岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます。

2012年12月

Yahoo! ブログから引っ越しました。

「デフレ脱却をめぐるごたごたを終結させるための提言」Q&A

デフレ脱却をめぐるごたごたを終結させるための提言」についてツイッターでご質問を受けていますので,簡単なお答えをしておきます。

Q 資産等買入基金を残す理由は何でしょうか?
A 長期国債を購入する意図が同じですから,すでにある器を利用しています。

Q 国債引受を禁止とは財政法の改正ですか?
A 現行で禁止されていますので,改正の必要はありません。

Q 日銀乗換も止めるのはこれまで実施してきた「特別の事由」への対応は?
A 乗換を止めても,市場から買い入れれば代替できるので,とくに支障ありません。

Q この提言は、日銀に説明責任もなく、政府・内閣、だけがリスクを負ってしまう。日銀の特権が異様だ。
A インフレ目標が達成されるまで国債購入を増額する枠組みですから,目標未達ならつぎの行動(購入増額)をとらないといけません。説明責任以上の責任があります。また,「中長期的な物価安定の目途」の導入時での白川総裁の記者会見での発言にある通り,もともと日銀に説明責任はあります。枠組みは政府の要請ですから,これでインフレ目標が達成できなかったら政府にも説明責任が生じます。
 本質的に財政政策に属しますので,政府がリスクを負うのが本来の姿です。

Q これ、なんで、リーマンショック後に大規模(追加で200兆円規模だぞ?)な量的緩和やったアメリカであんたの言ってる問題”全部"起こってないのか説明してくれる?
A 利上げしたときに生じる問題だから,ゼロ金利政策を継続している米国ではまだそこに至っていません。将来の問題としては米国でも議論されています。
 日米で経済規模が違いますのでそれを調整して考えると,日本での「バーナンキ・パッケージ」の規模は米国を大幅に上回ると予想されます。
 あと,物腰はもう少し穏やかにね。

Q デフレ脱却で本当に大丈夫ですか?
A ご趣旨がわかりづらいので保留します。

(おまけ)
Q あとでもう一度読む。
A お手数をおかけします。

(参考)
総裁定例記者会見要旨(2012年2月14日)
http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2012/kk1202b.pdf

(関係する過去記事)
なぜいま量的緩和は制限されているのか

デフレ脱却をめぐるごたごたを終結させるための提言

デフレ脱却をめぐるごたごたを終結させるための提言

「デフレ脱却のための提言」ではなく,不幸な騒動を終結させるための提言である。

(提言の背景)
 自民党は,選挙公約に「明確な『物価目標(2%)』を設定、その達成に向け、日銀法の改正も視野に政府・日銀の連携強化の仕組みを作り、大胆な金融緩和を行います」を掲げていた。デフレ脱却に向けて政府・日銀が連携して取り組むことには何の異論もない。しかし,ゼロ金利下で金融政策の効果が限定されている状況において,金融緩和によって早期に2%のインフレ率を実現することは難しい。1%の目標も達成できないまま,目標を一段と高めても目標を一段と達成できなくなるだけだ。そうなれば,デフレ脱却の取り組み自体の信頼をますます失う。普天間基地移設問題での鳩山元首相の「最低でも県外」発言と似た構図がある。やや長い視野での目標として意識はしても,明確な短期の目標として設定することは時期尚早である。
 それ以上に問題なのは,日銀法改正(具体的には政府による総裁解任権の導入)を日銀に物価目標2%を設定させるための「手段」と位置づけていることにある。
 白川日銀総裁が安倍自民党総裁から2%の物価目標導入の要請を受けた後,日銀が1月の金融政策決定会合に向けてその検討をするのは,日銀法改正によって日銀への政治介入がさらに強まることを避けるためであると観測されている。日銀が安倍自民党総裁の要請に屈服したということなら,このような日銀の屈服は将来に禍根を残す。中央銀行の独立性を守ったように見えても,それは一時的なものでしかなく,長期的には事態は一層悪くなる。今回はこれでおさまっても,日銀を屈服させるカードは温存されているから,目標未達であれば日銀法改正をちらつかせた政治の圧力はさらに強まるだろう。
 さらには,日銀法改正を梃子に日銀に要求すれば何でも出てくると政治が認識するようになれば,通貨発行益をねらって日銀に国債を買わせる・引き受けさせる行為に政治が走りやすくなる。今回の選挙中には,「日銀は輪転機を持っている」,「輪転機を回して無制限にお札を刷る」という安倍総裁の発言もあった。これが懸念される最大の実害である。
 金融政策の自律性と財政規律を維持するためには,日銀はこのような要求に屈服する以外の道を探るべきだ。大胆な金融緩和にはリスクがある。よく言われる手段である長期国債の購入がもたらすリスクは,「なぜいま量的緩和は制限されているのか」で説明した。
 以下の提言のねらいは,このような大胆な金融緩和(の名を借りた無茶苦茶な国債管理政策)がもたらすリスクをきちんと意思決定者にとってもらうことで,デフレ脱却をめぐる不幸な膠着状態を脱することにある。

