岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます。

統計・会計

Yahoo! ブログから引っ越しました。

西欧の中世後期からの年次GDP推計

 20日付の日本経済新聞朝刊・経済教室欄の拙稿「経済発展の仕組みに光」について,横山和輝・名古屋市立大学准教授から,「マディソン推計は目下便宜性だけが頼りのデータ。とはいえ,各国の長期経済統計の見直しのきかっけになるのなら,叩かれ覚悟で作られたデータでもある。」というツイートを頂いた(http://twitter.com/ecohis/status/171409724368097280 )。
 その通りであり,マディソン氏による近代以前のデータは多くの大胆な仮定から作られたもので,その時代を緻密に研究している者から見れば,粗いことは間違いない。ただし,使い方によっては十分な利用価値がある。ひとつは,拙稿でも指摘した点だが,
「なぜ欧州が工業化に先んじ世界で優位に立てたのか。ウェーバー以来、数多くの仮説が示された。各国の経済は多様な進化を遂げており、仮説に適合する事実を取捨選択するだけでは仮説の正しさを立証したとはいえない。世界全体の経済発展の姿を示したデータに対する仮説の説明力で検証することが求められる。その意味で諸仮説がマディソン歴史統計で支持されるか否かが重要な試金石となる。」
 もうひとつは,横山教授の指摘するように,その後の研究の誘発効果である。拙稿で「各国のデータ整備が進めば産業革命以前の知見の見直しが迫られるかもしれない」とした点の補足であるが,年次GDPを中世後期にまで遡って推計する研究が現在,欧州各地で進んでいる。私が気づいた研究の現況を以下にまとめておく。

イタリア
Malanima, Paolo (2011), “The Long Decline of a Leading Economy: GDP in Central and Northern Italy, 1300-1913,” European Review of Economic History, Vol. 15, No. 2, pp. 169-219.
http://dx.doi.org/10.1017/S136149161000016X

オランダ
van Zanden, Jan Luiten, and Bas van Leeuwen (2011), “The Character of Growth before ‘Modern Economic Growth’: The GDP of Holland between 1347 and 1807.”
http://www.cgeh.nl/sites/default/files/WorkingPapers/CGEH.WP_.No4_.vanZandenvanLeeuwen.mar2011.pdf

スペイン
Alvarez-Nogal, Carlos, and Leandro Prados de la Escosura (2011), “The Rise and Fall of Spain (1270-1850),” Universidad Carlos III de Madrid.
http://e-archivo.uc3m.es/bitstream/10016/10877/1/wp_11-02.pdf

英国
Broadberry, Stephen, Bruce Campbell, Alexander Klein, Mark Overton and Bas van Leeuwen, (2011), "British Economic Growth, 1270-1870: An Output-based Approach"
http://www2.lse.ac.uk/economicHistory/pdf/Broadberry/BritishGDPLongRun16a.pdf
(データ)
http://www2.lse.ac.uk/economicHistory/pdf/Broadberry/Finaldata12701870.xls

(注)
 欧州を西欧と東欧に2分したマディソン氏のデータにしたがった呼称を使っているので,「スペインは南欧では」という突っ込みは無しにしてください。

(参考)
Angus Maddison氏のホームページ
http://www.ggdc.net/MADDISON/oriindex.htm

(関係する過去記事)
日本経済新聞・経済教室「経済発展の仕組みに光」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/36818818.html

[2013年9月2日追記]
刊行された研究,新しい研究を以下に追加。

オランダ
van Zanden, Jan Luiten, and Bas van Leeuwen (2012), "Persistent But Not Consistent: The Growth of National Income in Holland 1347-1807," Exploration in Economic History, Vol. 49, Issue 2, April, pp. 119-130.
http://dx.doi.org/10.1016/j.eeh.2011.11.002

スペイン
Alvarez-Nogal, Carlos, and Leandro Prados de la Escosura (2013), "The Rise and Fall of Spain (1270-1850)," Economic History Review, Vol. 66, Issue 1, February, pp. 1-37.
http://dx.doi.org/10.1111/j.1468-0289.2012.00656.x

スウェーデン
Schon, Lennart, and Olle Krants (2012), "The Swedish Economy in the Early Modern Period: Constructing Historical National Accounts," European Review of Economic History, Vol. 16, Issue 4, November, pp. 529-549.
http://dx.doi.org/10.1093/ereh/hes015

