岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます。

2008年11月

Yahoo! ブログから引っ越しました。

『経済セミナー』誌・インタビュー

『経済セミナー』誌12月号に,インタビュー記事が掲載されました。
 研究者になるきっかけは何ですか,と質問を受けたのですが,とくにおもしろい話がないのが残念でした。
 行動経済学の政策への応用が主な話題になっています。

二部門アプローチのもう一つの部門

 10月31日の経済財政諮問会議で,吉川洋社会保障国民会議座長が,社会保障の機能強化のための追加所要額を2015年度で7.6~8.3兆円(消費税率換算で2.3~2.5%程度)と報告した。「消費税率はどこまで上がるか」では,これを前提にした場合,財政収支改善のために必要な消費税増税を加えると,私の見積もりで2015年度の消費税率は12%程度が目安と書いた。
 11月20日の諮問会議民間議員資料では,同じ吉川座長の報告を前提にして,社会保障部門に安定財源を充てるには2015年度で消費税率が13.2~13.5%程度になるとされている。こちらが,私の見積もりから消費税率1.5%分,大きくなっているのは,必要な消費税の考え方が違うからである。

『中期プログラム』の二部門アプローチ」で示したように,国・地方を一体で,歳出・歳入項目を
  (歳出)=(歳入)
のように表すと,
  社会保障公費負担+その他歳出=消費税+税(消費税以外)+財政赤字
と図式化できる。
 二部門アプローチは,これを社会保障部門とその他一般部門に分割して,消費税で賄えていない社会保障公費負担財源はすべて財政赤字に充てられていることを前提にした。つまり,

(社会保障部門) 社会保障公費負担=消費税+財政赤字

のようになる。
 このことの裏返しで,消費税以外の税収は一般部門に充てられることになり,

(一般部門) その他歳出=税(消費税以外)+財政赤字

という関係が一般部門の事情とはおかないましに決まってしまう。かりに消費税以外の財源が過剰であれば,一般部門で無駄遣いが助長されかねない。
 実際のところは一般部門にも財政赤字が残るので,そこまで心配することはないが,こちらの財政収支改善をどう図るかをしっかり見ておく必要がある。それを議論する前に,あるべき消費税率の水準は決まらない。今後の諮問会議でこのことが議論になれば,あらためて取り上げたい。

(関係する過去記事)
消費税率はどこまで上がるか

『中期プログラム』の二部門アプローチ

「中期プログラム」の二部門アプローチ

 20日の経済財政諮問会議では「中期プログラム」が議論され,社会保障部門に安定財源を充てるためには2015年度に最大で消費税率8.5%増が必要という試算が出された。その根拠がおかしな点について,何回かの記事に分けて指摘していく。
 今回は,ここでとられた「二部門アプローチ」についてである。
 これは,与謝野馨氏が座長だった自民党財政改革研究会中間取りまとめ(2007年11月)で出された考え方であり,従来の財政健全化の議論が国・地方(社会保障基金をのぞく)を一体としていた(いわば「一部門アプローチ」)のを,社会保障部門とその他一般部門に分けている。
 国・地方を一体で,歳出・歳入項目を
  (歳出)=(歳入)
のように表すと,

  社会保障公費負担+その他歳出=消費税+税(消費税以外)+財政赤字

と図式化できる。現在は,消費税は福祉目的化されていて,その税収は年金・医療・介護の公費負担に充てられていることになっている。しかし,歳入の大部分は一般財源なので,どの歳入項目がどの歳出に充てられるという整理は完全にはできない。予断をもたずに,社会保障部門と一般部門に歳出・歳入項目を分割すると,

(社会保障部門) 社会保障公費負担=消費税+税(消費税以外)+財政赤字
(一般部門) その他歳出=税(消費税以外)+財政赤字

となるだろう。そして,それぞれの部門の税(消費税以外)と財政赤字の配分は曖昧である。
 自民党財政改革研究会はさらに踏み込んで,消費税で賄えていない社会保障公費負担財源はすべて財政赤字に充てられていることを前提にしている。つまり,

