岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます。

2010年06月

Yahoo! ブログから引っ越しました。

消費税増税のタイミングについて

 30日の読売新聞に財政再建・消費税に関するインタビュー記事が掲載されました。

 皆さんの関心が高い消費税については,短いスペースでは意を尽くせないので,こちらで補足説明しておきたい。
 19日のブログ記事「明細なき請求書」で,「消費税率を10%に引き上げることは,私には異論はない」と書いた。予算の無駄を削ってもいずれは消費税を10%以上に上げなければいけないだろうから,消費税10%の是非はもはや議論の対象ではなく,いつ引き上げるのかというタイミングの問題だ。
 増税を遅らせれば将来へのつけ回しが増える,景気が悪いなかで早まれば経済に悪影響が出る。この間の難しいバランスをとって決めていかなければならない。また,一気に5%引き上げは,経済がよほど好調でないと実行できないだろう。2段階で引き上げる,または一気に上げるときは一時的な減税と組み合わせて負担増をならす,という工夫が必要だ。
 増税にともない,低所得者への配慮策,捕捉の問題等はいまから時間をかけて議論していいが,実際の引き上げは,景気の動向を見極めるために,直前に決めればいい。

 タイミングが問題だ,という考えなので,「消費税増税についてどう思うか」という質問には答えづらい。具体的な案に対して,賛否をのべた方がいいだろう(ブログ記事「明細なき請求書」で議論したように,増税分の使途が明確になっていることが前提である)。
 2011年度に消費税率引き上げ 反対
 2012年度に消費税率5%引き上げ 反対

 現状で私が望ましいと考えるのは,
2012年秋に消費税率2~3%引き上げを計画,2011年度末に景気の動向を見極めて最終決断。残りの2~3%は,最初の引き上げ後に時期を判断。
である。今後の経済情勢次第では,望ましい案も変化するかもしれない。

(関係する過去記事)
明細なき請求書

「医療政策教育・研究ユニット」創設記念シンポジウム

 26日(土)に東京大学鉄門記念講堂で開催された,東京大学公共政策大学院主催「医療政策教育・研究ユニット」創設記念シンポジウム「医療の質はどこまで見えるか~データ活用で拓く将来像~」でのパネルディスカッション「医療の質は見えるか」のパネリストを務めました。
イメージ 1

(パネルディスカッションの風景)

 というのが,表面に見えた姿ですが,医療政策教育・研究ユニットの運営委員長をしているため,シンポジウムの企画からずっと関わっていました。ユニットの船出の大きなイベントを成功裏に終えることができ,ほっとしました。ご多忙のなかをご参加いただいた演者の皆様,週末にもかかわらず足を運んでいただいた聴衆の皆様に厚く,お礼申し上げます。
 以下は,プログラムです。会議の模様をまとめたレポートが,医療政策教育・研究ユニットのサイトに後日,掲載される予定です。

【プログラム】
主催者挨拶:田辺 国昭  東京大学公共政策大学院長・大学院法学政治学研究科教授
講座概要説明:岩本 康志  東京大学公共政策大学院教授・大学院経済学研究科教授
◆基調講演
高本眞一(日本心臓血管外科手術データベース機構代表幹事 三井記念病院院長)
「症例データベースによる医療の質の改善」
遠藤久夫(学習院大学経済学部教授 中央社会保険医療協議会会長)
「データに基づいた医療の価格付けは可能か」
辻哲夫(東京大学公共政策大学院医療政策教育・研究ユニット客員教授)
「地域医療の質をどのように評価するか」
大熊由紀子(国際医療福祉大学大学院医療福祉ジャーナリズム教授 元朝日新聞論説委員)
「医療の言葉、福祉の言葉、患者の言葉」
◆パネルディスカッション 「医療の質は見えるか」
コーディネーター:埴岡 健一(東京大学公共政策大学院医療政策教育・研究ユニット客員教授)
パネリスト:井伊 雅子(東京大学公共政策大学院医療政策教育・研究ユニット客員教授)
岩本 康志(東京大学公共政策大学院教授)
遠藤 久夫(学習院大学経済学部教授)
大熊由紀子(国際医療福祉大学大学院医療福祉ジャーナリズム教授)
高本 眞一(日本心臓血管外科手術データベース機構代表幹事)
辻 哲夫(東京大学公共政策大学院医療政策教育・研究ユニット客員教授)
(五十音順、敬称略)