不平等度と貧困率の国際比較

 かつて,わが国は所得の不平等度が小さい国だといわれていた。これは,1976年に経済協力開発機構(OECD)でジニ係数を国際比較した報告で,日本はジニ係数が低い国のグループに属することが示されたためである。しかし,日本のデータとなった『家計調査』(1969年)は単身世帯,農家世帯を含まないことから,ジニ係数が小さく出る。今では,他の統計を用いれば不平等度が中位のグループに属することが知られており,日本が所得の平等な国だったというのは虚像だとされている。
 1998年に橘木俊詔教授が『日本の経済格差』で,日本の不平等度は国際的に見ても高い,と主張して,格差論争が巻き起こった。この時期の議論では,利用できる統計の制約から不明確な部分もあり,一部は推測にもとづかざるを得なかった。
 時間とともにわが国のジニ係数が拡大しているのは事実であるが,他の先進国でも拡大傾向にあり,OECD諸国のなかでの相対的な位置はほぼ変化していない。昨年にOECDが発表した報告書『格差は拡大しているか(Growing Unequal?)』では,1985年頃(1985年に近い各国のデータ)と2005年頃のジニ係数の比較ができ,この事実が明確になった。報告書第1.2図のバックデータでは,日本のジニ係数(『国民生活基礎調査』によって推計)は1985年の0.304から2003年の0.321に0.017上昇した。両時点の統計がある24か国のジニ係数の平均は0.293から0.313に0.020上昇した。『小泉政権で格差は縮小した?』で指摘したように,2003年の国内公表のジニ係数(計算方法が少し異なる)は前後の年より小さく出ているので,実際はもう少し高く推移していると考えると,世界の傾向と同じくらい不平等度が増していることになる。平均より少し高いという相対的な位置関係は変わらなかったといえる。

 20日に厚生労働省が発表した相対的貧困率は,1997年の14.6%から2006年の15.7%に上昇している。OECD報告書では,ジニ係数と同様の期間での国際比較が可能である。第5.1図と第5.3図のバックデータから,日本の貧困率は1985年の12.0%から2003年の14.9%に2.9ポイント上昇したと計算できる。24か国の平均は1.2ポイントの上昇なので,日本の貧困率の上昇の方が大きい。順位も,1985年には8番目の高さだったのが,4番目の高さに上がった。

(注)
OECD報告書『Growing Unequal?』(英語)は,以下のURLから無料で閲覧できる。
http://browse.oecdbookshop.org/oecd/pdfs/browseit/8108051E.PDF
図表に付されたURLから,バックデータをExcelファイルでダウンロードできる。

(参考)
「相対的貧困率の公表について」(厚生労働省,2009年10月20日)
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/10/h1020-3.html

「報告書”格差は拡大しているか?":大半のOECD諸国で所得格差と貧困が増大」(OECD東京センター)
http://www.oecdtokyo.org/theme/social/2008/20081021uneaqual.htm

(参考文献)
Sawyer, Malcolm (1976), “Income Distribution in OECD Countries,” OECD Economic Outlook, Occasional Studies, pp. 3-36.

橘木俊詔(1998),『日本の経済格差』,岩波新書。

(関係する過去記事)
貧困率調査の前に必要なこと

小泉政権で格差は縮小した?

貧困率調査の前に必要なこと

 長妻厚生労働相は20日,2006年の相対的貧困率が15.7%だったと発表した。

 これまではきわめて限られた統計によって所得分配の状況の国際比較がおこなわれてきたが,昨年に,経済協力開発機構(OECD)が主導した所得分配に関する国際比較研究の報告書が発表されたことで,所得分配の研究は新次元に入った。
 貧困率をどう定義するか,をめぐっては長い研究の歴史があるが,今回のOECDの調査で「相対的貧困率」指標が事実上の標準の座を固めたと見ていいだろう。OECDの研究には,わが国は国立社会保障・人口問題研究所で『国民生活基礎調査』の個票データを再集計して,データを提供していた。このタイミングで,政府から公式にこの計数が発表されるようになったのは大いに評価できる。

 わが国ではジニ係数を含む格差指標は世帯単位で計算されることが多いが,国際標準は個人単位の所得分配に関心を寄せる。まず,世帯の可処分所得合計を世帯人員数の平方根で割ったものを,その世帯の各個人の「等価可処分所得」(equivalent disposable income)とする。人数で割って1人当たりにするのではなく,平方根で割るのは,世帯の消費に規模の経済が働くことを考慮している。つまり,世帯人員が倍になったときに同じ生活水準を維持するのに,所得が2倍以下で済むということである。どのような調整方法がいいかもずいぶんと研究されたが,結局,この単純な方法でもうまく近似できていると考えられるようになり,簡便さが評価されたという実務上の理由で,この方法が定着した。
「相対的貧困率」は,等価可処分所得がその中央値の50%以下である個人が総人口に占める割合として求めたものである。貧困線を40%や60%に置くこともあるが,国際比較の上で大きくは違わない。

