6日に,Twitterで山井和則厚生労働政務官が,以下のように呟かれていた。
「後期高齢者医療制度の公聴会。長妻大臣は、「後期高齢者医療制度を導入する際の議論では、後期高齢者という言葉がおかしい!という批判も全くなかったという。団体間の利害調整が制度づくりの中心になり、当事者の方々や国民の声が反映されていなかった。そこで、この夏、五回の公聴会を開催」と挨拶。」
私は,後期高齢者医療制度導入の議論をした社会保障審議会医療保険部会に臨時委員として参加していたので,その場ではどのような議論がされていたかをお伝えしたい。結論からいえば,審議会には名称は諮られなかったので,制度名がおかしい,という批判は出ようがなかった。
時間の経緯をたどると,2003年7月に医療保険部会(以下「審議会」と呼ぶ)が発足する前の3月に閣議決定された「基本方針」で,高齢者医療制度については,
「後期高齢者については、加入者の保険料、国保及び被用者保険からの支援並びに公費により賄う新たな制度に加入する。」
「前期高齢者については、国保又は被用者保険に加入することとするが、制度間の前期高齢者の偏在による医療費負担の不均衡を調整し、制度の安定性と公平性を確保する。その際、給付の在り方等についても検討する。」
と決められた。後期高齢者を区分する現行制度の骨格はここで決定されており,審議会の役割は,基本方針を肉付けしていくこと(最大の課題は,新しい高齢者医療制度の保険者をどうするのか)にあった。審議会は2005年11月に意見書をまとめたが,そこでは「後期高齢者医療制度」と「前期高齢者医療制度」のそれぞれのあり方が記されている。
意見書に至る審議の過程で,やがて発足する制度の一般的呼称として「後期高齢者医療制度」がずっと使われていたが,これがそのまま実際の制度名になるとは,少なくとも私は意識していなかったし,同じ認識の委員も多かったのではないかと思う。制度の具体的名称は審議会の議題ではなかった。このような事情は,名称がつかなかった前期高齢者医療制度が並列で書かれていることや,政管健保は「国とは切り離された全国単位の公法人において運営」と書かれ,公法人の具体的名称はない(こちらも具体的名称の審議はなかった)ことからもわかる。
審議会が意見書をまとめた後,医療制度改革法案が作成されるまでの間に,具体的名称が決まったことになる。政管健保の後継組織の公法人には全国健康保険協会という名称がつけられたが,後期高齢者医療制度は意見書での呼称がそのまま実際の制度名として使われた。その経過が審議会に報告されることはなかったので,今回の記事のタイトルとした「誰が名づけたか」の詳細は,私は知らない。審議会に諮られていないので,名称はおかしい,という声はそもそも出せない。
審議会が名称を審議することはなくても,当事者に配慮して名称に「後期高齢者」を入れるな,という意見を表明しておけばよかった,という批判はあるかもしれない。私がそこに思い至らなかった点は反省したい。しかし,審議会が無神経に,後期高齢者医療制度という名称を容認したというわけではない。
審議会が制度名に後期高齢者を使う意識はなかったとしても,なぜ審議会(およびそれ以前の議論)で後期高齢者という言葉が使われているのかについて,少し説明しておきたい。
前期高齢者・後期高齢者は,学術用語として長らく使われている。医療保険以外の場でも,広く使われている。この用語が使われるようになったのには,高齢者の健康状態の改善が進んできて,高齢者を虚弱で支援を必要とする人たちという形で一括りにすることが時代にそぐわなくなってきたという背景がある。高齢者像を二分することで,元気な高齢者は社会に積極的に参加して貢献してもらうと同時に,虚弱で支援の必要な高齢者は引き続きしっかり支援するという形が,時代に即した施策である。個人の状態をきめ細かく把握して区分していければそれが望ましいが,例えば様々なデータを集めるといった実用の便宜上,75歳による区分が用いられている。
学術用語としても当事者に配慮して後期高齢者を使うべきでないという批判もあり得る。英語はolder oldなので,日本語が不適当なのかもしれない。医療制度とは別にして,学術用語としても後期高齢者の用語が不適当なのかどうか。あまり大きな議論にはなっていないが,学界としてどう対応するのかという課題は残る。
