GDPの歴史統計とその接続方法について。
わが国のGDPの公式推計値は1930年までさかのぼることができ,4つの世代からなる。
(第1世代:1952~1965年度に作成)
暦年データが1930~1944年,1951~1964年,年度データが1946~1964年度,四半期データが1951~1964年度にかけて推計されている。
最終の報告書は,『国民所得白書』1964年度版になり,1960年価格と1934-1936年価格の実質系列がある。一連の報告書が,内閣府のサイト(http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/archive/historical/sna/menu.html )に掲載されている。
(第2世代:1966~1977年度に作成)旧SNA
1952~1976年のデータがある。
(第3世代:1978~1999年度に作成)68SNA
1955~1998年度のデータがある。最終の実質系列は1990年価格である。内閣府のサイト(http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/h12-nenpou/12annual-report-j.html )に計数が掲載されている。
(第4世代:2000年度から作成)93SNA
1980年以降のデータがある。先月に1980年までの遡及系列が公表され,データが使いやすくなった。現在の実質系列は,2000年価格である。最新の計数はhttp://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/toukei.html に掲載される。
(第1世代:1952~1965年度に作成)
暦年データが1930~1944年,1951~1964年,年度データが1946~1964年度,四半期データが1951~1964年度にかけて推計されている。
最終の報告書は,『国民所得白書』1964年度版になり,1960年価格と1934-1936年価格の実質系列がある。一連の報告書が,内閣府のサイト(http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/archive/historical/sna/menu.html )に掲載されている。
(第2世代:1966~1977年度に作成)旧SNA
1952~1976年のデータがある。
(第3世代:1978~1999年度に作成)68SNA
1955~1998年度のデータがある。最終の実質系列は1990年価格である。内閣府のサイト(http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/h12-nenpou/12annual-report-j.html )に計数が掲載されている。
(第4世代:2000年度から作成)93SNA
1980年以降のデータがある。先月に1980年までの遡及系列が公表され,データが使いやすくなった。現在の実質系列は,2000年価格である。最新の計数はhttp://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/toukei.html に掲載される。
1930年以前は学術研究の領域だが,大川一司・高松信清・山本有造氏による『長期経済統計』(東洋経済新報社,1974年)での1885~1940年の推計が代表的である。これと公式統計を接続すれば連続した系列ができる。しかし,第1世代は現在のSNAとは概念と推計手法が違うので,単純に接続するのは専門的には問題がある。『長期経済統計』自体もその接続はおこなっていない。
溝口敏行・野島教之氏による「1940-1955年における国民経済計算の吟味」(『日本統計学会誌』第23巻第1号,1993年,91-107ページ)は,『長期経済統計』系列は第3世代の68SNAとほぼ同等の推計がされていると考え,同じ次元で両者の架け橋となる系列を作成している。名目GNIが,1940~1944年は第1世代での所得接近法による推計値を修正する形で,1946~1955年については支出接近法による推計値を修正する形で求められる。名目GNIと名目GDPは等しいと想定されている。また,1940~1955年の実質GDP(1955年価格)を生産接近法によって独自に推計している。
「景気との戦争」で使用した名目GDPは,『長期経済統計』,溝口・野島系列,68SNA,93SNAを接続したものだが,あとは1945年のGDPデフレータが必要である。この時期の物価を正確に測定するのは困難な課題であるが,これで論文を書くつもりではないので,ごく単純な方法で推計した。
1945年をまたぐ代表的な物価指数である『卸売物価指数』(日本銀行)の戦前物価基準の系列と溝口・野島系列の名目・実質値から計算されるGDPデフレータの対数を1940年で重ねてみると,下の図のようになる。
溝口敏行・野島教之氏による「1940-1955年における国民経済計算の吟味」(『日本統計学会誌』第23巻第1号,1993年,91-107ページ)は,『長期経済統計』系列は第3世代の68SNAとほぼ同等の推計がされていると考え,同じ次元で両者の架け橋となる系列を作成している。名目GNIが,1940~1944年は第1世代での所得接近法による推計値を修正する形で,1946~1955年については支出接近法による推計値を修正する形で求められる。名目GNIと名目GDPは等しいと想定されている。また,1940~1955年の実質GDP(1955年価格)を生産接近法によって独自に推計している。
「景気との戦争」で使用した名目GDPは,『長期経済統計』,溝口・野島系列,68SNA,93SNAを接続したものだが,あとは1945年のGDPデフレータが必要である。この時期の物価を正確に測定するのは困難な課題であるが,これで論文を書くつもりではないので,ごく単純な方法で推計した。
