岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます。

2010年02月

Yahoo! ブログから引っ越しました。

今後4年間の財政収支

 国家戦略室は1月25日に,「中期的な財政運営に関する検討会」の第1回会合を開き,今年前半に「中期財政フレーム」をまとめる作業に入った。しかし従来は,この時期に経済財政諮問会議で財政の中期展望が示されていた。今年は内閣府が5日に発表した「国・地方の基礎的財政収支・財政収支の推移」で過去の実績は示されたが,将来の見通しは示されていない。現政権は中期展望を示す時期を遅らせている,というのが正しい。
 財政の動向については,財務省が4日に「平成22年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」を発表している。これをもとに,2011年度以降の財政収支の動向を考えてみよう。
「後年度影響試算」とは,政策を変更しないで現状のまま進んだらどうなるかを示した試算であって,政府がその通りに予算を組むという約束をするものではない。中期的な問題を見つけて,それにどう対処するのかを考える出発点となるものである。具体的には,2011年度予算に向けての議論の参考資料となる。
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 上の図は,「後年度影響試算」から,2010年度から2013年度までの国の一般会計の基礎的財政収支(対GDP比)を計算して,示したものである。2009年度は補正後予算に基づき,いわゆる埋蔵金は赤字額に加えている。金融危機の発生前に「国債発行は減額に,しかし...(進路と戦略2007)」で紹介したときは,1%程度の赤字であったのが,大きく膨らんだ。税収の回復で収支の改善が見込めるが,それでも2013年度には金融危機前の水準まではとても回復しない。

 当然,債務残高も膨らむ。財務省が4日に発表した「国債整理基金の資金繰り状況等についての仮定計算」では,2019年度末までの公債残高の試算がされている。「国の借金973兆円」等で使っている総政府債務残高はこの公債残高に加えて借入金等を含んでいるが,後者の将来予測は難しい(政策の前提として適当なものを見つけにくい)。従来は政府債務を自分で将来に延長することは控えて,中期財政展望での公債等残高の動きを見ていたのだが,今年は中期財政展望がない。そこで,非常に単純化された想定であるが,公債以外の政府債務が2010年度末以降は一定額であるとして,2013年度まで延長してみる。
 国際通貨基金(IMF)は,2014年までの一般政府の債務残高を予測しているが,それと対比させたのが,下の図である(対GDP比)。
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 両者は概念的に違うものだが,ほぼ平行して動いている。つまり,IMFと財務省の見通はほぼ共通しており,債務残高がこれからも増えていく。

 総政府債務残高の長期推移に上の予測値を追加したものが,下の図である。予測値は単純化された想定に基づくので,2011年度以降は点線にしている。
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 この点線部分をこれからどうする,というのが,前年度までは予算編成と同時に考えていたことであり,鳩山政権は積み残していることである。

[2010年4月21日追記:2011年度以降のGDPは,「平成22年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」の想定に基づいている。]

(参考)
「平成22年度予算の後年度歳出・歳入への影響試算」(財務省,2010年2月4日)
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/h22/sy2202a.pdf

「国債整理基金の資金繰り状況等についての仮定計算」(財務省,2010年2月4日)
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/h22/sy2202b.pdf

「国・地方の基礎的財政収支・財政収支の推移」(内閣府,2010年2月5日)
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/h22pbbggv.pdf

World Economic Outlook Database, October 2009
http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2009/02/weodata/index.aspx
IMFの見通しが収録されている。財政状況は下記のレポートで詳しく分析されている。
The State of Public Finances Cross-Country Fiscal Monitor: November 2009
http://www.imf.org/external/pubs/ft/spn/2009/spn0925.pdf




『新老年学 第3版』

 私が編集委員を担当した『新老年学 第3版』が,東京大学出版会から出版されました。宣伝冊子には,「基礎生物学,老年医学,老年社会学,高齢者支援危機・技術を総合した最新老年学のエンサイクロぺディア」とあります。240名の執筆者による全面書き下ろし,B5判2224頁,本体価格4万円というボリュームです。
 お気軽にお買い求めくださいとはいえませんが,ご関心をお持ちいただけたら幸いです。編集委員として私が担当した項目(執筆者)は,
「経済学からのアプローチ」(岩本康志)
「貯蓄・資産」(菅万理・チャールズ・ユウジ=ホリオカ)
「貧困・消費」(大竹文雄・小原美紀)
「年金」(高山憲之)
「その他の所得保障」(駒村康平)
です。執筆者の皆様,どうもありがとうございました。

 ちなみに,同書第2版は東京大学出版会の売上高No.1だそうです。部数で見ると他にベストセラーがありますが,単価が高いためです。この価格でそこまで売れるということは,医療関係市場の力強さを感じます。

(参考)
『新老年学 第3版』(東京大学出版会)
http://www.utp.or.jp/bd/978-4-13-066406-6.html

日本経済新聞・経済教室「財政政策,効果巡り大議論」

 2月2日の日本経済新聞朝刊の経済教室欄に拙稿「財政政策,効果巡り大議論」が掲載されました。

「日経ネットPLUS」に,拙稿に関連した追加記事を書いており,芥田知至,岡野進,永浜利広,山田久氏によるコメントが寄せられています。また,会員のコメント欄も設けられています。日経ネットPLUSは,新聞媒体と連動して,より付加価値の高い情報を提供するサイトだそうです。会員登録が必要ですが,無料です。

(参考)
日経ネットPLUS
http://netplus.nikkei.co.jp/
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