岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます。

2009年07月

Yahoo! ブログから引っ越しました。

【政権選択選挙】民主党マニフェストに隠れる消費税2%相当の増税

 民主党マニフェストでは恒久的財源と一時的財源の区別がついていない。
 政策実施のための財源として,「埋蔵金」の活用と政府資産の計画的売却で5兆円を確保することを予定しているが,これは毎年持続するとは考えられないので,一時的財源である。マニフェストに盛られた16.8兆円の新規政策は恒久的政策であり,これに一時的財源5兆円と,恒久的財源となる歳出削減と増税の合計11.8兆円を充てる形となる。本来は恒久的政策には恒久的財源を充てるべきであり,一時的財源を充てると将来に財源不足に陥る。

 民主党マニフェストでは,今度の衆院選で政権をとった場合の衆議院任期中に編成される2010~2013年度予算での,実現を目指す政策の予算規模と実施時期がおおよそ明記されている。このように政策構想の詳細を公表し,後で実績の評価を受けようとする姿勢は大いに評価したい。自民党もこれにならうべきだ。
 さて,マニフェストの4年間は政策の財源がきちんと確保される形で記述されているが,ここで問いたいのは,5年後の2014年度に何が起きるかである。そこで埋蔵金が尽きていると(本当はもっと早くに尽きる可能性が高いが),5兆円の歳入不足になる。今回のマニフェストを超えての歳出削減はもはや困難だろうから,これを埋めるには増税することになるだろう。5兆円は消費税だと2%分になる。つまり,埋蔵金が続かなくなったところで消費税2%相当の増税をしなければいけないことが,今回のマニフェストに暗黙のうちに含まれていると考えられる。この増税は高齢化による社会保障費の自然増をまかなう増税や,財政収支改善のための増税とは別物で,民主党の新規政策をまかなうために必要な増税である。そのことを念頭に置くと,マニフェストの期間中に増税が現れないように,当面は埋蔵金を充てて増税の先送りを図っているとも解釈できる。

 公平を期すために付言すると,現政権も同様のことをしている。今年度から基礎年金の国庫負担が給付額の2分の1に引き上げられたが,そのための安定財源を税制改革で確保すると以前に決めていたところを,税制改革を先送りして,2年間は埋蔵金でしのごうとしているのである。
 与党も野党もこういうことはすべきでない。しかし,選挙戦ではそういう方向に議論が進まない可能性が高い。かりに自民党が「民主党は消費税2%相当の増税を先送りして,マニフェストから隠している」と批判すると,「基礎年金国庫負担の財源確保を先送りしている与党にそんなことを言われる筋合いはない」と切り返されそうである。このやりとりでは,与党がしているから野党もしていい,という話になってしまう。
 そうではなく,民主党マニフェストがどう改善されるべきかを議論すべきだ。マニフェストに盛られた政策を5兆円削減して,恒久的財源の規模に合わせるべきだろう。すでに「【政権選択選挙】民主党の道路政策」で指摘したように,自動車関係諸税の暫定税率の廃止(2.5兆円)をやめることで,まず半分が実現できる。

(参考)
民主党の政権政策Manifesto2009
http://www.dpj.or.jp/special/manifesto2009/index.html

(関係する過去記事)
【政権選択選挙】民主党の道路政策

【政権選択選挙】民主党の道路政策

 民主党の道路政策(暫定税率廃止・高速道路無料化)の考え方は,同党サイトの「道路特定財源制度」ページ(http://www.dpj.or.jp/special/douro_tokutei/index.html )にある「道路特定財源制度の改革について」(http://www.dpj.or.jp/special/douro_tokutei/pdf/20080202seido_kaikaku.pdf ,同党税制調査会,2008年2月)で本文A4・9ページにわたり,くわしく説明されている。
 現在,自動車とその燃料については,消費税以外に約6.9兆円(2009年度予算)の税が課せられている(上記文書に合わせ自動車関係諸税と呼ぶことにする)。上記文書の「2.自動車関係諸税の将来の方向性」は,
「間接税については個別の物品・サービス等がもたらす社会的有用性や社会的コストに着眼した「グッド減税・バッド課税」の考え方に基づいた課税体系に改めるべきであると考えている」
という原則に沿ってあるべき姿を示しているが,自動車とその燃料に高税率をかける根拠に道路の建設・維持にかかる費用は含まれていない。これは,上の文章の後に,
「揮発油税を始めとする道路特定財源制度は,いずれも道路整備を目的として課税している。従って,現在特定財源制度となっている6種類の税目を一般財源化するのであれば理論的に突き詰めれば,いずれも課税の根拠を失うことになり,税そのものを廃止することとなる」
と書かれていることからわかる。