(日銀への提言)
 日銀は安倍総裁の要請を踏まえて,「2%のインフレ目標が達成されるまえ長期国債の買入れを増額していく」政策パッケージ(略称を「バーナンキ・パッケージ」としておく)を政府(新政権)に提示する。
 第1に,2%のインフレ目標を導入する。
 第2に,目標達成のために資産買入等基金での長期国債の買入れを拡大するにあたっては,市場に財政ファイナンスと受け取られないように,買入れは金融政策として日銀独自の判断でおこない,日銀が主体的にバランスシートを管理できなくなる事態に陥ることを政府が強要しないことを確認する。
 第3に,資産買入等基金での長期国債について政府とボンド・コンバージョンの契約を結び,2%のインフレ目標が達成されるまで「資産買入等基金」での長期国債の買入れを増額していく(注)。
 第4に,上記の3点は一括して採用されること。

(政府への提言)
 政府(新政権)は,日銀からの提示が含意するリスクを考慮して,これを受け入れず,選挙公約「明確な『物価目標(2%)』を設定、その達成に向け、日銀法の改正も視野に政府・日銀の連携強化の仕組みを作り、大胆な金融緩和を行います」を取り下げる(注2)。


(注1)
 詳細についての補足。
 第1点では,時間非整合性の問題を避けるため,1%の「中長期的な物価安定の目途(price stability goal in the medium to long run)」は維持して,2%の「インフレ目標(longer run goal for inflation)」を導入する。2%の目標の呼称は米国連邦準備制度理事会が今年1月に設定したものと同じである。さらに平仄を合わせて,2%目標はヘッドラインCPIとする。
 第2点では,財政ファイナンスへの懸念を抱かせないように,政府の財源とするための日銀の国債引き受けは今後おこなわれないことを確認する。また,第5条ただし書きによる借換債の日銀引き受けも2013年度予算から廃止する。「現在でも日銀は国債を引き受けている」ことを理由に財政ファイナンスへの誘導を図る声をなくしておくためである。なお,2013年度は同等以上の長期国債購入に振り替えることで,国債購入が減額しないことを担保する。
 第3点での買入の具体的規模は私の提言では特定化しないが,例えばパッケージが導入されるなら,国債市場に混乱が生じないことを前提として,早々に目標額(2013年末で44兆円)を倍増するようなことが考えられる。
 もう一つの手段として喧伝されている外債購入はすでに政府側が拒んでいるので,ここには含めない。

