伊勢志摩サミットで,安倍首相が世界経済の現状をリーマンショック前になぞらえたのはトンチンカンだった。しかし,現状に不安要素があることは事実であり,安倍首相が27日の議長国会見で「最大のリスクは、新興国経済」と指摘したことは大勢の理解と一致しており,正しいと思われる(例えば,国際通貨基金の最新の世界経済見通し[2016年4月,日本語概要]を参照)。指導者が当面のリスクを察知し,その対応を考えることは大いに歓迎すべきことである。しかし残念ながら,安倍首相はそこから大きな間違いを2つ犯している。
第1に,それを議論するにふさわしい国際的な場はG7(先進国主要会議)でなく,G20である。
新興国経済の世界経済に対するシェアを鑑みれば,新興国経済の問題を先進国だけの協調で解決できるわけがない。新興国の地位はめまぐるしく変化しているので,現状を確認しておこう。下の表は,「世界経済見通し」データベースから,G7がすべて入るように2015年の購買力平価で評価したGDPの上位15か国の世界のGDPに占めるシェアを示したものであるが,G7(国名が太字)合計のシェアは31.5%になる。一方,OECD加盟申請国であるロシア,キー・パートナー国である中国,インド,ブラジル,インドネシアの合計5か国のシェアは32.7%と,G7をわずかに上回る。
下振れリスクへの対応の主役は当事者である新興国であり,とくに懸念されているのは中国のリスクである。同時に,中国は今年のG20の議長国である。G7での対応をまとめるならば,それがG20とどのように連携するのかを詰めることは不可欠である。ところが,今回のサミットではそれが欠けている。世界経済に占めるG7の比重が低下するなかで,世界経済問題はG20抜きでは考えらなくなっているし,G7不要論すら存在する。伊勢志摩サミットでG7では対応できない課題に焦点を当て,G20との連携が不明であれば,自らG7の意義を否定するようなものだ。
第2の誤りは,この目的のためには不適切な手段である財政政策が真っ先に上がっていることである。
安定化政策(財政政策,金融政策)は自国経済の問題に対処するためにおこなわれる。外国への波及効果があるので国際協調が議論されることがあるが,これは副次的なものである。かりに国ごとの利害を考えずに世界全体の利益を考えるならば,消費税増税を延期するよりは,増税して,その税収を中国に渡して,中国に財政出動してもらった方が危機を避けるにはよほど効果的であろう。しかし,そこまで自国を犠牲にする考え方は世界でとられてないし,日本もとる必要はない。
議長国会見での記者からの質問「仮に消費税増税を先送りという決断を下された場合,野党などからはアベノミクスの破綻ではないかという指摘や批判も出ているが」に,安倍首相は「決してアベノミクスは失敗をしていない,そういうことは,まず最初にはっきりと申し上げておきたいと思う」と強調している。国内経済に問題がなければ,財政刺激の必要がない。
サミットでは財政政策の協調には理解が得られていないが,各国が国益を考え,かつ世界経済の情勢を的確に把握したとすれば,ごく当然の反応である。日本の国益を考えれば,ここはG7と協調して,日本は安倍首相の独りよがりに乗らないことが得策だ。安倍首相には早期に軌道修正を図り,世界経済の課題への対応を組み立て直してほしい。
(関係する過去記事)
現状はリーマンショック前に似ているか(2016年5月28日)
新しいG7/G8(2009年2月17日)