岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます。

2009年12月

Yahoo! ブログから引っ越しました。

53.5兆円の国債発行に至るまでに,どこで間違ったのか

 2009年度予算は2次補正後で,
 歳入   102.6兆円
 税収    36.9兆円
 税外収入  12.2兆円
 国債発行  53.5兆円
となった。絶句するだけではいられないので,なぜこうなったのか,別の道はなかったのか,を整理してみよう。

 麻生政権時の1次補正予算から2次補正予算にかけて,税収が9.2兆円減って国債発行が9.3兆円増えた。景気悪化で税収が減ったときに歳出を削るのではなく,赤字国債を発行することは,自動安定化装置による景気対策となるので,これは肯定できる。

 歳出は,1次補正から2次補正へほぼ変化なし。私は,「過去最大の失敗」で1次補正での景気対策は過去最大の規模にこだわり,実現できる以上の効果を期待した「失敗」と評価し,事業を精査して有益なものだけにしぼるべきだと指摘した。民主党が1次補正予算の一部を執行停止にしたのは,この提言に沿っているが,追加の経済対策で帳消しになった。
 1次補正予算が適切だと考える人は,事業の中身より規模を見ているから,事業の中身を吟味するために執行が遅れてしまう羽目になったことを批判するだろう。経済の落ち込みは今年の第1四半期が一番大きく,そこからは緩やかながら回復に向かっている。財政支出が必要なのは将来ではなく,今である。
 もっと大きな財政刺激が必要だと考える人は,2次補正で歳出が拡大しなかったことを批判するだろう。
 つまり,1次補正予算の一部執行停止と追加経済対策の組み合わせは,どのような立場からも批判されることになる愚策である。

 ここまでの整理で,1次補正予算を一部執行停止し,2次補正での追加経済対策がなければよかったといえるが,かりに歳出が3兆円小さかったとしても,
 歳入   99.6兆円
 税収   36.9兆円
 税外収入 12.2兆円
 国債発行 50.5兆円
であり,やはり絶句するような財政の姿である。
 今回の経済危機が予見されていなかった時点(2008年2月)での見積もりは,
 歳入   88.1兆円
 税収   54.9兆円
 税外収入  4.0兆円
 国債発行 29.1兆円
であった(財務省の「後年度影響試算」に基づく)。これと比較すると,税収が18兆円減少するという,とてつもない大きなショックに見舞われたが,それに国債増発で対応するという自動安定化装置の考え方が正しいとすると,そもそも最初の段階で30兆円近い国債発行を予定していたことが問題である。
 リーマン・ショックの前までは日本経済は順調であったが,そのときに財政収支改善努力をあまりせず,経済成長による税収の伸びだけで収支改善を図ろうとしていた。2年前に,このブログの最初の記事(「財政再建は一休みします」)で批判したことである。あの時期に増税を決断して,財政収支をもう少し改善しておくべきだった。

 景気の悪いときにアクセルを踏む(財政による景気刺激をする)が,景気がいいときにブレーキを踏まない(財政再建を怠る)ことで,財政赤字はここまで深刻になった。財政規律を重視する人のなかには,ブレーキをきちんと踏めないのだから,アクセルも踏むべきでない(財政による景気刺激はしない)との考えの人もいる。私は,アクセルを踏むことは否定していないが,ともかくブレーキの踏み方をきちんと覚えるべきである。


(参考)
「平成20年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」(財務省,2008年2月)
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/h20/sy200123a.pdf
この資料では,国債発行額は明示的に現れない。今回の記事は,歳出と税収等の「差額」を国債発行額とみなして,整理している。

(関係する過去記事)

2009年度の一般会計歳入(円グラフ)


過去最大の失敗

財政再建は一休みします

財政再建は一休みします(図解)

財政再建は誰も望まない?

2009年度の一般会計歳入(円グラフ)

 今日は, Excelで円グラフを作ってみる。シェアを視覚的に表現するには強力な道具だが,専門論文で使うことはめったにないため,いままで円グラフを作った経験がなかった。
 15日に2009年度2次補正予算が閣議決定された。補正後の一般会計歳入を数字で書くと,
 歳入   102.6兆円
 税収    36.9兆円
 税外収入  12.2兆円
 国債発行  53.5兆円
であるが,円グラフにしてみた。
イメージ 1

 やはり,数字で見る以上のインパクトがある。ほぼ絶句。

(参考)
「日本の財政関係資料」
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/sy014_21.pdf
財務省が作成する広報資料。1次補正後の同様な円グラフが掲載されている。

平成21年度補正予算(第2号)
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/h21/hosei211215.htm

マニフェスト予算(その2)

 マニフェストを実現することが悪い結果になる場合にはどうすればいいか。そのまま悪い政策を実現すれば,それを批判されて政権は支持を落とす。良い政策に変えると,マニフェストを実現しなかったと批判されて,やはり支持を落とす。どう動いても批判されるのはひどい話のように見えるが,マニフェスト選挙の趣旨からすれば,いいかげんなマニフェストを掲げて選挙に臨んだのが悪い。そういう場合は,報いを受けてしかるべきである。

