岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます。

COVID-19

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緊急事態措置の期間

 斎藤智也・国立感染症研究所感染症危機管理研究センター長、大竹文雄・大阪大学特任教授との鼎談記録「コロナ危機から視る政策形成過程における専門家のあり方 鼎談・企画2:コロナ危機における法とそれらの運用」が、大阪大学感染症総合教育研究拠点のPolicy Discussion Paperとして公開されました。日本学術振興会・課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業「コロナ危機から視る政策形成過程における専門家のあり方」の企画に招待されたものです。
 コロナ危機を振り返る企画が増えてますが、この鼎談の特色は、新型インフルエンザ等対策特別措置法成立以前にまでさかのぼっていることです。これによって、COVID-19の場合で何が事前に想定されていなかったのかが見えてきます。例えば、緊急事態の期間は2年以内(1年の延長可)、特措法45条に基づく外出・営業の自粛を要請する期間は1~2週間程度と、まったく別のものと想定されていました。しかし、COVID-19対策ではこの2つが同一視されました。未知の・変異した病原体が現れたときの状況をすべて事前に想定することは無理ですが、想定外の事態をできるだけ減らすに越したことはありません。とりわけ特措法による私権制限は抑制的に運用されるべきであり、いい加減な事前想定で後から私権制限し放題では、基本的人権の尊重になっていません。実際には、国会答弁もなし崩しにされました。

 筆者のサイトで公開した拙稿「緊急事態措置の期間:事例研究 新型コロナウイルス感染症」は対談の準備原稿に加筆したもので、この話題を敷衍しています(2020年春の緊急事態措置に関する考察の一環ですが、これ単体では経済学的はなく、法律的な議論になります)。第45条措置の期間についての特措法制定時の議論を知ると、私権制限が長期にわたることが社会の反発を買うことを政策当局はこのときに認識していたと考えることができます。また、緊急事態法制に対する示唆も考察しています。

(参考文献)
岩本康志・斎藤智也・大竹文雄(2024)「コロナ危機から視る政策形成過程における専門家のあり方 鼎談・企画2:コロナ危機における法とそれらの運用」

岩本康志(2024)「緊急事態措置の期間:事例研究 新型コロナウイルス感染症」

(関係する過去記事)
「政策形成における経済学の役割:事例研究 新型コロナウイルス感染症」

政策形成における経済学の役割:事例研究 新型コロナウイルス感染症

 大竹文雄・大阪大学特任教授との対談記録「コロナ危機から視る政策形成過程における専門家のあり方 対談・企画1:コロナ危機における学会の対応」が、大阪大学感染症総合教育研究拠点のPolicy Discussion Paperとして公開されました。日本学術振興会・課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業「コロナ危機から視る政策形成過程における専門家のあり方」の企画に招待されたものです。
 対談では、政策における科学的知見の役割を、COVID-19対策での経済学界の関わり方を事例にして論じています。社会に多面的な影響をもたらす新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく対策において、政府の会議の専門家構成が多面的な影響をカバーできておらず一部の専門に偏ったことの問題点、2020年の「接触8割削減」に科学的根拠がないことを中心に議論しています。COVID-19対策の検証についてはこれからも色々な場所でおこなわれると思いますが、このような視点が標準的なものになることを望んでいます。

 対談の準備原稿を大幅に加筆した拙稿「政策形成における経済学の役割:事例研究 新型コロナウイルス感染症」も、筆者のサイトで公開しました。対談テーマの表舞台と舞台裏を語ったものです。表舞台は、法的な建て付けと実際の運用から見えてくる課題、経済学的な考え方の政策立案への貢献を論じています。舞台裏は、日本経済学会が設置した新型コロナウイルス感染症ワーキンググループの活動を裏話も含めて記録に残すようにしました。表舞台と舞台裏では趣が異なるので、どちらかのみに関心がある方は適当に取捨選択してお読みください。
 対談記録での私の発言で、拙稿に含まれるものは用意した発言で、拙稿に含まれないものは不用意な発言になります(当事者としては落差が気になります)。対談後に加筆する過程でさまざまな気づきがあったため、拙稿のみに含まれる内容は対談後にまとめることのできた見解も多く入っています。

 なお、対談同日におこなわれた企画2・鼎談(齋藤智也・国立感染症研究所感染症危機管理研究センター長が加わる)にも参加しています。そちらの記録も近日公開予定です。[2024年2月5日追記:公開されました。くわしくは別記事「緊急事態措置の期間」に。]