1945年をまたぐ代表的な物価指数である『卸売物価指数』(日本銀行)の戦前物価基準の系列と溝口・野島系列の名目・実質値から計算されるGDPデフレータの対数を1940年で重ねてみると,下の図のようになる。
1955年に両者はほぼ同じ水準になり,途中では溝口・野島系列のGDPデフレータが先行して上昇している。そこで,1945年の両者の比が1944年と1946年の比の中間になるように,1945年のGDPデフレータを求めた。具体的には,1944年の比を1に基準化すると,1946年の比は1.54になるので,1945年の比が1.27になるようにGDPデフレータを求めた。図はすでにその結果を先取りしているが,違和感のない動きに見える。このデフレータと溝口・野島系列の1945年の実質GDPから,名目GDPを求めた。
接続は,新しい年代の系列を遡れるところまで利用し,そこで古い時代の系列が新しい系列と一致するように,古い時代の系列を比例的に調整する。『長期経済統計』はGNPが中心になっているのでGNP系列がよく使用されているが,海外からの所得の受取と支払も推計されているので,そこからGDPを計算することが可能である。
暦年のGDPは,名目・実質値ともに,
『長期経済統計』(1885-1940年)
溝口・野島系列(1940-1955年)
68SNA(1955-1980年)
93SNA(1980年以降)
を接続する。68SNA以前の系列はいずれも68SNA概念に近いものとして,名目値は溝口・野島系列の1940年と1955年の計数を使わず,とくに調整をせずに接続する。1980年では68SNAの計数が93SNAの計数より小さいが,両者が一致するように68SNA以前の系列に一律の調整係数を乗じる。実質GDPは,新しい年代の系列の始期で古い年代の系列が新しい年代の系列に一致するように,古い年代の系列に一律の調整係数を乗じて,接続していく。
年度のGDPは,名目値が1946年度以降に得られるが,それ以前は線形補間(当暦年の4分の3と翌暦年の4分の1)で推計する。実質値は1955年度以降に得られるが,それ以前は線形補間による。違う系列の接続は暦年と同じ方法をとった。
暦年のGDPは,名目・実質値ともに,
『長期経済統計』(1885-1940年)
溝口・野島系列(1940-1955年)
68SNA(1955-1980年)
93SNA(1980年以降)
を接続する。68SNA以前の系列はいずれも68SNA概念に近いものとして,名目値は溝口・野島系列の1940年と1955年の計数を使わず,とくに調整をせずに接続する。1980年では68SNAの計数が93SNAの計数より小さいが,両者が一致するように68SNA以前の系列に一律の調整係数を乗じる。実質GDPは,新しい年代の系列の始期で古い年代の系列が新しい年代の系列に一致するように,古い年代の系列に一律の調整係数を乗じて,接続していく。
年度のGDPは,名目値が1946年度以降に得られるが,それ以前は線形補間(当暦年の4分の3と翌暦年の4分の1)で推計する。実質値は1955年度以降に得られるが,それ以前は線形補間による。違う系列の接続は暦年と同じ方法をとった。
1945年のGDPが公式統計から欠落していることから,ここでデータが分断されることが多い。1945年の経済活動を高い精度で推計するのは困難であり,どう推計しても学術的には批判があるだろう。しかし,正確さに欠けても,この年を含んで連続した姿を描くことは大事だと思う。この年を欠いた図表を作成すると,戦前と戦後が断絶したイメージがもたれたり,1945年が軽視されたりしてしまう。しかし,当時の日本人はこの年を含めて,この時代に必死に生きてきたのである。
下の図は,溝口・野島系列の実質GDP(1944年=100)である。1945年の指数は75.8,1946年は58.1となる。
下の図は,溝口・野島系列の実質GDP(1944年=100)である。1945年の指数は75.8,1946年は58.1となる。
(注)
『長期経済統計』は大川一司・篠原三代平・梅村又次氏の監修により明治以降の経済統計を集成したものであり,東洋経済新報社から全14巻が刊行されている。
1885年以前については,山田雄三氏によって,1875年からの推計がされている。
『長期経済統計』は大川一司・篠原三代平・梅村又次氏の監修により明治以降の経済統計を集成したものであり,東洋経済新報社から全14巻が刊行されている。
1885年以前については,山田雄三氏によって,1875年からの推計がされている。
(参考)
「歴史的資料 - 国民経済計算関係」(内閣府経済社会総合研究所)
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/archive/historical/sna/menu.html
「歴史的資料 - 国民経済計算関係」(内閣府経済社会総合研究所)
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/archive/historical/sna/menu.html
「調べ方案内|長期統計(分野別-国民経済計算・人口・貿易・金融・物価・財政・商業・企業・運輸・郵政)」(国立国会図書館)
http://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/entry/theme-honbun-102101.php
http://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/entry/theme-honbun-102101.php
(参考文献)
溝口敏行・野島教之(1993),「1940-1955年における国民経済計算の吟味」,『日本統計学会誌』,第23巻第1号,91-107ページ
溝口敏行・野島教之(1993),「1940-1955年における国民経済計算の吟味」,『日本統計学会誌』,第23巻第1号,91-107ページ
大川一司・高松信清・山本有造(1974),『国民所得(長期経済統計1)』,東洋経済新報社
山田雄三(1951),『日本国民所得推計資料』,東洋経済新報社