(注2)
 かりに新政権が日銀の提示を受け入れた場合には,私が「なぜいま量的緩和は制限されているのか」で指摘しているリスクを政府がとることになる。私が無責任な提言をしていると受け止められるかもしれないが,そうではなく,より大きなリスク(財政規律と金融政策の自律性が損なわれる)を回避して,より小さなリスクで抑えようとしているのである。利払費の急増に政府が迫られたとしても,政府が最大限の努力をすれば財政破綻は回避できる(舵取りを誤れば破綻につながるが)。もちろん,政府債務の短期化を図らない方が,つまり日銀の提示を受け入れない方がもっとリスクは小さくなるので,それを選択するように政府側に提言している。

(参考)
「総裁記者会見要旨 2012年12月20日(木)」(日本銀行)
http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2012/kk1212b.pdf

(関係する過去記事)
なぜいま量的緩和は制限されているのか

飯田泰之氏の「リフレ政策」について(あるいは感想への感想への感想)

財政法第5条(日銀の国債引き受け)について

望ましいインフレ率

物価安定目標の法制化がもたらす「物価安定目標の不安定化」

日銀とFRBの「インフレ目標」を比較する(その1)

日銀とFRBの「インフレ目標」を比較する(その2)

日銀とFRBの「インフレ目標」を比較する(その3・総裁記者会見からの補足)

建設国債の日銀引き受けが禁止されている理由

「2012年12月25日追記]
 この記事のQ&Aを「『デフレ脱却をめぐるごたごたを終結させるための提言』Q&A」にまとめてあります。

なぜいま量的緩和は制限されているのか

 11月には安倍晋三自民党総裁がインフレ目標2%を達成するまで無制限な金融緩和をすべきと繰り返し発言することで,金融政策が総選挙の大きな争点となった。「無制限」には批判があって「大胆な」に言い換えられたが,目標に達成するまで大胆な金融緩和を続けるのであれば,事実上無制限である(目標に到達しても大胆な金融緩和を継続するとインフレが過熱するから,そこで金融緩和が制限されることを今の文脈で言及する必要もない)。そうすると,無制限の金融緩和の是非を考えておく必要がある。
 そのためには,どうしていま金融緩和は制限されているのか,を理解することが大きな助けになる。「日銀は実はデフレのままにしたいから」,「これまで日銀は金融緩和でインフレにはできないと言っていたので,本当に実行してインフレになったら間違いがばれてしまうから」とか,愚にもつかないことを言う人もいるが,当然に別のしっかりとした理由がある。
 今回の記事では,最もよく語られる手段である長期国債の大量購入について考えてみよう。実際,「資産買入等の基金」での他の資産の一層の購入では購入規模が大きくなりすぎて市場が崩壊しかねないので,選択肢は国債に絞られる。
 国債購入の副作用としては,市場で財政ファイナンスと受け取られかねないことがよく取り上げられる。しかし,細心の注意を払って財政ファイナンスと受け取られないように国債購入を進めたとしても,その先に大きなリスクが待っている。これは技術的な説明が必要で,簡単な説明でないと通用しないメディアでは取り上げられにくい。しかし,なぜ制限がかけられるのかの本質的な焦点は,ここにある。最近では,齊藤誠一橋大教授が「なぜ、無制限の金融緩和が私たちの経済社会にとって有害なのか?」(http://www.econ.hit-u.ac.jp/~makoto/essays/monetary_uselessness_20121118.pdf )でくわしく説明されていた論点であり,私も「通貨発行益」でこのことを説明している。この論点は10年以上前の金融政策をめぐる論争でも提示されていたものであり,例えば翁・白塚・藤木(2000)が詳細な分析をしている。