(参考文献)
岩本康志(2023)「『接触8割削減』の科学的根拠」

岩本康志・大竹文雄(2024)「コロナ危機から視る政策形成過程における専門家のあり方 対談・企画1:コロナ危機における学会の対応」

岩本康志(2024)「政策形成における経済学の役割:事例研究 新型コロナウイルス感染症」
https://iwmtyss.com/Docs/2024/SeisakuKeiseiniokeruKeizaigakunoYakuwari.pdf

(関係する過去記事)
「『接触8割削減』の科学的根拠」(ベータ版)

「接触8割削減」の代替案の説明

「接触8割削減」の代替案の説明

 拙稿「『接触8割削減』の代替案の説明:事例研究 新型コロナウイルス感染症」を公開しました。前稿「『接触8割削減』の科学的根拠」では触れなかった、科学と政治の関係について議論しています(第3節)。COVID-19での科学と政治の問題の従来の研究では、専門家の説明内容が正しいことが前提になっています。しかし、その前提から見直すことになれば、多方面の議論に影響を与えそうです。拙稿はその第一歩であり、政策過程の研究者は後に続いてほしいです。
 前稿は、代替案の接触7割削減によって新規感染者が目標値以下になるまでの期間が本来は8日であるのが、変数の取り違えによって32日とされていたことを見ました。ところが、緊急事態宣言発出時の基本的対処方針を審議した新型インフルエンザ等対策有識者会議基本的対処方針等諮問委員会で、尾身会長は、「7割だと90日ぐらいになる」と発言しています。32日とは約60日の差があります。その他の違った数値も専門家の発言のなかに現れ、混沌としています。安倍首相が国会で答弁した「90日」が重みをもつ数値となりましたが、尾身氏は近著『1100日の葛藤』で「9週間」としており、再び謎めいてきました。
 第2節は、32日が90日になる理由を解明します。その際、西浦教授のシミュレーションを再現するモデルが手元にあることで、解明の裏付けが可能になります。何が起こっているかというと、変数の取り違えに加えて、65%を7割と呼ぶ、100人の線が傾く、以下を以上とする、接触削減開始以前の日数を片方だけに加える、という誤操作がおこなわれています。第2節と前稿を合わせた理解をもとに、第3節の評価がされます。
 また、代替案のさまざまな説明をまとめた資料も別に公開しています。

(参考文献)
岩本康志(2023)「『接触8割削減』の代替案の説明:事例研究 新型コロナウイルス感染症」

岩本康志(2023)「『接触8割削減』の科学的根拠」

尾身茂(2023)『1100日の葛藤:新型コロナ・パンデミック、専門家たちの記録』日経BP

(関係する過去記事)
「『接触8割削減』の科学的根拠」(ベータ版)
https://iwmtyss.blog.jp/archives/1082290946.html

「『接触8割削減』の科学的根拠」(ベータ版)

 拙稿「『接触8割削減』の科学的根拠」「『接触8割削減』の科学的根拠の再現[8月7日付記:タイポ修正版]のベータ版を公開しました[8月28日追記:ベータ版に対していただいたコメントに対応したDiscussion Paper版を公開しました。上のリンクはDP版のものです]。COVID-19対策が緩和され、コロナ禍の総括がいろいろな場所で試みられていますが、今回公開した拙稿もその一種です。
 2020年の第1回緊急事態宣言の発出時の政策決定過程では感染症数理モデルの分析結果が科学的根拠になった、というのが一般的な認識です。緊急事態宣言の期間は当初、1か月が想定され、その期間内にクラスター対策(積極的疫学調査)の能力の範囲内に新規感染者を抑えることが緊急事態措置の目的とされていました。数理モデルによって具体的な数値を示した科学的助言が可能になり、政策決定を支援したという見立てです。
 ところが、モデルの分析結果では新規感染者が示されるところに別の変数が示されていたことがすでに指摘されていますが、この事実は十分に浸透していません。そのため政策決定過程の既存の検証では、分析結果が正しいことが前提とされています。しかし、この前提が誤っていると、途中の論理が正しくても誤った結論が導かれてしまうおそれもあります。重要になるのは、変数の取り違えが政策決定過程に与える影響です。かりに分析結果を修正しても大筋において修正前の助言の内容が維持されていれば、政策決定過程への影響は軽微で、既存の検証作業に与える影響も軽微でしょう。しかし、修正によって助言の内容が大幅に変わってしまうのであれば、政策決定過程の検証作業は再考されなければいけません。拙稿「『接触8割削減』の科学的根拠」では、変数の取り違えを修正した内容を示した上で、こうしたことを議論します。
 このためには、当時に使用されたモデルを再現する必要があります。すでに複数の再現作業がされていたことと、経済学者の領分でもなさそうなことから、最初はここに踏み込むつもりはなかったのですが、拙稿の目的のためには自分でモデルをもつことが必要だと認識して、再現作業に参入しました。それが「『接触8割削減』の科学的根拠の再現」になります。モデルはVBA(Visual Basic for Applications)を使用して、Excelファイルで計算されています。このファイルはGitHubで公開しています。[8月22日追記:8月20日版に更新しました。「Result-A」シートを修正しています][9月4日追記:9月4日版に更新しました。「Parameters-x」シートでシナリオ6とシナリオ7が本文での説明と逆になっていました。これを入れ替えましたが、他のシートでは正しく引用されており、事実上シナリオの説明のみの変更で、計算結果は変更ありません]
 これらをベータ版としているのは、数理的な間違いを指摘する拙稿に数理的な間違いがあっては不体裁なので、いったん本文と計算ファイルを公開して、第三者による検証を仰ぎたいという理由からです。
 自分で数理モデルを扱いたい方が計算ファイルをダウンロードして、色々と試していただくことを歓迎します。諸パラメータはExcelワークシートのセルに設定してあるので、セルの値を変えるだけで、簡単に別の設定(基本再生産数を変える、接触削減割合を変える、接触削減時期を変える)での分析も可能です。
 コードをもう一度点検して、8月中旬か下旬にベータ版を卒業して、初稿を公開したいと考えています。GitHubのリポジトリは現在、仮普請なので、その際にURL等が変更になることがあります。