道路特定財源の経済分析」でのべたように,道路特定財源制度は正しく運用されれば,一定の条件のもとで効率的な道路整備を実現できる制度である。一定の条件とは道路整備・維持の平均費用が一定であることと,地球温暖化の外部費用がないという条件である。
 しかし実際には地球温暖化の外部費用が存在するので,道路の平均費用以上の燃料課税を課すべきであり,燃料課税収入をすべて道路に回すと道路投資が過剰になる。道路特定財源の一般財源化が議論された時期に私が適切だと考えた解決策は,自動車関係諸税を一般財源化して「自動車関係諸税収入>道路費用」となることを許し,事業評価を厳格におこない道路整備を適正な水準にすることである。前者の一般財源化は実行されたが,厳正な事業評価の実現には残念ながらほど遠いのが現状である。
 民主党は予算の無駄を正すことを日頃強調するので,私の考えのように事業評価を厳格化して問題を解決するのかと思っていたら,民主党は,道路利用者が道路整備費用を負担するという考え方を制度から排除する道を選んだ。つまり,利用者負担の考え方が道路事業の膨張を産んだから,道路利用者は道路整備費用を負担すべきではないという原則に変えるべきだと考えているようである。
 道路事業が膨張した原因は,道路を求める利益集団の圧力にある。なぜ,そこを正す道筋を選ばなかったのか。これを正すことは容易ではないという判断だろうか。そうだとしても,民主党の選択した道には,2つの危険がある。
 第1に,利益集団の圧力を正さないと,今度は道路利用者以外の負担で過大な道路事業が続くことになる。暫定税率が廃止され,高速道路が無料化された場合,かりに国の直轄事業を半減しても,地方の事業量が維持されると

 自動車関係諸税収入<道路費用

になるのは間違いない。道路利用者以外が道路費用を負担することに理解が得られるだろうか。道路事業の大幅な縮小が実現できなかった場合は,道路利用者に高めの負担をさせて道路事業を膨張させてきた自民党道路族よりも,道路利用者の負担を下げて広く一般国民の負担で道路事業を膨張させようとする民主党道路族の方がたちが悪いようにみえる。
 第2に,税の原則が社会的費用を正しくとらえていないので,そこから導かれた税体系は歪んだ姿になる。民主党の考える地球温暖化対策税はピグー税の概念に基づくものと考えられるが,本来のピグー税は,道路の建設・維持に要する費用と温暖化費用を積み上げたものになる。前者の費用を課さず,後者の費用のみを課すのでは適切なピグー税にはならず,道路と燃料の過剰利用になる。
 私は,温室効果ガスの国内排出量の目標が与えられたわが国の現状では,環境税は,ピグー税ではなく,ボーモル・オーツ税の考え方に即したものが適当だと考えている。燃料課税を軽減して,国内排出量を増やすのは,わが国の目標に反する。暫定税率を含めた水準で環境税への転換を図るのが正しい道筋である。
 現行水準以上で燃料課税が維持されるならば,高速道路無料化はあり得る政策である。最近開通した路線や建設中の路線の多くは料金収入で事業費を回収することが困難であり,そもそも有料道路として整備すべきものではない。東名・名神高速道路等のドル箱路線は,建設当時の制度であればとうの昔に無料開放されている。つまり,高速道路事業は本来の使命をほぼ終えているのである。一般道路事業を大幅に縮小し,そこに高速道路の債務返済を充て込む形であれば,財政的にも実現可能である。

結論
ガソリン値下げ 反対
高速道路無料化 容認

(注)
 2009年度予算で計算すると,民主党案のように暫定税率と自動車取得税が廃止されると,自動車関係諸税収入は2.7兆円の減収で,4.2兆円になる。一般道路の事業費は,
 国の直轄事業 1兆7753億円
 補助事業 6240億円
 地方単独事業 1兆9900億円
である。この他に,道路に使途を限定していない地域活力基盤創造交付金9400億円の大部分が道路事業に使われる。さらに首都高速・阪神高速以外の高速道路が無料化された場合,2.1兆円の料金収入の代替財源が必要になる。