 日銀が長期国債を買い入れていくと,民間の保有する資産が長期国債から日銀の準備預金に切り替えられる。日銀は政府の子会社とみなせるから,政府と日銀を合わせた「統合政府」の負債が,長期負債である国債から短期負債である準備預金に切り替わっていることになる。
 さて,無制限の国債購入を議論したいので,インフレが起こるときには日銀が国債のほとんどを買ってしまっている状況を考えよう(注)。インフレ率が目標に到達するまでには,ゼロ金利政策も解除され,金利が正常化しているだろう。金利が上昇すれば,統合政府が支払わなければいけない利払費は急騰する。それを払い切れないときには財政破綻につながる。債務が短期債務でなく長期国債であれば,長期国債は固定利子であるから,利払費の増加は少し緩やかになる。つまり,利払費をすぐに工面できる当てがなければ,債務を短期化させると,統合政府は金利の上昇に対して脆弱になる。
 国債の期間構成を操作するのは「国債管理政策」と呼ばれる。付利された準備預金は短期国債と同等であり,日銀による長期国債の購入は事実上の国債管理政策である。国債管理政策は国の仕事であり,かつ安定化政策とは見なされていない。どこかで裁定取引に限界があって,国債の期間構成を変えることに実体的な意味があるなら,それは民間の行動にも影響を与えるのだが,マクロ経済に大きな影響を与えるほどのものではないと考えられているからだ(さらに言えば,裁定取引の機会が完全であれば,国債の期間構成の変化は実体経済への影響をもたなくなる)。金融緩和として事実上の国債管理政策を使うということは,日銀は国債を途方もない量か無制限に買っていくような無茶をしなければいけず,国債管理政策の本来の目的であるリスク管理の面では無茶苦茶をしていることになる。

 統合政府の利払費が急増するとのべたが,政府と日銀を分けて考えると,財務状況が悪化するのは日銀の方である。これは,日銀の資産である長期国債からの利子収入は増えず,負債側の超過準備に支払う利子が増えるからである。このことは無制限の金融緩和の当然の帰結であるのだが,財務状況が悪化して債務超過にまでなったりすれば,冒頭にのべたような日銀をとにかく批判したがる人だけでなく,政治家から日銀に関心のない人までも,日銀の経営責任を糾弾する事態になることが想像される。子会社から見れば,親会社の方針に従って経営が悪化しているのに,親会社から批判されて経営責任をとらされるのではたまったものではない。したがって,こうした事態になっても日銀に非はないと判断される保証がないと,日銀は無制限の長期国債購入を躊躇する。そして,一般の人まで含めて日銀を責めないことを保証するのは無理である。
 日銀の損失が政府によって補填される仕組みがあれば,日銀が自身の財務状況を心配して躊躇する理由はなくなる。そのような仕組みとして有力なのが,米連邦準備制度理事会理事(当時)のバーナンキ氏が2003年の日本金融学会での講演で提案した,日銀が保有する長期国債の固定金利と変動金利を日銀と政府の間でスワップする「ボンド・コンバージョン」である(ボンド・コンバージョンについては,「日銀の債務超過懸念へのバーナンキからの“回答”」(http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20100531/Some_Thoughts_on_Monetary_Policy_in_Japan3 )に詳しい解説がある)。ボンド・コンバージョンが導入されていれば,金利が上がれば,保有する国債の金利も上がるので,利上げによって日銀の収益が悪化することはない。日銀が無制限の国債購入に踏み切る際の最大の障害はなくなる。
 しかし,ボンド・コンバージョンの導入によって,金利が上昇したときには,利払費の上昇は政府を直撃する。したがって,財務大臣がまともな神経の持ち主なら,日銀が無制限の国債購入を始めると聞けば止めに入るはずである。
 そのように考えてくれば,そもそも政府が日銀に無制限の長期国債の購入を求めること自体がおかしいはずである。子会社の財務状況の悪化は,企業グループ全体の財務状況の悪化であるから,親会社はわが身のこととして考えるべきである。上の議論では日銀は自身の財務状況のみを心配する形で説明したが,統合政府全体のことに目配りしていれば,親会社から企業グループ全体を危機にさらす要請が来ることに戸惑うはずである。

