。
 政府が75歳以上を対象とした独立の高齢者医療制度を創設することを決めたのは,2003年3月の閣議決定である。そこに至る議論のなかで,選択肢の一つとしてリスク構造調整もあがっていたが,それは選択されなかった。制度のより具体的な議論のために,2003年7月に社会保障審議会に医療保険部会が設置され,そのときから私は臨時委員を務めている。
 意見が違うところになぜ入ったのか,と言われそうだが,審議会に参加したのは,政府管掌健康保険に導入されるリスク構造調整の行方を見届けたかったからである。高齢者医療制度については,閣議決定が覆るとは考えられなかったが,機会を見て持論をのべることにした。

 今回の検討会は解散総選挙があれば仕切り直しかご破算になる可能性がある。また,以前から医療では与党が意思決定に大きく関与しており,政府内の議論だけで結論とはならない。さらに,ねじれ国会では,野党との調整も必要である。政府内の検討会でどういう成果をあげられるのか不透明だ。
 現在のところ,75歳で線引きしたことの是非が一番大きな問題である。政府が若干の手直しで済ませたいようなら,意見が対立しそうだ。

(参考)
「公的医療保険一元化を」(岩本康志)
https://iwmtyss.com/Docs/1999/KotekiIryoHokenIchigenkawo.html

(参考文献)
岩本康志(1996),「試案・医療保険一元化」,『日本経済研究』,第33号,1996年11月,119-142頁(八田達夫・八代尚宏編『 社会保険改革』(シリーズ現代経済研究16),日本経済新聞社, 1998年5月,155-179頁に収録)
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