このところ政治家もメディアも菅直人首相の進退に関心がいって,震災復興,来年度予算編成をはじめとする重要な政策課題が脇に追いやられている。
 菅首相の資質を問題視する論調も多かったが,菅首相が交代して,つぎは良い人が首相になるのだろうか。

 最近は「党首力」が政権政党の命運を決める状況にある。悲願の政権交代を達成した民主党がそのことを正しく認識していれば,そもそも最良の人材を党首にして,首相官邸に送り込んでいるはずである。すると,鳩山由紀夫氏,菅氏を上回る人材が民主党内に温存されているとは考えにくい。民主党内の実績で見て,代表,党幹部を務め,最近の代表選に連続出馬してきた菅氏を上回る人はいない。実は有為な人材がいながら党首に選んでないとすれば,同じような選び方をしたのでは,やはり良い人は党首に選ばれない可能性が高い。
 そう考えると,つぎの首相は,菅氏よりも劣った資質をもつか,良くても同程度の人材になるだろう。救いのない話だが,首相が頻繁に交代する状況になれば,それが自然だということになる。望ましいのは,しっかりした人を選んで長期に政権をまかせることだ。長期政権の後ならば,若い世代が育ってきたり,同世代で競い合う有為な人材が残されている可能性があるので,つぎも良い人材が得られるだろう。

 小泉首相以降の与党は,国民的人気を重視して「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる」方式で党首(首相)を選んできた。しかし,政治家個人の能力は国民からは見えにくく,非常に限られた情報で形成された「国民的人気」は,首相適任者を選別するには適していない。当たったのは小泉首相だけなので,外れる確率がどれくらいかを定量的に確認するために,国民生活を犠牲にして実験を続けているのが,今の状況だろう。
 いまのやり方を変えて,首相(政権党の党首)の選び方を考え直してはどうか。
 日本では国民が直接に首相を選ぶことはできないが,前回の衆院選のように,二大政党の党首から首相を選ぶことができる。この形式が機能するには,各党がまず良い党首を選んでおかなければいけない。最近の首相短命化の体たらくに政治家自身から「首相公選制」の声が聞こえてきたりするが,首相適任者を選ぶ能力のない人のなかから首相を選べと言われても国民は困る。政党の役目は,同僚の間の評価によって,首相にふさわしい資質をもった政治家をしっかり育成して選別していき,首相選択選挙となる衆院選での選択肢として提示することである。メディアも党首候補者の過去の発言やスキャンダルの有無を厳しく検証すべきである。その過程で脱落者が出るくらいの厳しさが必要だ。首相になってからその人物の資質が問われるような事態は,チェック機能を放棄したメデイアの失態でもある。

 政党は首相にふさわしい人材を育てて党首に選び,首相選択選挙で国民に選んでもらう。政権を担おうとする政党は,この基本線がきちんと機能するように党首の育て方,選び方を再考すべきだ。

(関係する過去記事)
【政権選択選挙】党首の選び方

首相選択選挙