 先週の政府は,来年度予算の国債発行額44兆円以下を目標とするかどうかで迷走した。この目標は民主党のマニフェストに書かれていたものではなく,選挙中に鳩山民主党代表が発言したものである。マニフェストでは,16.8兆円の財源を確保して同額の新規施策に充てるので,とくに財政収支改善の努力はしない。社会保障費の自然増があるので,財政収支はむしろ悪化する。
 麻生政権での概算要求を前提にすると,来年度予算での国債発行額は約47兆円と見積もられる(注1)。財源を確保して新規施策を実現すれば収支中立なので,そこにマニフェストを組み込んだときの国債発行額は理論的には,同額の47兆円となる。さらに,概算要求の出し直しでマニフェスト以外にも要求が膨らんでいる。
 44兆円目標とマニフェストを両立させる道は,マニフェストでの財源確保を前倒しし,新規施策の実行を後ろ倒しして,来年度は3兆円の収支改善を図るとともに,概算要求の出し直しでの余計なものを削ることである(マニフェストは4年後に16.8兆円の財源と支出が釣り合うことになっており,年度進行の自由度はある)。しかし,マニフェストで予定した財源確保がいろいろと怪しくなっており,マニフェストだけの実現も難しくなっている。来年度の財源確保の範囲に新規施策を抑えると,マニフェストの一部の実現をあきらめないといけない。国債発行44兆円枠を守るとなると,それ以上にマニフェストの実現をあきらめないといけない。

 来年度予算については,今の時点でコメントしづらい。
 編成された予算で評価をしたいが,これからどう動いても批判することになるだろう。今の時点で,考えられる選択肢のなかで最も良いと考えられるものを助言することは可能だが,その通りに予算を組んでもらっても,それを批判しなければいけなくなる。これは相当に厳しい姿勢となるが,マニフェストを有権者と政権党の契約とみなす以上,政権を「マニフェストの虜」に追い込む姿勢は崩せない(注2)。

(注1)
 麻生政権時の来年度予算概算要求での歳出総額は92.1兆円。税収を40兆円,税外収入を5兆円とすると,国債発行額は約47兆円となる。
 税収の見積もりは「マニフェスト予算」で説明したものと同じ。
 税外収入は,
(1)今年初の見積もりで,8.2兆円。
(2)今年度1次補正予算で3兆円活用することになり,3兆円減の約5兆円。
(3)鳩山政権での1次補正予算見直しで3兆円を温存して再び8兆円になる。
(4)景気対策で再び3兆円使うことになって,5兆円になる。
という経緯で,5兆円と置いた。「マニフェスト予算」執筆時は,(3)の段階だった。

(注2)
 社民党と国民新党は,民主党のマニフェストには縛られないというのは,一面では正しい。しかし,今年8月の政権選択選挙の結果から見て,連立政権は民主党マニフェストの履行の債務を負うと考えるべきである。

(関係する過去記事)
マニフェスト予算

被用者保険による高齢者医療費の支援の仕方

 4日の社会保障審議会医療保険部会では,協会けんぽの財政問題への対応策が議題にあがった。そのなかでの厚生労働省の提案が注目され,各所で報道されている。ネットで配信された記事の見出しは,

「協会けんぽに2500億円 厚労省が健保・共済負担案」(朝日新聞)
「協会けんぽの支援金負担 健保・共済が肩代わり 厚労省、22年度実施目指す」(産経新聞)
「健保連会長、協会けんぽ救済「肩代わりは断固反対」」(日本経済新聞)
「協会けんぽ:後期高齢者医療制度向け支援金の一部、健保・共済も負担--厚労省案」(毎日新聞)
「協会けんぽ穴埋め、組合健保などが負担へ」(読売新聞)

となっている。各紙が報道する内容は似通っていて,厚生労働省の提案は協会けんぽへの財政支援のために健康保険組合と共済組合の負担を増す内容であること,そのために現在は加入者数に比例して負担している75歳以上の高齢者の医療費への支援金を報酬に比例して負担する仕組みに変えること,負担が増える健保組合側が反対していることがのべられている。財政の悪化した協会けんぽのつけを健保組合に回すようなニュアンスが感じ取られて,厚生労働省の提案には好意的ではない。例えば,以下のような具合である。

「全国で約1500ある組合健保には協会けんぽと同じように赤字に苦しむところが多いため、協会けんぽのみ優遇する対応への反発は必至で、調整は難航しそうだ。」(読売新聞)
「厚労省は協会けんぽに比べ財政にゆとりのある健保組合と共済組合に肩代わりさせる意向だが、実現すれば健保加入者などの保険料は上がる可能性が高い。平井(健保連)会長は「健保組合もかつてない財政危機に直面している」と指摘し、救済案は協会けんぽを優遇していると非難した。」(日本経済新聞)