「後期高齢者医療制度の公聴会。長妻大臣は、「後期高齢者医療制度を導入する際の議論では、後期高齢者という言葉がおかしい!という批判も全くなかったという。団体間の利害調整が制度づくりの中心になり、当事者の方々や国民の声が反映されていなかった。そこで、この夏、五回の公聴会を開催」と挨拶。」
私は,後期高齢者医療制度導入の議論をした社会保障審議会医療保険部会に臨時委員として参加していたので,その場ではどのような議論がされていたかをお伝えしたい。結論からいえば,審議会には名称は諮られなかったので,制度名がおかしい,という批判は出ようがなかった。
時間の経緯をたどると,2003年7月に医療保険部会(以下「審議会」と呼ぶ)が発足する前の3月に閣議決定された「基本方針」で,高齢者医療制度については,
「後期高齢者については、加入者の保険料、国保及び被用者保険からの支援並びに公費により賄う新たな制度に加入する。」
「前期高齢者については、国保又は被用者保険に加入することとするが、制度間の前期高齢者の偏在による医療費負担の不均衡を調整し、制度の安定性と公平性を確保する。その際、給付の在り方等についても検討する。」
と決められた。後期高齢者を区分する現行制度の骨格はここで決定されており,審議会の役割は,基本方針を肉付けしていくこと(最大の課題は,新しい高齢者医療制度の保険者をどうするのか)にあった。審議会は2005年11月に意見書をまとめたが,そこでは「後期高齢者医療制度」と「前期高齢者医療制度」のそれぞれのあり方が記されている。
意見書に至る審議の過程で,やがて発足する制度の一般的呼称として「後期高齢者医療制度」がずっと使われていたが,これがそのまま実際の制度名になるとは,少なくとも私は意識していなかったし,同じ認識の委員も多かったのではないかと思う。制度の具体的名称は審議会の議題ではなかった。このような事情は,名称がつかなかった前期高齢者医療制度が並列で書かれていることや,政管健保は「国とは切り離された全国単位の公法人において運営」と書かれ,公法人の具体的名称はない(こちらも具体的名称の審議はなかった)ことからもわかる。
審議会が意見書をまとめた後,医療制度改革法案が作成されるまでの間に,具体的名称が決まったことになる。政管健保の後継組織の公法人には全国健康保険協会という名称がつけられたが,後期高齢者医療制度は意見書での呼称がそのまま実際の制度名として使われた。その経過が審議会に報告されることはなかったので,今回の記事のタイトルとした「誰が名づけたか」の詳細は,私は知らない。審議会に諮られていないので,名称はおかしい,という声はそもそも出せない。
審議会が名称を審議することはなくても,当事者に配慮して名称に「後期高齢者」を入れるな,という意見を表明しておけばよかった,という批判はあるかもしれない。私がそこに思い至らなかった点は反省したい。しかし,審議会が無神経に,後期高齢者医療制度という名称を容認したというわけではない。
審議会が制度名に後期高齢者を使う意識はなかったとしても,なぜ審議会(およびそれ以前の議論)で後期高齢者という言葉が使われているのかについて,少し説明しておきたい。
前期高齢者・後期高齢者は,学術用語として長らく使われている。医療保険以外の場でも,広く使われている。この用語が使われるようになったのには,高齢者の健康状態の改善が進んできて,高齢者を虚弱で支援を必要とする人たちという形で一括りにすることが時代にそぐわなくなってきたという背景がある。高齢者像を二分することで,元気な高齢者は社会に積極的に参加して貢献してもらうと同時に,虚弱で支援の必要な高齢者は引き続きしっかり支援するという形が,時代に即した施策である。個人の状態をきめ細かく把握して区分していければそれが望ましいが,例えば様々なデータを集めるといった実用の便宜上,75歳による区分が用いられている。
学術用語としても当事者に配慮して後期高齢者を使うべきでないという批判もあり得る。英語はolder oldなので,日本語が不適当なのかもしれない。医療制度とは別にして,学術用語としても後期高齢者の用語が不適当なのかどうか。あまり大きな議論にはなっていないが,学界としてどう対応するのかという課題は残る。