(社会保障部門) 社会保障公費負担=消費税+財政赤字

と考えている。この議論では,必要な消費税増税が2種類ある。1つは,今後の社会保障費の増加を消費税増税でまかなうものである。もう1つは,社会保障費の財源をすべて消費税でまかなうために,財政赤字分を消費税増税で置き換えることである。私は,前者は妥当な考え方だと思うが,後者には疑問をもっている。社会保障公費負担とその他歳出が決定される論理と,税体系のなかで消費税とその他の税をどう組み合わせるかという論理はまったく別個のものであるのに,それを無理に接合しようとしているからである。
 消費税全額を社会保障の財源にするという現在の制度と,社会保障の財源全額を消費税にするというのは,まったく別の次元の話である。後者は,消費税を社会保障目的税にすることに加えて,社会保障部門を消費税が財源の独立採算制にすること意味する。両者を合わせて目的税化と呼ぶと,議論が混乱する。

 二部門アプローチの本質は,消費税増税を国民に納得してもらうためのレトリックにある。国民の反応は,増税が社会保障財源に充てられるなら是とするが,財政赤字削減に充てられるならまず歳出削減せよと抵抗する,という前提がある。この抵抗をかわすために,一部門アプローチなら財政赤字削減のための増税となるものを,社会保障の財源に充てるように見せているのである。
 私は,歳出削減は必要だがそれだけでは財政健全化は図れず,増税が必要であると考えている。しかし,それを政治的に実現するために二部門アプローチをとることには疑問を感じる。国民が最終的には理性的な判断をしてくれると信じて,抵抗が生じても,財政赤字削減のためには歳出削減だけではなく,増税が必要となることを訴えるべきだと思う。
 現在の社会保障財源に消費税だけでなく,その他の税も充てられているものと国民が思っていると,二部門アプローチは最大の弱点に直面する。その他の税の部分が消費税増税に置き換わったとしたら,置き換えられた税収はどこへいくのだろうか,と問われると,それを隠すのが二部門アプローチのねらいなので,口ごもるしかないのだ。
 二部門アプローチは,増税の必要性を誤解している国民は,社会保障公費負担の財源は消費税のみであるという誤解も一緒にしてくれることを期待しているが,はたしてそのように話は進むのだろうか。

(注)
 諮問会議民間議員資料「「中福祉・中負担」の社会保障の確立による安心強化に向けて」6ページでは,2015年度の消費税1%分の税収が3.3兆円,社会保障公費が43.5~44.3兆円と書かれている。社会保障費の上限を消費税率換算した数字は資料に明示されておらず,2つの計数から計算すると8.4%になる。じつは,社会保障国民会議のバックデータによれば,消費税1%の税収は3.27577529716674兆円であるので,こちらで計算すると8.5%になる。8.5%という数字が注目されているので,資料にきちんと8.5%と書き込む方がいい。

(参考)
「「中福祉・中負担」の社会保障の確立による安心強化に向けて」(経済財政諮問会議民間議員資料,2008年11月20日)
http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2008/1120/item2.pdf

「中間とりまとめ」(自由民主党財政改革研究会,2007年11月21日)
http://www.jimin.jp/jimin/seisaku/2007/pdf/seisaku-026.pdf

(参考文献)
「持続可能な社会保障制度とそのための安定財源の確保 「中期プログラム」策定に向けた課題」(鶴光太郎)
http://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0249.html

(関係する過去記事)
消費税率はどこまで上がるか

定額給付金の所得制限をめぐる迷走

 追加経済対策のなかの2兆円の定額給付金に所得制限を設ける方法として,高額所得者に受け取りを自粛するように促す案が現れた。一言でいえば「正直者が馬鹿を見る」制度なので,実現に値しない方法だが,経済学的には奥の深い論点を含んでいる。
 所得を基準に対象者を分ける制度は現にいろいろ存在するが,それらは政策当局が所得を把握していることが前提である。じつはそのとき,本当は所得以外の属性をもとに政策を実施したいが,それが把握できないため,所得を代理指標として用いていることがある。代表的なものは所得税の累進税率である。所得再分配のためには能力に応じて税率を設定する方が望ましい。所得課税は,平均以下の能力でも人より勤勉に働くことで所得を得る人よりも,能力があっても働かないで所得の低い人を優遇する。努力に税金をかける必要はないのだが,所得は把握できるが,能力と努力を別々に把握できない。だから,次善の策として所得を基準に税率を設定しているのだ。これがVickrey (1945),Mirrlees (1971)による,最適所得税の考え方の出発点である。
 法律を作らず予算措置で定額給付金を実現させるには所得情報を使えないのが,現状の悩みである。所得が把握できないが所得に応じて対象者を決めるとなると,自己申告制にせざるを得ない。
 虚偽申告の罰則も心理的費用もなければ,高額所得者も定額給付金を受け取るだろう。経済学では個人はそのように行動すると想定して,政策を設計する。これは経済学が虚偽申告を勧めているのではない。経済学者は普通の国民と同じく,皆が正直に生きていくことを願っている。しかし,世の中に不心得者がいることは認めざるを得ない現実である。そこで,正直者が馬鹿を見ない制度を設計しないといけない。
 高額所得者に辞退を促す案は,こうした経済政策の決めごと(所得は把握できる。正直者が馬鹿を見ないようにする)を大きく逸脱している。もしこの方法がうまくいくのであれば,なぜ皆が損をしても正直に行動するのかを行動経済学的接近で解明して,政策の議論を見直さないといけないだろう。
 さらに,この方法がうまくいくのであれば,定額給付金が貯蓄に回って需要刺激につながらないという懸念に対処して,もう一工夫できる。需要刺激に効果的なのは,限界消費性向が高い人にお金を渡すことである。しかし,政府が個人の限界消費性向を知ることはできないので,普通はこういう政策を考えない。しかし,所得が観察不可能な状況ならば,限界消費性向も同じこと。自主的辞退案が本当にうまく機能するのなら,限界消費性向の高い人を定額給付金の対象にして,限界消費性向の低い人には辞退してもらう制度にすれば,より効率的な需要刺激策になるはずである。私は自主的辞退案がうまく機能するとは思わないので,これは政策提言ではなく,政策の考え方をより深く理解するための思考実験である。おかしな前提からはおかしな帰結が導かれるのである。