(参考)
東京大学公共政策大学院医療政策教育・研究ユニット
http://www.pp.u-tokyo.ac.jp/HPU/index.html

民主党の参議院マニフェストを評価する

 衆議院は政権選択選挙,参議院は中間評価選挙と呼ばれる。来月の参院選の主題は,現政権がこれまで何をしたのか,を昨年の衆院選マニフェストを中心に検証することにある。
 参院選の結果がどうであれ,衆議院の議席配分は変わらない。政権交代は起こらないから,野党のマニフェストの重みは衆院選とはまったく違うので,今回の記事では無視する。

 民主党の衆院選マニフェストは,4年間で16.8兆円の新規施策とその財源を詳細に示していた。数値と時期を明確にすることで事後的な検証が可能になり,公約が反故になる可能性を減らすことができる。選挙で政策を選択するようになるためには,マニフェストに基づいて有権者が判断し,マニフェストに基づき政権の実績を評価する手続きが定着することが不可欠である。これまでの参院選ではマニフェストが定着していなかったので,政権党にこうした厳格な評価基準が適用されることはなかった。政権党の直面するハードルが上がったことになるが,これは有権者の利益に資する変化である。
 昨年のマニフェストの問題点は,予算の無駄を削って巨額の財源を確保することが可能か否かであったが,政権が最初の予算を編成してみて,案の定,それが実現不可能なことが明らかになった。目玉政策であった,子ども手当の満額支給は断念され,高速道路無料化の行方も定かでない。
 こうしてマニフェストは行き詰ったわけだが,それをそのまま掲げるよりは,今回のように現実的なものに変更した方がいい,といえる。
 しかし,簡単に行き詰ってしまうマニフェストを政権選択選挙で掲げてしまったことは,政権を担当する責務をまったく軽んじていたということであり,厳しくマイナス評価をせざるを得ない。昨年に,今回のような現実的な路線で数値の入ったものを出してもらいたかった。
 挽回したいのならば,(1)衆院選マニフェストが行き詰った問題点を洗い出して反省し,(2)時期と数値の入った,詳細な修正案を示すべきであっただろう。しかし,どちらの条件も満たされていない。

 以上は,マニフェスト選挙の手続きに基づく評価であって,政策の具体論に入らない,形式的なものといえる。しかし,このマニフェストでは,具体的な政策を論じることは困難である。マニフェストには,「新たな政策の財源は,既存予算の削減または収入増によって捻出することを原則とします」(いわゆるペイアズユーゴー原則)と記されている。すると,いくらの財源が確保できるかわからないわけだから,マニフェストに書かれている施策のどれを実現することになるかもわからない。このため,政策の具体的な評価は不可能である。

 民主党の政権運営で目についたのは,政局重視,選挙重視の姿勢である。これも大きなマイナス評価になる。国民が政策で政権を選べるようになるためには,政党が政局・選挙重視の行動原理をとるようでは,国民は政策で政権を選べない。
 かりに民主党が来月の参院選で勝つと,選挙重視の姿勢は正しかったと彼らは信じることになるだろう。そうなることは,日本の将来に大きな禍根を残す。

(参考)
「民主党の政権政策Manifesto2010」(民主党)
http://www.dpj.or.jp/special/manifesto2010/index.html

「自民党政策集J-ファイル(マニフェスト)」(自由民主党)
http://www.jimin.jp/jimin/kouyaku/22_sensan/index.html