コメントへの対応[8月5日、7日、22日、28日付記]
 以下は、ベータ版に対していただいたご指摘への対応です。これらを反映した版をCIRJE Discussion Paperとして刊行しました。

タイポの修正
「『接触8割削減』の科学的根拠」
① 2頁。下から6行目の「専門家会議座長」は「専門家会議副座長」が正しい。

「『接触8割削減』の科学的根拠の再現」
数式のタイポはここでの数式の記述のみのミスで、Excelの計算結果には影響しません。
① 22頁。(14)式右辺の行列の2行3列「S_c(t)」は「S_a(t)」が正しい。ここでの数式の記述のみのミスで、Excelの計算結果には影響しません。
② 20頁。(3)式の3つの添え字「a」は「e」が正しい。
③ 20頁。(3)式の下の3番目の式の「S_a(t)」は「S_e(t)」が正しい。
④ 20頁。(3)式の下の4番目の式の「I_R(t)」は「I_c(t)」が正しい。
⑤ 20頁。(3)式の下の5番目の式の「R_a(t)」は「I_a(t)」が正しい。
⑥ 20頁。(7)式の下の行の「感染者」は「感受性人口」が正しい。
⑦ 20頁。(9)式の3つの添え字「c」は「a」が正しい。
⑧ 20頁。(10)式の3つの添え字「c」は「e」が正しい。
⑨ 21頁。ソースコード26行の下の行の「感受性を差異を」は「感受性の差異が正しい」が正しい。
⑩ 21頁。ソースコード26行の2つ下の行の「α_a=0.631、α_e=0.36」は「α_a=0.630、α_e=0.361」が正しい。
⑪ 3頁。12行目「感受性・感染性の有無で3区分」→「感受性の相違で3区分」
⑫ 14頁。9行目「いsる」→「いえる」
⑬ 19頁。本文4行目の式「N=N_c+N_a+N_c」→「N=N_c+N_a+N_e」
19頁下から2行目に「ソースコード41行の右辺第3項のN_cはN_eの誤記と思われるが、ここで定義されるNがソースコードで使用されることはないので、問題は生じない。」を挿入。
⑭ 30頁。13行目「Result」→「Result-SIR」

表現の改善
「『接触8割削減』の科学的根拠」
 2頁。最終行の「(新型コロナウイルス感染症対策専門家会議会議副座長)」は削除。

「『接触8割削減』の科学的根拠の再現」
① 22頁。(14)式の下、「感染者が同率(β-γ)で指数関数的に変化するとすると」は、「感染者数が同じ変化率(β-γ)で変化するとすると」に変更。
② 20頁。(10)式の下の行、「感染者の」は削除。
③ 6頁。注9「毎日新聞の報道と合わなくなる。」→「報道された49%より若干高くなる。」
④ 7頁。4行目「しかし、公表された解説から累積感染者を推計すると、小児については発症者を下回る。感染者以上の発症者がいることはおかしいので、このモデルでは公開されている小児の感染性の指標よりも大きな値が使われていると推測される。再現対象となる変数は存在しないものの、モデルBとはパラメータが違っていることがわかる。時系列にモデルBに先行して、結果の差が大きいことから、これをモデルAと呼ぶことにする。」→「しかし、公表された解説をもとに累積感染者を推計すると、その年齢階層別の分布は公表された発症者の分布と大きく異なる。再現対象となる変数は存在しないものの、モデルBとはパラメータが違っていることが推測される。時系列でモデルBに先行しており、結果の差が大きいことから、これをモデルAと呼ぶことにする。」
 これは、Excelファイルの「Result_A」シートの再現の修正によって生じています。年齢階層別感染者数を総人口当たりで計算していましたが、再現する資料が各年齢階層別人口であるとの解釈に改め、年齢階層別人口としました。

