岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます。

2011年06月

Yahoo! ブログから引っ越しました。

日本経済新聞・経済教室「政府債務拡大 どこまで」

 6月6日の日本経済新聞朝刊の経済教室欄に拙稿「政府債務拡大 どこまで」が掲載されました。
 拙稿で引用したReinhart and Sbrancia (2011)は,積みあがった政府債務を減少させる道として,経済成長,財政再建,債務再編,突然の高インフレ,金融抑圧の5つを指摘しています。債務再編やインフレを避け,とるべき道は経済成長と財政再建の組み合わせだと私は考えていますが,避けるべき道で何が起こるのかを正しく把握することも大切です。
 なお,記事をお読みになられた方は冒頭と末尾からお気づきかと思いますが,地震研究を少し意識しています。草稿には「米国を震源とした世界的な金融危機」というくだりもあったのですが,納まりが悪かったので削除しました。
 日本経済新聞・電子版にも掲載されています。

 記事で紹介した文献は以下の通りです(登場順)。

カーメン・M・ラインハート,ケネス・S・ロゴフ(2011),『国家は破綻する』,日経BP社

Carmen M. Reinhart and Kenneth S. Rogoff (2011), “A Decade of Debt,” mimeo.

Carmen M. Reinhart and M. Belen Sbrancia (2011), “The Liquidation of Government Debt,” mimeo.

Thomas Sargent and Neil Wallace (1981), “Some Unpleasant Monetarist Arithmetic,” Federal Reserve Bank of Minneapolis Quarterly Review, Vol. 9, Fall, pp. 1-17.

Troy Davig, Eric M. Leeper, and Todd B. Walker (2010), ‘Unfunded Liabilities’ and Uncertain Fiscal Financing,” Journal of Monetary Economics, Vol. 57, No. 5, July, pp. 600-619.

Troy Davig, Eric M. Leeper, and Todd B. Walker (2011), Inflation and the Fiscal Limit, European Economic Review, Vol. 55, No. 1, January, pp. 31-47.

Mathias Trabandt and Harald Uhlig (2010), “How Far are We from the Slippery Slope? The Laffer Curve Revisited,” mimeo.

Troy Davig and Eric M. Leeper (2011), “Temporary Unstable Government Debt and Inflation,” mimeo.

Huixin Bi, Eric M. Leeper and Campbell Leith (2011), “Stabilization versus Sustainability: Macroeconomic Policy Tradeoffs,” mimeo.


 拙稿の後半では,リーパー教授が精力的に進めている研究を多く紹介しましたが,リーパー教授は自身の研究を「物価水準の財政理論」に基づくものだとのべています。しかし,私は拙稿「日銀は国債引き受けをすべきか」(http://www.iwamoto.e.u-tokyo.ac.jp/Docs/2000/NihonGinkohaKokusaiHikiukewoSubekika.PDF ),岩本(2004)で物価水準の財政理論には否定的な立場をとっているので,この点を整理しておきます。
 まず,上記の拙稿執筆当時と比較して,物価水準の財政理論と従来の議論の対立点が狭められてきました。今回の拙稿で対象とした中央銀行が金利を固定する状態は,従来の「物価水準の貨幣理論」と矛盾するものではなく,貨幣が物価水準を決定しています(McCallum and Nelson, 2005)。そのため,ここには対立点はありません。
 物価水準の財政理論で中央銀行が国債価格を維持するというのは仮定であって,現実は違う展開になるかもしれません。中央銀行が国債価格維持を図らなければ債務再編に向かいますが,かりに買い支えを図っても価格維持に失敗すればやはり債務再編に向かいます。

(参考文献)
Bennett McCallum and Edward Nelson (2005), “Monetary and Fiscal Theories of the Price Level: The Irreconcilable Differences,” Oxford Review of Economic Policy, Vol. 21, No. 4, Winter, pp. 565-583.