(関係する過去記事)
【政権選択選挙】民主党マニフェストの財源

政策と政局

明細なき請求書

 民主党と自民党の参院選マニフェストでの消費税の扱いは小さい。しかし,民主党マニフェスト発表時の菅首相の「消費税率10%」発言がメディアで大きくとりあげられ,消費税が脚光を浴びている。
 消費税率を10%に引き上げることは,私には異論はない。しかし,増税はそれ自体が目的ではない。国民から移転した所得を何に使うのか,政治家はそれをきちんと説明することが先決である。
 税率5%分の消費税額は約12兆円である。その使い道は,財政赤字を縮小させるためなのか,将来に増加する社会保障支出のための財源なのか,新規施策のための財源なのか,法人税減税を埋める財源なのか。
 自民党は,昨年まで政権にいた時期の議論の蓄積から,それぞれの課題をどうしたいのかについて,ある程度の方向性は見えている(注)。
 しかし,民主党の場合は,予算の無駄を9.1兆円削減する,という昨年の衆議院マニフェストの骨格が崩壊しており,何をしたいのかがわからなくなった。これでは,消費税10%は明細なき請求書である。「政府は使い方を間違わないから,白紙委任で12兆円寄こせ」という主張ではなく,増税分を何に使うのかを早急に明らかにするべきだ。

 2つ,具体的な問題を挙げておこう。
(1) 5%の増税分は国と地方にどう配分するのか。現行の消費税率5%は,じつは国税の消費税が4%,地方税の地方消費税が1%である。法律では,まず消費税法には「消費税の税率は,百分の四とする」と書いている(第29条)。そして,地方税法で,消費税額に25%の地方消費税を課すとされている。消費税率を10%に上げた場合,国税分8%,地方税分2%になるのか。それとも国と地方に,需要に応じて配分するのか。これは,従来から大いに揉めてきた問題である。きちんと決着をつけてから数字が出てこないと本来はおかしい。
(2) 消費税を10%に引き上げれば,わが国の財政は安定する,という話でもない。高齢化がさらに進むことで,今後10年間のうちに,さらに消費税を引き上げる必要性が出てくる。だから,今回の消費税引き上げで,いつの時点までの社会保障費の増加分をまかなうつもりなのかが示されないと,先のことは何も考えていないに等しい。

(注) マニフェストの「当面10%とする」と書かれた個所の前に,社会保障費に関する数値が記されているが,これと10%の税率の間には明瞭な関係がないので,自民党マニフェストでも,これとは別に積算根拠が必要である。

(参考)
「民主党の政権政策Manifesto2010」(民主党)
http://www.dpj.or.jp/special/manifesto2010/index.html#pdf

「自民党政策集 J-ファイル2010(マニフェスト)」(自由民主党)
http://www.jimin.jp/jimin/kouyaku/22_sensan/pdf/j_file2010.pdf

(関係する過去記事)
消費税率はどこまで上がるか

【政権選択選挙】民主党マニフェストの財源

日本経済新聞・経済教室「量的緩和に再定義の機運」

 6月4日の日本経済新聞朝刊の経済教室欄に拙稿「量的緩和に再定義の機運」が掲載されました。
 量的緩和の効果は金融システム危機に対処する流動性供給にあるという最近の学界での評価を踏まえると,流動性危機ではない日本の現状に量的緩和は必要ないことになります。
 日本経済新聞・電子版にも掲載されています。

 記事で紹介した文献は以下の通りです。

Buiter, Willem H. (2009), “The Unfortunate Uselesness of Most ‘State of the Art’ Academic Monetary Economics,” Finacnial Times.
http://blogs.ft.com/maverecon/2009/03/the-unfortunate-uselessness-of-most-state-of-the-art-academic-monetary-economics/

Curdia, Vasco and Michael Woodford (2009), “Conventional and Unconventional Monetary Policy,” mimeo.

Goodfriend, Martin (2010), Central Banking in the Credit Turmoil: An Assessment of Federal Reserve Practice, forthcoming in Journal of Monetary Economics.

福田慎一(2009),「バブル崩壊後の金融市場の動揺と金融政策」,吉川洋編『デフレ経済と金融政策』,慶應義塾大学出版会,201-232頁

Reis, Ricardo (2009), Interpreting the Unconventional U.S. Monetary Policy of 2007-2009, Brookings Papers on Economic Activity, 2, pp. 119-165.

(参考)
日本経済新聞・電子版
http://www.nikkei.com
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