 貧困率調査が脚光を浴びたところで,貧困率の計算だけでなく,追加して考えてもらいたいことがある。
 OECD調査でわが国の貧困率が高かったことに不満がある人が政府のなかでもいるようで,今はなき経済財政諮問会議の4月22日の資料(http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2009/0422/item3.pdf )で,もうひとつの大規模な世帯調査である『全国消費実態調査』で計算された貧困率は小さくなることが示されている。
 2つの調査で世帯の所得分布を比較してみると,『国民生活基礎調査』の方で低所得の世帯が多くなっている。両調査の分布が違っていることは,どちらかの(あるいは両方の)標本に偏りがあるということである。
 真の所得分布がわからないので,どちらの調査が正しいのかはすぐには決着がつかない。所得は,回答を拒否する世帯も多く,調査するのがなかなか難しい。それでも,2つの調査の回答世帯の属性の差や回答傾向の差を調べるなどして,乖離を説明していくことが必要である。
 実態を明確にさせておかないと,適切な貧困対策を講じることはできない。

(注) 消費の不平等指標の推移についても,両調査で違った結果が出ている。大竹文雄大阪大学教授と齊藤誠一橋大学教授が『全国消費実態調査』を用いた研究では,消費の不平等の進展は主として格差の大きい高齢者の人口比率が増えたことで生じて,同じ年齢階層内の不平等はそれほど拡大していないとしている。一方,私が『国民生活基礎調査』を用いた研究では,同じ年齢階層内の不平等の拡大も大きいという結果が出ている。

(参考)
[2009年10月22日追記]「相対的貧困率の公表について」(厚生労働省,2009年10月20日)
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/10/h1020-3.html

「報告書”格差は拡大しているか?":大半のOECD諸国で所得格差と貧困が増大」(OECD東京センター)
http://www.oecdtokyo.org/theme/social/2008/20081021uneaqual.html

「(別紙)所得格差の現状について」(経済財政諮問会議有識者議員資料・2009年4月22日)
http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2009/0422/item3.pdf

(参考文献)
岩本康志(2000),「ライフサイクルから見た不平等度」,国立社会保障・人口問題研究所編『家族・世帯の変容と生活保障機能』,東京大学出版会, 75-94頁

岩本康志(2006),「書評 大竹文雄著『日本の不平等』」,『季刊社会保障研究』,第42巻第1号,6月,98-101頁
http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/18053315.pdf

大竹文雄・斉藤誠(1996),「人口高齢化と消費の不平等度」,『日本経済研究』,第33号,11月,11-37頁

2007年度の国民医療費は1年間に予測した通り,34.1兆円だった

 遅れた話題になるが,9月2日に,2007年度の国民医療費が34兆1360億円になったと発表された。約1年前の記事「2006年度の国民医療費はやっぱり33.1兆円だった」で,これを34兆1484億円になると予測していたので,誤差率は0.036%だった。これに先立つ7月17日に2008年度の概算医療費等が発表されており,そもそも国民医療費総額を報道する価値がないことは,やはり1年前の記事「2006年度の国民医療費は33.1兆円(か)」で指摘した通りである。しかし,報道の姿勢に進歩がなく,結局,私が1年前にブログに書いた数字をニュースとして報道している。
 いいたいことは1年前の記事と変わらないので,再掲しておく。

「医療費総額にはニュースとしての価値はほとんどない。他の統計でほぼ予想がつくからだ。この統計の価値は,制度別,財源別,傷病別,年齢階層別など,専門的な分析のための詳細な情報が得られることである。そのために時間をかけているといっていい。
 国民医療費は伝統ある統計なので,今年の公表の際も報道されると思われるが,見出しをどうつけるかでセンスが問われる。「医療費総額が33.1兆円」という見出しなら,2007年度に国民医療費が増加することが明白なときに2006年度の医療費が横ばいだったことを強調する見当はずれのものだ。もし33.1兆円から大きく違っていたら,それはニュースとして見出しになる。「国民医療費」の統計としての価値を反映した記事を誰が書けるのかに注目。報道しないというのもひとつの見識だ。」

 この記事で説明されているのと同じ手法で来年に発表される2008年度の国民医療費を予測してみると,34兆7779億円となる。

(関係する過去記事)
2006年度の国民医療費は33.1兆円(か)