(参考文献)
Mirrlees, J. A. (1971), “An Exploration in the Theory of the Theory of Optimum Income Taxation,” Review of Economic Studies, Vol. 38, No. 114, April, pp. 175-208.
Vickrey, William (1945), “Measuring Marginal Utility by Reactions to Risk,” Econometrica, Vol. 13, No. 4, October, 319-333.

(関係する過去記事)
ほぼ余計な追加的経済対策

NRC Handelsblad紙にコメント掲載

 オランダの新聞NRC Handelsblad紙の10月29日の記事「Dure yen maakt pinnen pijnlijk」(http://www.nrc.nl/nieuwsthema/kredietcrisis/article2042422.ece/Dure_yen_maakt_pinnen_pijnlijk
に,私のコメントが掲載されました。
 コメントを含む段落は以下の通りです。

Cijfers tonen dat veel Japanners in de problemen moeten zitten. De Japanse bevolking heeft miljarden naar het buitenland gebracht. Toch wil professor Yasushi Iwamoto van de Universiteit van Tokio het probleem graag relativeren. „De sterke yen is allereerst een probleem voor de handel”, zegt de econoom. „Natuurlijk zijn er mensen die persoonlijk zijn geraakt door de stijging. Maar meestal gaat het om rijke mensen. Veel gewone Japanners hebben niet zoveel vermogen en kunnen nu juist profiteren van goedkopere import en voordelige buitenlandse reizen.”

 オランダ語なので,よくわかりません。グーグルで翻訳してもらうと,以下のようになりました。

統計によれば、トラブルには多くの日本の人々に座るに表示されます。海外で日本の人口は10億をもたらしました。それにもかかわらず、岩本靖教授東京大学の視点での問題のようです。"円高は主に市場の問題だ"と経済学者と述べた。"もちろん個人的には人の増加の影響を受けている人々がいる。しかし、通常、これらの豊かな人々がいる。そんなに多くの普通の日本語力と正確に安価な輸入品を利用することはできませんがあると有利な外国人旅行。"

 意味不明のコメントで,オランダの人にはご迷惑をおかけしています(わけではないと思いますが…)。

(注)
 メディアへのコメントは,ブログではなくこちら(https://alumni.iwmtyss.com/professoractivity.html )でお知らせしていますが,今回は例外です。


[2019年12月14日追記]
いま,グーグルで翻訳してもらうと,以下のようになりました。機械翻訳はだいぶ進歩しているようです。

数字は、多くの日本人が困っていることを示しています。 日本の人口は数十億ドルを海外にもたらしました。 しかし、東京大学の岩本泰教授は、この問題を視野に入れたいと考えています。 「円高は主に貿易問題です」とエコノミストは言います。 「もちろん、この上昇に個人的に感動した人もいます。 しかし、ほとんどの場合、それは金持ちです。 多くの普通の日本人はそれほど多くの力を持っていないので、今では安価な輸入品や海外への安価な旅行の恩恵を受けることができます。」
アクセスカウンター
  • 今日:
  • 累計:

岩本康志の著作等
  • ライブドアブログ