岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます。

2008年12月

Yahoo! ブログから引っ越しました。

行動経済学会 第2回大会

 12月20日(土)に学術総合センターで開催された行動経済学会第2回大会の特別セッション「行動経済学は政策に役立つか?」で報告をしました。学会の案内は,下記のURLで。
http://www.iser.osaka-u.ac.jp/abef/event2.html

 報告者は齊藤誠一橋大教授,松島斉東大教授と私,司会が大竹文雄阪大教授でした。報告者がそれぞれ20分の報告の後,議論のやりとりをしました。その模様は後日WEB学会誌に掲載される予定です。私の報告スライドは,私のWebサイトで公開しています(https://iwmtyss.com/Docs/2008/ABEFSlides.pdf )。

(2009年3月27日追記)
 特別セッションの記録が,行動経済学会誌『行動経済学』のP vol.2 no.1として,2月20日に行動経済学会のサイトで公開されました(http://econon.cun.jp/abef/doc/panel_discussion_081220.pdf )。

国の一般会計の基礎的財政収支(埋蔵金調整済)

 20日に2008年度2次補正予算案と2009年度予算財務省原案が発表されたので,国の一般会計の基礎的財政収支の動向を見てみよう。昨年の「国債発行は減額に,しかし...(進路と戦略2007)」のアップデートである。
 問題となるのは埋蔵金の扱いだ。財政投融資特別会計の積立金が2008年度に4兆1580億円,2009年度に4兆2350億円,一般会計に繰り入れられる。予算・決算での基礎的財政収支の定義では,特別会計からの繰入は収入と扱われるが,本来は収入としない方が適切だ。毎年1月に中期展望がまとめられる際に内閣府が試算する財政収支では,財投特別からの繰入は収入に計上していない。これにならうと,基礎的財政赤字(埋蔵金調整済)は2008年度で16.8兆円,2009年度で17.3兆円となる。
イメージ 1

 上の図は,2007年度から2009年度までの基礎的財政収支の対GDP比を示している。(1)当初今年1月の「進路と戦略2007」参考資料での試算,(2)埋蔵金調整前,(3)埋蔵金調整済,の3系列を示している。(2),(3)では,2007年度は決算,2008年度は補正後,2009年度は予算となる。2008年度は,当初予算の段階では1.0%の赤字が,補正後で埋蔵金調整前で2.5%,埋蔵金調整後で3.3%に拡大する。2007年度決算から2008年度埋蔵金調整済計数へはGDPの2%強の悪化であり,目の子の計算で約3分の2が税収減少による収支悪化(自動安定化装置),約3分の1が裁量的財政拡張となるだろうか。

(参考)
平成20年度補正予算(第2号)
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/h20/hosei201220.htm

平成21年度予算財務省原案
http://www.mof.go.jp/genan21/yosan.htm



(2009年2月5日・追記)
図の凡例が「2009年度予算・・・」となるべきところ,「2008年度予算・・・」と誤記していたので,訂正しました。

なぜ年金,医療,介護,少子化の4分野なのか

 16日に経済財政諮問会議で議論された「中期プログラム」では,「国・地方を通じた年金、医療、介護の社会保障給付及び少子化対策に要する公費負担の費用について、その全額を国・地方の安定財源によって賄うことを理想とし、目的とする。」とされている。これについて,どうして対象が年金,医療,介護,少子化の4分野だけなのか,という議論が研究者仲間であった。生活保護,失業保険,労災保険,福祉等の重要かつ財政支出の大きい制度が存在するのだが,それらは安定財源(消費税)で賄う必要はないのか。

 おそらく以下のような事情だろう。
 まず,鶴光太郎経済産業研究所上席研究員が説明するように,「安定財源の確保の仕方として、社会保障の充実、機能強化に必要な増額分を消費税増税分で賄う「増額アプローチ」と既存の社会保障給付費(年金・医療・介護+少子化対策)の「根っこ」の部分からも含めその総額を消費税ですべて賄おうとする「総額アプローチ」がある。」ことを理解しておく必要がある。
 もともと10月31日の経済財政諮問会議で,吉川洋社会保障国民会議座長が,社会保障の機能強化のための追加所要額を2015年度で7.6~8.3兆円(消費税率換算で2.3~2.5%程度)と報告したことが,中期プログラムの議論の土台にある。国民会議は,増額が必要な分野として4分野を選択したので,社会保障の全分野の財政試算をしなくても不都合なことはない。
「中期プログラム」の「3.安心と責任のバランスのとれた財源確保」は,