岩本康志(2004),「『デフレの罠』脱却のための金融財政政策のシナリオ」,『金融研究』,第23巻3号,10月,1-47頁
http://www.imes.boj.or.jp/japanese/kinyu/2004/kk23-3-1.pdf

「震災復興に向けて」の経済学者の共同提言

 伊藤隆敏・東大教授と伊藤元重・東大教授を代表として,多数の経済学者が賛同する「震災復興への3原則」(http://www.tito.e.u-tokyo.ac.jp/201105_ItoReconstruction.pdf )の提言が出されている。
 研究室が同階の隆敏教授から直々に私も賛同のお誘いを受けたが,財源に関する第1の提言に賛同すると,私の考えとの間で「齟齬が生じる」ので,残念ながら賛同者リストに名を連ねることは辞退させていただいた。
 単純に,私が第1の提言に反対,という意味ではない。共同提言は「復興コストのツケを将来世代に回すな」として,できるだけ早期に財源を確保するよう主張しているが,復興費用の財源のみを考えればこれは正しい。これは,4月22日の私のブログ記事「復興国債の日銀引き受けはそもそも財源か?」でのべた,
「震災は稀なショックであるから,ある程度長期に分散した税で財源調達するのは,「課税平準化」[2011年6月5日追記:「平準化」を「標準化」と誤記していました]と呼ばれる合理的な考え方である。つまり,国債を発行して時間をかけて償還していくことになる。ただし,今後に高齢化が進行することを考えると,償還期間は最長でも20年間程度だろう。償還期間は復興予算の規模との兼ね合いで決まるべきものである。増税はいますぐである必要はなく,現状の混乱期を避けて2年程度後からでもいいだろう。」
につながるものである。
 ただし,このブログ記事で考慮不足だったのは,財政運営全体から見た場合は違った考え方ができることである。この点は,『週刊東洋経済』5月21日号のインタビュー「日本激震! 私の提言」で補足したが,おおむね以下の通りである。
千年に一度の意味」でのべた通り,復興費用は巨額であるが,社会保障費の今後の増加の方が財政にはるかに大きな影響を与える。現状はそれに備えずに逆に負担を先送りしており、課税平準化とは逆行している。そのときに復興財源だけの負担の平準化を実現させても十分ではなく,社会保障費の負担を長期で平準化することにしっかり取り組むことの方が優先順位は高い。それが実現できれば,復興財源は別に手当てするのではなく,財政運営全体のなかで取り組むこともできるだろう。通常の国債よりも早期に償還することが復興国債の1つの意図といわれているが,このときは復興国債とせずに通常の国債を発行してもよくなる。

 共同提言は,社会保障の財源確保がままならない現状の制約のもとで復興財源のあり方を示したものだと考えられる。しかし,私は社会保障の財源確保の制約を取り払うことに力を注いでおり,社会保障負担の平準化のために積立型医療・介護保険の導入や公的年金2階部分の民営化をかねてから提言している。したがって,目指す方向と違う前提をもつ提言に賛同すると自らの提言との整合性を保つのが難しくなるので,賛同を控えさせてもらった。社会保障の財源調達問題に深く関わっていることで,共同提言に賛同する経済学者とは若干違った立場にいる結果だといえる。
 社会保障と税の一体改革の検討も進んでおり,政策の現場では社会保障財源と復興財源が同時期に議論される形になっている。両者の関係,さらには震災の影響との関係をうまく整理することが大切である。

(参考)
「持続可能社会への市場活用」(伊藤隆敏,伊藤元重,日本経済新聞2011年5月23日朝刊)
http://www.tito.e.u-tokyo.ac.jp/KeizaiKyoshitsu20110523.pdf

「震災復興への3原則」(伊藤隆敏,伊藤元重,経済学者有志の提言)
http://www.tito.e.u-tokyo.ac.jp/201105_ItoReconstruction.pdf

「社会保障改革案」(社会保障改革に関する集中検討会議,2011年6月2日)
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/syakaihosyou/syutyukento/dai10/siryou1.pdf

(関係する過去記事)
千年に一度の意味

復興国債の日銀引き受けはそもそも財源か?
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