 長期国債の購入がどこで制限されているのか,についてのまとめ。
 現状では,日銀が制限をかけている。(その理由は,金融緩和からの出口での財務状況の悪化を懸念しているからである。さらに,現在の買入額は慎重に判断して増額している)。日銀が制限をかける理由を除去すると,今度は政府が(十分に賢ければ)制限をかけるだろう。


(注)
 無制限の金融緩和によってインフレが起こるという因果関係を前提にしているわけではない。欧州の財政危機が落ち着くことによるユーロ高・円安や原発停止に起因するエネルギー価格の上昇等の金融政策以外の要因で,金融緩和とは独立にインフレになる可能性もある。

(参考文献)
翁邦雄・白塚重典・藤木裕(2000),「ゼロ金利下の量的緩和政策:その効果およびリスク・副作用」,岩田規久男編『金融政策の論点』,東洋経済新報社,143-182頁

(参考)
「なぜ、無制限の金融緩和が私たちの経済社会にとって有害なのか?」(齊藤誠)
http://www.econ.hit-u.ac.jp/~makoto/essays/monetary_uselessness_20121118.pdf

「日銀の債務超過懸念へのバーナンキからの“回答”」(himaginaryの日記)
http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20100531/Some_Thoughts_on_Monetary_Policy_in_Japan3

「Some Thoughts on Monetary Policy in Japan」(Remarks by Governor Ben S. Bernanke)
http://www.federalreserve.gov/BoardDocs/Speeches/2003/20030531/default.htm

(関係する過去記事)
通貨発行益

自己資本制約による将来の金融緩和へのコミットメント

活断層の上の原発は稼働してはいけないのか

 原子力規制委員会が敦賀原発の敷地内の断層を活断層と判断し,東通原発の敷地内の断層についても活断層と判断する可能性が高い。一連の報道と議論で「活断層の上に原発を建設してはいけない」という判断が当然に「活断層の上の原発は稼働してはいけない」につながっているような節もあるが,両者はかならずしも直結しない。
 稼働している原発の直下に新たに活断層が見つかった場合にどうすればよいか,という問題を,法令の枠組みを離れて,より根源的に考えてみよう(つまり,法令や規制の内容を導く根拠を考えてみるのが,今回の記事の趣旨である)。
 この問題では本来,その判断が今後の原発の建設にどう影響するか,活断層の調査が正しくおこなわれているか,も同時に考慮しないといけないが,そうすると複雑になりすぎる。最初の躓きの石に躓かないようにすることが今回の記事の目的なので,いったん他の躓きの石,ややこしいことは棚上げしておく。つまり,この判断が今後の原発の建設の判断に影響を与えない,活断層の調査に不正は生じない,という単純化した構図で考えてみる。