2006年度の国民医療費はやっぱり33.1兆円だった

年央人口

 2009年の人口は? ときかれたら,年央人口(mid-year population,7月1日現在人口)で答えるのが,国際標準である。ところが,日本では国勢調査が10月1日現在で調査されているので,10月1日現在人口が用いられることが多い。年度データを扱う場合には,ちょうど年度の中間になるので,10月1日現在人口を使うのがむしろ適切だが,暦年データについては,わずかな違いであるとはいえ年央人口を使うのが専門的には正しい方法である。
 公式統計をもとに1872年から2105年までの日本の年央人口を作成した結果が下の図である。10月1日現在人口で描くのとほとんど変わらないが,作成には結構,手間がかかる。
イメージ 1

 まず,年央人口の長期系列を作成する視点から,日本の人口統計をまとめてみよう。
 最初の国勢調査がおこなわれた1920年以降の推計人口には,以下の3つの種類の系列があり,総務省統計局の『人口推計』のホームページからダウンロード可能である。
(1)毎月1日現在推計人口
「全国 男女計の推計人口」(1952年3月~1967年12月)
「全国 男女別の推計人口」(1968年1月~1977年8月)
「全国 年齢(5歳階級),男女別の推計人口」(1977年9月~)
(2)毎年10月1日現在推計人口
「全国 年齢(各歳),男女別推計人口」(1951年~)
「都道府県 年齢(5歳階級),男女別推計人口」(1970年~)
(3)国勢調査結果による補間補正人口
「全国 毎年10月1日現在,男女別推計人口」(1920年~1940年,1947年~)
「全国 毎月1日現在,男女計推計人口」(1950年10月~1965年9月)
「全国 毎月1日現在,男女別推計人口」(1965年10月~)
「都道府県 毎年10月1日現在,男女計推計人口」(1920年~)
(国勢調査結果による補間補正人口とは,『人口推計』を補正して,国勢調査時期に国勢調査人口と一致するようにしたものである)

 毎月1日現在・都道府県別・男女別・年齢別の国勢調査結果による補間補正人口のデータがずっとそろっていれば何も迷うことはないが,上のような統計の現状から,必要なデータの種類に応じて系列を選択していかないといけない。
 いまは,7月1日現在の総人口をとればいいので,1951年以降(現在は2008年まで)は『人口推計』の7月1日現在人口,それ以前は,10月1日現在人口(1945年は11月1日現在)を線形補間して,7月1日人口を推計する。2005年までは国勢調査結果による補間補正人口である。また,1945年の人口は沖縄県を含まないので,線形補間で1945年の人口を求める際には1944年の人口から沖縄県を除外して,1945~1971年は沖縄を含まない人口にしておく。沖縄の人口の復元は後述する。
 線形補間とは,近接する2期間の値を直線でつないで,その時点の値を求める方法である。10月1日現在人口を用いて線形補間で7月1日現在人口を求める場合,前年10月1日(9か月前)現在人口の12分の3と当年10月1日現在(3か月前)人口の12分の9の和となる。
 国勢調査以前は,1872~1920年の推計人口が『明治5年以降我国の人口』(内閣統計局,1930年)で推計され,その後に補正されたデータが,『日本統計年鑑』に掲載されている。1872年は太陰暦1月末日現在(太陽暦で1872年3月8日現在),それ以外は太陽暦1月1日現在である。これは戸籍に基づく推計人口であって,現代の人口統計の概念には合致しないことから,研究者による補正も試みられたが,目覚しい改善にはならず,結局もとの推計人口がそのまま使われている。ここでも『日本統計年鑑』のデータを線形補間して,年央人口を作成する(計算の簡便化のため,1872年のデータは3月1日現在とみなした。1920年は,1月1日現在人口と,国勢調査以降の推計人口の10月1日現在人口を用いて線形補間した)。
 なお,『日本統計年鑑』での国勢調査以降の推計人口は,国勢調査年だけ占領時の沖縄県の人口を含んでいるので,そのまま時系列データとして使うと問題があることに注意されたい。

 以上の人口には海外に駐留する軍人・軍属と占領時の沖縄の人口が含まれていないが,これを加える作業をする。長期統計では「日本」の地理的範囲を固定して考えるので,占領時の沖縄の人口を含むべきである。また,1人当たりGDPの計算の際には,海外の軍人・軍属を含んだ人口を用いた方が適切である。
 当初の人口統計では,海外の軍人・軍属を含んでいたが,『人口推計資料1953-2 大正9年~昭和25年わが国年次別人口の推計』(総理府統計局)でそれを除外する作業がおこなわれた。この資料の第10表に,1935年以降の毎年の海外の軍人・軍属の推計人口が掲載されている。Web上にはなさそうなので,ここに掲載しておく(単位は千人,日付の記載のない年は10月1日現在)。