「(1) 社会保障安定財源については、給付に見合った負担という視点及び国民が広く受益する社会保障の費用をあらゆる世代が広く公平に分かち合う観点から、消費税率引上げを軸として確保する。この消費税率引上げは税制抜本改革の一環として実現する。
(2) この際、国・地方を通じた年金、医療、介護の社会保障給付及び少子化対策に要する公費負担の費用について、その全額を国・地方の安定財源によって賄うことを理想とし、目的とする。」

と書かれている。(1)は増額アプローチで,(2)は総額アプローチである。
 (1)の増額アプローチの土台は社会保障国民会議の報告にあるので,そのまま(2)で総額アプローチに移ると,対象が必然的に4分野になってしまい,他の制度が含まれなくなる。
 そのため,増額アプローチが総額アプローチに変身したところで,増額の財源を確保しなくてもいいものは総額の財源も確保しなくてもいいのか,という当然の疑問に直面することになった。

 総額アプローチは,増額アプローチからそのまま導き出されるのではない。両者は別物である。上の文章は,両者を「この際」の一語のみで繋いでいる。
 増額アプローチは国民の理解を求めやすいと思うが,そこから総額アプローチに進む議論に無理があるのではないのか。

(注)
 消費税の社会保障目的化とは別の論点であるが,機能強化が必要な分野には生活保護も含むべきだと思う。生活保護の捕捉率が悪いという大問題があるので,大きな財源が必要であっても生活保護の機能強化を図るべきである。

(参考)
「持続可能な社会保障構築とその安定財源確保に向けた「中期プログラム」」(経済財政諮問会議,2008年12月16日)
http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2008/1216/item1.pdf

「社会保障の機能強化のための追加所要額(試算)」について(吉川社会保障国民会議座長提出資料,2008年10月31日)
http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2008/1031/item3.pdf

「持続可能な社会保障制度とそのための安定財源の確保 「中期プログラム」策定に向けた課題」(鶴光太郎)
http://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0249.html

(関係する過去記事)
『中期プログラム』の二部門アプローチ

二部門アプローチのもう一つの部門

政策ラグ

 マクロ経済学の教科書に書かれていることを無視するのは,場合によっては政権の命取りになるかもしれない。
 マクロ経済学の教科書では,安定化政策が適切な時機を得て実行されることが難しいことが書かれている。政策対応が必要なショックが発生してから,実際に政策効果が発揮されるまでには,大きく3つのラグがある。第1は,ショックの発生を政策当局が認識するまでの「認知ラグ(recognition lag)」。第2は,認識から実際に政策が発動されるまでの「実行ラグ(action lag)」。この2つをあわせて,ショックの発生から政策の発動までを「内部ラグ(inside lag)」と呼ぶ。第3は,政策が発動されてから効果を発揮するまでの「外部ラグ(outside lag,または効果ラグ)」である。
 財政政策は金融政策に比較して,内部ラグが長い。景気の悪化は政権批判につながりやすいので,政権を担当する政治家は景気後退の判断が遅れる(認知ラグ)。財政支出拡大には予算や法律が国会で成立する必要があり,そのための時間を要する。また,政策によっては予算・法律の成立から実行までに,さらに時間を要する(実行ラグ)。財政支出それ自体が需要創出なので,財政政策の外部ラグは短いといわれるが,内部ラグが長くなってしまうと,景気が回復してから景気対策,のようなお粗末な事態も生じ得る。金融政策の場合,政策の判断を専門家に委ね,金利変更は決定すれば即座に実行されるので,内部ラグは財政政策と比較して,はるかに短い。政策ラグの観点から見ると,機動的に運営できる金融政策がまずは安定化政策の主役を担い,金融政策だけでは対処できない場合に財政政策で補完するという役割分担となる。
 財政政策の発動には通常でも時間がかかるのに,わが国の現状は,ねじれ国会で実行ラグがさらに長くなっている状況だ。麻生首相は10月30日の記者会見で,経済対策のポイントはスピード,といったが,財政政策のラグを十分に認識していれば,もう少し慎重な表現を選んだだろう。迅速な対策を強調しながら,2次補正予算の提出を年明けに延ばしたことが矛盾と受け止められ,内閣支持率の低下につながったとすれば,マクロ経済学の教科書に書かれていることを軽視したことで政権基盤を損ねた,といえるだろう。