(参考)
「道路国定財源制度の改革について」(民主党税制調査会,2008年2月)
http://www.dpj.or.jp/special/douro_tokutei/pdf/20080202seido_kaikaku.pdf

「平成21年度道路関係予算のポイント」(国土交通省道路局・都市・地域整備局,2009年1月)
http://www.mlit.go.jp/common/000031044.pdf

「高速道路建設の是非」(岩本康志,2003年3月)
https://iwmtyss.com/Docs/2003/KosokuDoroKensetsunoZehi.html

(関係する過去記事)
道路特定財源の経済分析

ガソリン税率の水準はいくらであるべきか

【政権選択選挙】ブログの方針

 衆院選に向けた記事をすでにいくつか書いてきたが,選挙戦に入って変な形で使われては困るので,ブログの方針を説明しておきたい。
(1:マニフェスト重視)経済学的な視点からマニフェストを評価する。
(2:不偏不党)特定の政党に肩入れしない。価値観の問題は有権者の選択にゆだねる。おもに技術的な問題点に関心を向ける。

 片方の政党の政策の長所だけをほめ,片方の短所だけを攻撃するなどして,特定の政党に肩入れするようなことはしない。選挙での論戦が経済学的にどう評価されるかを説明して,有権者の選択の参考にしていただくことを主要な目的とする。経済学的におかしな議論がまかり通って有権者の選択を誤らせる事態になるのは困るので,批判的な評価が多くなると思うが,そこだけ切り取って○○党寄りというレッテルを貼られては困る。単なる批判だけではなく,できれば改善の方向も指摘したい。

 マニフェストの評価の視点は,与党と野党でかなり違う。与党は実績の評価が大きな比重を占める。まず,前回の政権選択選挙の公約がどれだけ果たされたのか,が問われる。これを問わないとマニフェストは言いっ放しになって,マニフェスト選挙の意味がなくなってしまう。前回の衆院選は,郵政民営化一本を問う異例の選挙だった。結果,郵政は民営化されたが,現在の自民党は逆方向に動いているように見え,公約の実行については非常に低い評価をせざるを得ない。
 与党のマニフェストは,政府の実績の延長線上にあって,手堅いものになるのが普通である。政府が当面進める政策は6月に策定された「基本方針2009」に記されていると考えられるので,これが重要な評価対象になる。
 野党のマニフェストは,与党のそれよりも野心的なものになってしかるべきである。今回の選挙の最大の関心事は,民主党のマニフェストは実行可能なものなのか,であろう。実現不可能なマニフェストを掲げて,風に乗って選挙に勝っても,苦しむのは民主党であり,迷惑なのは国民だ。与党の実績はすでに体験済みだが,野党の提案は実現されていないので,情報が多く提供される必要がある。このブログでも民主党の政策をとりあげる機会の方が多くなるだろう。

【政権選択選挙】民主党増税でサザエさんはどうなる

 民主党マニフェストでは,子ども手当創設と同時に配偶者控除が廃止され,専業主婦で子どものいない世帯は負担増になるとされる。選挙用バラマキが目的ならバラマキになっていないので問題ではある。しかし,子育て支援を目的とした政策なら,子どものいない世帯から子どものいる世帯に所得移転がおこなわれるのは当然である。