1935 220
1936 273
1937 776
1938 962
1939 1,076
1940 1,172
1941 1,858
1942 2,315
1943 2,358
1944 2,383(2月22日)
1944 2,878
1945 3,505(8月15日)
1945 3,404(11月1日)

 以上のデータを線形補間して,1936~1945年の年央人口を求める(1944年の2月22日現在人口は,3月1日現在とみなした)。1935年は10月1日現在人口をそのまま用いた。1946年は,まだ全員が帰還していないものとして,Maddison (1995)にならい,1945年の年央人口の2分の1と置く。
 「1人当たりGDPの長期的推移」で用いた人口データは,以上の手続きで求められた(2009,2010年は後述)。

 1945年から1971年までの沖縄県の年央人口は,1945~1949年は沖縄群島政府による沖縄群島推計人口,1950~1971年は琉球政府による推計人口を線形補間して求めるが,くわしくは以下のようになる。
 1950年と1952年以降は琉球政府による推計人口が『沖縄県統計年鑑』に掲載されているので,これを線形補間して,1951~1971年の年央人口を求める。
 1945~1950年は沖縄群島政府による沖縄群島推計人口(12月31日現在)が『沖縄群島要覧』に掲載されているので,基本的にはこれを用いる。その結果,この期間には宮古・八重山群島の人口は含まれない。Web上では,沖縄県の「統計トピックス」2008年6月号(http://www.pref.okinawa.jp/toukeika/so/topics/topics_357_1.xls )で紹介されている(表の表現が不正確なので,数字を利用する際には注意されたい)。現在の『沖縄県統計年鑑』には1946~1950年の計数が掲載されているが,この計数が掲載された当初の年鑑には1945年も含めて掲載されていた。
 沖縄戦のただなかの1945年7月の人口推計に正確さを期待するのは無理である。利用可能な資料の範囲内で,前後の年との不連続性を小さくする作業をするものと考えるべきだろう。1944年人口調査による2月22日現在人口と,1945年12月31日現在人口の線形補間で求めるのは不適当であると思われ,代替的な手法もないので,1945年の年央人口は12月31日現在人口をそのまま用いた。1946~1950年は沖縄群島推計人口の線形補間で求める。1951年は,1949年12月31日現在の沖縄群島推計人口と1950年12月1日現在の沖縄推計人口の線形補間で求める。後者のみ宮古・八重山群島が含まれるので不正確な方法であるが,日本の総人口への影響はほぼ無視できる。

 将来については,国立社会保障・人口問題研究所が2006年12月に発表した『将来推計人口』が,2105年までの10月1日現在人口の推計をおこなっている。2009~2105年は,出生中位・死亡中位推計を線形補間して年央人口を求める。

 わずか200年ほどの間に,日本の人口は激しい変動を見せる。これまでの人口成長は,工業化に呼応したものであり,経済学による理論化も進展してきている。これからの人口減少も説明できる「統一理論」は可能なのか。大きな課題である。

(参考)
「人口推計」(総務省統計局)
http://www.stat.go.jp/data/jinsui/index.htm
統計表一覧(政府統計の総合窓口)
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000000090001

「日本の長期統計系列 第2章 人口・世帯 解説」(総務省統計局)
http://www.stat.go.jp/data/chouki/02exp.htm

「沖縄県統計年鑑」(沖縄県)
http://www.pref.okinawa.jp/toukeika/yearbook/yearbook_index.html

「統計トピックス」(沖縄県)
http://www.pref.okinawa.jp/toukeika/so/topics/so_topics.html

[2009年10月5日追記:
「日本統計年鑑」(総務省統計局)
http://www.stat.go.jp/data/nenkan/index.htm

(参考文献)
Angus Maddison (1995), Monitaring the World Economy: 1820-1992, Paris: OECD Development Centre.(邦訳『世界経済の成長史1820-1992年』,東洋経済新報社,2000年)
Appendix A: Population in 56 Sample Countries, 1820-1992 (Text)
http://www.ggdc.net/maddison/Monitoring_the_world/1994_Monitoring_the_World/b)App.A,text.pdf

(関係する過去記事)
1人当たりGDPの長期的推移
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