 金融危機の震源地の米国では,本来は財政出動を迅速に実行に移していくべきだが,大統領交代にともなう内部ラグが生じている。経済政策だけから見れば,来年1月20日まで死に体政権がホワイトハウスに居座っているのは世界経済にとっても大迷惑だが,だからといって大統領の交代時期を早めるわけにもいかない。上院と下院の多数派が異なることで金融機関や自動車産業の救済策がもめてしまい,世界の市場が振り回されている。しかし,これも権力を分散させる統治機構の理念が優先されると考えざるを得ない。マクロ経済学の教科書も大事だが,憲法の教科書も大事だ。

 12日の麻生首相の記者会見では,2009年度予算で1兆円の経済緊急対応予備費が新設されることが発表された。麻生首相の発言は以下の通り。
「先日、閣議決定をいたしました予算編成の基本方針におきまして、世界の経済金融情勢の急激な変化を受け、状況に応じて果断な対応を機動的かつ弾力的に行いましたのは、御存じのとおりです。今後、予期せぬ新たな事態に備えて、この予備費を新設しておきたいと存じます。」
 こういう予備費の前例は,1999年度から2001年度までの予算に計上された「公共事業等予備費」である。3年間にそれぞれ5,000億円,5,000億円,3,000億円が計上されていた。今回の予備費は,シーリングを外して歳出拡大を求める圧力をかわすことと,実行ラグを短くすることの2つの目的がある。
 必要に応じて1兆円を機動的に支出できるとなれば,実行ラグは大幅に短縮されるが,憲法で規定する財政民主主義(第83条「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。」)を尊重すれば,こうした策は望ましくはない。予備費について,憲法第87条は,
「1 予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。
 2 すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。」
と規定している。
 野党多数の参議院が事後で承諾しないと大変そうに見えるが,すでに今年の通常国会で2006年度の予備費が不承諾になったが,何事もなく大丈夫なことが判明した。歯止めがないと,今回のような予備費が今後,多用されるかもしれない。逆に,規模が大きくなると問題になるかもしれない。
 今回の予備費は,マクロ経済学の教科書を無視して手痛い目にあった政権が,憲法の教科書を読み込んでリベンジに出たかのようにも受け取れる。マクロ経済学では年度途中の財政出動は補正予算編成を前提に考えてきたが,経済学者が憲法の教科書を読み込んで,政策ラグの議論を書き換える事態が将来に到来するかもしれない。

(注)
 内部ラグでは,政策当局の認識から意思決定までを「決定ラグ(decision lag)」と呼ぶこともある。金融政策の場合,意思決定すれば直ちに政策が発動されるから,認知ラグ以外の内部ラグはほぼ決定ラグである。財政政策の場合は,決定時点が見えにくく,担当者が決心してから政策の発動までのラグが重要であるので,ここでは財政政策を念頭に,実行ラグでまとめている。

(参考)
麻生内閣総理大臣記者会見(2008年12月12日)
http://www.kantei.go.jp/jp/asophoto/2008/12/12kaiken.html

第10回マクロコンファレンス

 12月7日(日)に学術総合センターで開催された,10th Macroeconomics Conferenceに出席し,宇南山卓先生(神戸大学)の論文の討論者を務めました。
 コンファレンスの案内は,下記のURLで。
http://www.ier.hit-u.ac.jp/~ifd/doc/2008MacroConfer.html
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