 さて,「活断層の上に原発を建設してはいけない」とは,新規の原発の立地を検討している場合の判断である。原発の立地調査をしているときに活断層の存在が判明した場合は,活断層のない場所に立地を変更すれば,活断層に由来する地震がもたらすかもしれない被害を避けることができる。まだ原発は建設していないから,追加で必要な費用は新しい場所の立地調査費である。つまり,活断層の存在が判明した場所に費やされた調査費をあきらめれば,活断層がもたらす被害を避けることができる。
 すでに建設された原発の直下に新たに活断層が見つかった場合には,その原発を停止して廃炉にすれば活断層がもたらす被害を避けることはできる。しかし,その原発が将来に稼働したら得られたであろう発電量を別にまかなうために,活断層がない場所に新規の原発が必要になる(原発以外の発電所を選択肢として考えることができるが,話を複雑にしないために,とりあえず代替策は新規の原発としておく)(注)。すると,活断層がもたらす被害を避けるためには,新規の原発の建設費用を負担する必要がある。
 原発の建設費用全体を負担することと,立地調査費だけを負担することには大きな違いがある。建設前であれば活断層がある場所から活断層のない場所に原発を引っ越すのは図面を引き直すだけですむ。建設されてしまった原発は引っ越しようがないので,今ある原発を廃炉にして,新しい原発を建設しないといけない。
 どんな大きな犠牲を払っても活断層がもたらす被害を避けるべきだと考える人は,この費用の違いによって判断を変えることはないだろう。しかし,活断層のリスクを避ける便益とそのための費用を比較考量して判断をする,柔軟な考えの人も多い。人口密集地も含み日本全国に活断層があり,活断層のリスクと隣り合わせで多くの人が暮らしている。個人的な話だが,私がかつて勤務していた京都大学の敷地内にも花折断層という活断層が走っている。京都市による活断層に起因する地震の被害想定では,マグニチュード7.5,建物全壊117,800棟,死者3,300~5,400人とされている。私の研究室は,この断層から200メートルも離れていなかった。想定地震が本当に起これば命の危険もあるのだが,それを理由に京都大学を離れる教職員というのは,私は聞いたことがなかった。
 話をもとに戻そう。リスクを避ける便益とそのための費用を比較して判断する立場をとるならば,立地調査費を無駄にしても活断層の被害を避けることに利益があるという判断が妥当であったとしても,新規原発の建設費を負担しても活断層の被害を避けることに利益があるかどうかは直ちに判断できない。活断層の被害を避ける便益が新規原発の建設費よりも大きければ廃炉にするのが望ましいが,大小関係が逆であれば逆の結論になる。稼働中の原発の直下の断層が動くことは想像するのも恐ろしい。それでも,被害の想定をしっかり見積もってからでないと結論が出ない。

 現実の問題はもっと複雑になる。そのような状況で正しい判断をするには,判断の対象とする選択肢を正しく列挙して,その便益と費用を正しく把握する手順を踏むことが必要である。

(注) ここでの議論で単純化している部分は,現実にはもう少し複雑になる。稼働している原発の残りの稼働期間と新規原発の稼働期間が違うと,被害を避けるための費用は,建設費用だけでなく,発電量や稼働費用の違いも考慮する必要がある。原発以外の発電所で代替する場合は,費用も違ってくる。また,耐震補強をして被害を避ける,ないし少なくする手段も選択肢となる。

(参考)
「耐震バックチェックの審議状況」(原子力規制委員会)
http://www.nsr.go.jp/activity/regulation/doukou/taishin/shingi.html

「発電所敷地内の地質調査に係る原子力規制庁による監理・監督について」(原子力規制委員会)
http://www.nsr.go.jp/activity/regulation/doukou/taishin/hasaitaichousa/index.html

「花折断層で地震が起きたら」(京都市行財政局)
http://www.city.kyoto.lg.jp/gyozai/page/0000015490.html

「三方・花折断層帯」(地震調査研究推進本部)
http://www.jishin.go.jp/main/yosokuchizu/katsudanso/f073_mikata_hanaore.htm

首相選択選挙(その2)

 3年以上前の記事の続編。

 二大政党下での衆院選は政権選択選挙であると同時に,首相選択選挙でもある。衆院選で政権交代があれば,国民が選挙で現首相を退け,新首相を選んだことになる。それを常例とするならば,衆院選で選ばれていない野田佳彦氏は暫定的な首相である。したがって,野田氏,安倍晋三氏の両者にとって今回の選挙は初めて国民から選ばれる機会となる。
首相選択選挙」でも書いたことだが,投票日の夜にはテレビ各局が選挙開票特番を組み,大勢が決したところで党首がインタビューを受けるのが慣例である。衆院選で過半数の議席を得た政党の党首は,その瞬間に首相となることが確定する。ならば,選挙で選ばれた首相であることをアピールするべく,自らの主導で勝利演説をおこない,それを中継してもらってはどうだろうか。従来の慣習に流されるのは,自分が何の役割を担っているのかをわかっていないことをアピールしているようなものだ。

(関係する過去記事)
首相選択選挙
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