 配偶者控除と扶養控除の廃止は,それ自体が税制改革としてどういう意味があるかを考えないといけない。
 配偶者控除については,女性の働き方に対する影響が焦点になる。働き方を大きく,夫の扶養を外れるフルタイム,夫の扶養家族となるパートタイムと無職の3種類に分け,さらに既婚か単身かで区別して,どういう控除を受けているかを考えると,以下のようになる。
  フルタイム・既婚 基礎控除
  フルタイム・単身 基礎控除
  パート・既婚 基礎控除,配偶者控除
  パート・単身 基礎控除
  無職・既婚 配偶者控除
パートで夫の扶養家族となっている場合には,夫の所得から配偶者控除を受けた上で,自分の所得から基礎控除を受けることができる(所得が少ない場合には部分的な適用になる。また,より高い所得では配偶者特別控除の適用があるが,議論の要点に集中するため,ここでは議論の対象外とする)。なお,無職で単身の場合は,生活基盤がどうなるかの方が問題なので,ここでの比較からは除外しておくことにする。
 配偶者控除が廃止されると,
  フルタイム・既婚 基礎控除
  フルタイム・単身 基礎控除
  パート・既婚 基礎控除
  パート・単身 基礎控除
  無職・既婚 
となる。
 両者を比較すると,現行制度では,皆が何らかの控除を受けられるが,パートの主婦は基礎控除と配偶者控除の両方の恩恵に浴することがわかる。一方,配偶者控除を廃止すると,専業主婦が何の控除も受けられないことになる。
 どの働き方でも同じ控除が受けられれば,公平な税制であり,かつ働き方の選択を左右しない中立的な税制である。残念ながら,完全にそのような形にすることはできない。現行制度では,パートの主婦が優遇される。また,フルタイムで働くと配偶者控除がなくなるため,既婚女性がフルタイムで働くことを税制が妨げることになっている。
 配偶者控除が廃止されると,何も控除のない専業主婦が「冷遇」されているように見えるが,そう単純ではない。まず,専業主婦がパートに働きに出ると基礎控除が受けられるようになるが,これは現行制度と同じである。したがって,無職かパートかの選択で無職が冷遇されるようになるわけではない。一方で,パートとフルタイムのどちらも基礎控除が受けられるので,パートを優遇している現行制度から働き方の選択には中立的な制度に変化する。
 専業主婦のみが何も控除を受けられなくなることが不公平とは,かならずしもいえない。経済学では,市場で取引されるサービスだけでなく,家庭内で生産されるサービスも経済活動と考えている。専業主婦は家庭内で家事労働によるサービスを生産している。かりに家事労働のサービスを家政婦が提供して所得を得れば,この所得は課税対象になるが,主婦による家事労働には課税されない。こうして「内助の功に報いる」形となっており,この非課税措置のために基礎控除が受けられないという解釈ができる。現行制度は,それに加えて夫の所得から配偶者控除を受けることで,内助の功に一層報いる形になっているが,それが過度になっているというのが改革案の判断だと解釈できるだろう。

 現行制度は,国民は基礎控除,配偶者控除あるいは扶養控除のいずれかの形で所得税と住民税の控除を受けられるという考え方をもつ。配偶者控除と扶養控除を廃止するのは,働く者だけに控除を与えようとするものである。扶養が必要な階層に対する経済的支援は,おもに社会保障制度で対応することになる。具体的には,高齢者や障害者には公的年金,未成年には児童手当なり子ども手当である。税制での所得控除ではなく社会保障給付とするのは,所得控除では低所得者の恩恵が薄く,高所得者ほど恩恵が厚いのに対して,社会保障給付は所得にかかわらず一律の支援となるからである。
 配偶者控除を廃止して,扶養控除を残してしまうと不都合が生じる。サザエさんは夫のマスオさんの配偶者では控除が受けられないので,父親の波平さんの扶養家族になる方がいい。フネさんは逆に,義理の息子のマスオさんの扶養家族になると税金が安くなる。ただし年金の方で第3号被保険者[2009年7月21日追記:「第2号」としていた誤記を修正しました]になれないと,国民年金の保険料を払うことになるので,家族の実態に合わない扶養状況を会社に届けることは思いとどまることになるが,年金によって税制の歪みを止めるというのは,ちぐはぐな制度である。
 配偶者控除を廃止するなら,扶養控除も廃止するのが整合的な姿である。
 扶養控除を廃止して子ども手当の支給を中学生までとすると,高校生をもつ家庭には負担増になる。そこで高校生を対象にした特別の扶養控除を設けるよりは,子ども手当の支給対象を就業しない未成年に拡大する方が,低所得者にも確実に支援が届くので望ましい制度だといえる(中学校卒業後に働き出した若者に対しては,子ども手当よりも税制による経済支援の方が望ましいだろう)。

 配偶者控除と扶養控除の廃止は,単なる子ども手当支給のための財源確保策ではなく,重要な税制改革である。女性の働き方と扶養を必要とする階層への影響を踏まえた,しっかりした議論がされることを望みたい。