 私は厚生労働省の提案に賛成する。
 部会に提出された資料では,今年3月に高齢者医療制度に関する検討会がまとめた「高齢者医療制度の見直しに関する議論の整理」の以下の一節が紹介されている。

「一方、現役世代からの仕送りである支援金や前期高齢者の医療費を支える納付金については、現行制度では、それぞれの保険者の加入者数等に応じた費用負担としているため、財政力の弱い被用者保険の保険者の負担が過重になっている。このため、国保と被用者保険の間は加入者数で均等に分け、被用者保険の中では、財政力の強い保険者が財政力の弱い保険者を支援するものとなるよう、保険者の財政力に応じた応能負担による助け合い・連帯の仕組みにすべきであるという意見があった。」

 この意見は,検討会の委員であった権丈善一先生(慶応大学)と私が発言した内容に相当する。検討会では,そもそも支援金の公平な負担のあり方とはどのようなものか,という観点からこのような意見が導き出された。加入者数に応じた負担では,加入者の所得が低い団体での負担能力が問題になってくる。被用者保険の世界では,ひとつの組合のなかでは報酬比例の負担が定着しているのだから,それを組合内だけでなく,被用者保険全体に広げることで,年々上昇する医療費を少しでも払える態勢にしてはどうか,というのが私の考えである。このことは,サラリーマンであれば,就職した会社の平均所得水準で保険料率に差がつかないようにすることを意味している。本来は,国保も合わせて負担能力に応じた負担にするのが最善であるが,所得捕捉の問題があり,すぐには実現できない。すぐに実現できる形として,当面は国保と被用者保険の間は現状通りとして,被用者保険のなかを改革すれば,上に引用されたような姿になる。
 こうした方向への改革の障壁は,負担増となる健保連が反発することに加えて,メディアがなかなか好意的に報道してくれないことである。全国の健康保険組合に関しての保険料率をはじめとした情報が,健康保険組合連合会が毎年発行する『健康保険組合事業年報』に掲載されている。年報の最新版は2006年度の情報なので,少し古くなるが,以下は,東京の主要なテレビ局・新聞社・通信社の健保組合の保険料率(雇主負担を含む)と標準報酬月額である。

日本放送協会 5.6% 635,019円
読売 6.4% 597,992円
共同通信社 6.0% 839,593円
時事通信社 5.5% 641,838円
日本経済新聞社 5.39% 678,280円
東京放送 6.0% 705,006円
中央ラジオ・テレビ 6.4% 463,416円(フジテレビが加入する健保組合)
日本テレビ放送網 5.0% 888,940円
毎日新聞 6.6% 488,371円
産経 6.3% 457,068円
朝日新聞 6.3% 723,785円
テレビ朝日 5.6% 509,223円

 同年度の政管健保(協会けんぽの前身)の保険料率は8.2%,平均標準報酬月額は283,218円であった。私が加入する文部科学省共済組合の保険料率は6.594%,平均標準報酬月額は467,843円であった。健保組合の保険料率は組合ごとに差があって,なかには政管健保よりも高いところもあるが,平均では政管健保よりも低い。上にあげた組合の保険料率は,健保組合のなかでも低い方に属する。所得が増えても医療費はそれに比例するほど増加しないから,大手メディア企業社員も公務員(国立大学教員は非公務員だが)も,所得が高い人が集まることによって,保険料率を低く抑えることができている。
 要は,それでいいのか,という問題である。
 厚生労働省の提案が実現すると私の保険料は上がることになるが,私はこの提案に賛成する。それが,より公平で合理的な負担の仕方だと思うからである。これを提案した厚生労働省の役人の保険料も上がる。大手メディア企業の社員の保険料も上がることになるが,それに賛成する人が増えてほしいと思う。

(注1)
 12月4日の医療保険部会の資料はまだ厚生労働省のサイトに掲載されていない。一般国民は,メディアを通じてしか部会の様子を把握できない状態にあるのは,厚生労働省にとっても損なことだと思う。

(注2)
 協会けんぽの保険料は労使折半だが,健保組合では雇主負担の割合が大きいことが多い。このため,労働者負担の保険料率の差はより大きくなる。しかし,経済学的には労使合計の保険料負担がより妥当な概念なので,それで比較することにする。

(関係する過去記事)
『財政調整・一元化に対する健保連の考え方』に対する私の考え方

(参考)
「高齢者医療制度に関する検討会」議論の整理について(2009年3月)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/03/s0324-13.html

健康保険組合事業年報
http://www.kenporen.com/book/book04.html

国家公務員共済組合事業年報
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/nenpou/nenpou.htm

社会保障統計年報(平成20年版)
http://www.ipss.go.jp/s-toukei/j/20_s_toukei/nenpo20.asp
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