(関係する過去記事)
【政権選択選挙】民主党の「子ども手当」案

【政権選択選挙】民主党の「子ども手当」案

 民主党マニフェストの主要政策で最大の財源を必要とするのが,義務教育終了時まで1人2万6千円を支給する「子ども手当」である。この政策には,評価できる点と疑問符がつく点がある。
(1)
 まず,現在の扶養控除を廃止し,それを財源に児童手当を充実させることには賛成である。
 現行制度の所得税と住民税の扶養控除は児童手当以上に大きな経済的支援になっている。扶養する子がいると,所得税の課税所得が38万円減少し,限界税率10%だと年間3.8万円税金が安くなる。住民税の課税所得は33万円減少し,限界税率10%だと年間3.3万円税金が安くなる。両者を合わせると,月額で5917円の実質的な「手当」をもらっていることになる。児童手当は小学生までが対象だが,扶養控除は年齢制限はない。
 扶養控除の問題は,所得が低くて税金を払っていないと,その恩恵がなくなることである。失職等で生活が苦しくなっても子育ては続くが,そのときに扶養控除による支援は消えてしまうのである。所得にかかわらず支給される手当にすれば,苦しいときも支援は継続する。ここが,「子ども手当」が単なるバラマキではない意義である。
 また,扶養控除による支援は,高所得者に手厚くなる。所得税の限界税率が33%の家庭では,子供1人当たり年間12万5400円税金が安くなる。景気が最近の出生率の動向に影響を与えているといわれており,低所得者への支援が重要と考えられる。所得を問わず一律支給の児童手当の方が,同じ財源総額でも子育て支援の効果は大きくなるだろう。
(2)
 それ以上の財源をつけて,児童手当を充実させることは,政府支出をめぐる価値観の問題になる。ある程度の充実には賛同する国民は多いと思われる。しかし,中学生まで1人2万6千円を支給するためには5兆円近い新規財源を必要とするので,その財源のために削られた歳出とつりあいがとれるかどうか。歳出削減の具体的内容が判明しないと評価はできないが,過ぎたるは及ばざるがごとし,になるかもしれない。
(3)
 財源確保のために扶養控除と配偶者控除を廃止した場合,[2009年7月17日追記:当初はここに「子ども手当の対象とならない高校生をもつ家庭には,扶養控除の廃止の増税のみが来る。」と書きましたが,0~15歳のみの扶養控除を廃止するようなので,この記述は削除します]増税とはっきりいわずに「控除の見直し」という言い方を民主党はしているが,実際に実行するにあたって,すんなり受け入れられるかどうかは未知数だ。
(4)
 民主党案の制度設計の詳細に関して,私なら絶対に避けたいことが2つある。
 第1は,スケジュールの問題。民主党は,最初の2年間は半額(1万3千円)支給,その後に全額支給の2段階で実施するとしている。後で支援を充実することを決めるのは,そのときまで産むのを控えようという行動を誘発するので,少子化対策としては疑問符がつく。とくに現在は第2次ベビーブーム世代が出産適齢期を終えつつある段階であり,出産の先送りが結局は出産の断念につながるおそれもある。子育て支援は一気に充実,が鉄則である。
 なお,スケジュールは税制と連動して考えないといけない。諸控除の廃止を2010年度税制改正に盛り込んでも,不利益遡及を避けると,適用は2011年1月からになるだろう。控除の廃止と手当の充実の時期をうまく一致させて,家計の可処分所得が乱高下するのを避けるべきだ。税制と社会保障にまたがっての制度設計が必要であり,総合調整力を発揮できるかどうかの試金石になる。
(5)
 第2は,支給間隔の問題。現行の児童手当は4か月ごとに年3回の支給である。民主党は何度か「子ども手当法案」を国会に提出しているが,この支給回数は変更しない。すると,子ども2人が対象となる家庭が満額の子ども手当を受給すると,4か月に1度,20万8千円が口座に振り込まれることになる。ミルクやおしめ代に使ってもらうには,適当なお金の渡し方とはいえない。対象と金額を充実させるなら,毎月支給か,少なくとも隔月支給に改めるべきだろう。
 これは,民主党政権が誕生した場合の構造的な課題を端的に示す例である。官僚に頼らず立案された民主党の政策には,このように詰めが甘い部分が随所にある。政治家が大きな部分を決め,官僚が細部を詰めるのは健全な分業であり,詰めの甘さ自体を責める気はない。注目すべきなのは,民主党が政権に就いたとき,事務方が「子ども手当法案」に支給回数の変更を加えるように進言したときにどういう対応をとるかである。民主党の政策に賛成しない役人はクビにする方針のようだが,政策を骨抜きにする抵抗と改善する提案を正しく識別できないと,事務方が「物言えば唇寒し」と感じて消極的になって,詰めが甘いところで足元をすくわれるような事態も起こりかねない。

(参考)
民主党「子ども手当法案」(2008年12月に第170回国会に提出)
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/g17002003.htm
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