その他
「『接触8割削減』の科学的根拠」
① 「Kuniya (2020)と同様に感染者数の定数倍を新規感染者としたのではないか」というコメントをいただきました。
 Kuniya (2020)では、モデルで推計される新規感染者数と、データとして報告される新規感染者数を区別しています。前者は「理論値」または「感染日別新規感染者」、後者は「実測値」または「報告日別新規感染者数」と呼ぶことができます。報告漏れ・遅れの存在によって、報告日別新規感染者数は感染日別新規感染者数とは違った値になります。Kuniya (2020)は、報告漏れ・遅れにある仮定を置くと、報告日別新規感染者数は感染者数の定数倍となると考えています。
 一方、拙稿が対象とした資料では、「感染日別新規感染者数」が感染者数となっています。「報告日別新規感染者数」が別に示されているので、このことは明確です。したがって、Kuniya (2020)の方法を適用していません。
 かりにKuniya (2020)の方法を適用したとすれば、感染者数が報告日別新規感染者数になるべきところを感染日別新規感染者数としている、という変数の取り違えが起こったことになります。つまりいずれにしても、Kuniya (2020)の方法を適用しただけであって問題はない、とは言えません。

「『接触8割削減』の科学的根拠の再現」
① p.6、注10。「重篤化率(感染者当たりの重篤患者数)を小児0%、成年0.3%、高齢者2%と、公表された致死率のちょうど 2 倍と置くと」の表現が、sarkov28氏と拙稿が西浦教授の設定した致死率の2倍の致死率を設定していると誤読されないか、というコメントをsarkov28氏からいただきました。
 重篤化率と致死率は違うものであることに、読者はご注意ください。分母は感染者で同じですが、分子が重篤患者と死亡者で違います。

参考文献
Kuniya, Toshikazu (2020), “Evaluation of the effect of the state of emergency for the first wave of COVID-19 in Japan,” Infectious Disease Modelling, Vol. 5, pp. 580–587. https://doi.org/10.1016/j.idm.2020.08.004


特措法を適用する根拠を失った新型コロナウイルス感染症

 12月21日に、COVID-19を新型インフルエンザ等対策特別措置法の対象とする(政府対策本部を設置する)根拠が消えた。以下は、全体像の説明である。

 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)では、新型コロナウイルス感染症は、
「新たに人から人に伝染する能力を有することとなったコロナウイルスを病原体とする感染症であって、一般に国民が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるもの」(第6条第7項3)
と定義され、特措法の対象となるのは、
「国民の大部分が現在その免疫を獲得していないこと等から、新型インフルエンザ等が全国的かつ急速にまん延し、かつ、これにかかった場合の病状の程度が重篤となるおそれがあり、また、国民生活及び国民経済に重大な影響を及ぼすおそれがあること」(強調は引用者。第1条)
とされている。現在は感染症法上の位置づけと特措法上の位置づけが同時に議論されていて混乱を招きやすいが、特措法が適用される条件となるのは、両法の差である「かかった場合の病状の程度が重篤」である。
 病状の程度については具体的に季節性インフルエンザとの比較が求められており、第15条第1項では、
「かかった場合の病状の程度が、季節性インフルエンザにかかった場合の病状の程度に比しておおむね同程度以下であると認められる場合を除き、政府対策本部を設置するものとする」
とされている。そもそも異なる感染症の間で比較することは難しいとの専門家の意見もあるが、法令で示されている以上、比較せざるを得ない。

 法令の要件を満たすように、現在の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(2022年11月25日変更)では、特措法が適用される根拠を以下のように説明している。
「重症化する人の割合や死亡する人の割合は年齢によって異なり、高齢者は高く、若者は低い傾向にある。令和4年3月から4月までに診断された人においては、重症化する人の割合は 50 歳代以下で0.03%、60歳代以上で1.50%、死亡する人の割合は、50 歳代以下で 0.01%、60歳代以上で1.13%となっている。なお、季節性インフルエンザの国内における致死率は50歳代以下で0.01%、60歳代以上で0.55%と報告されており、新型コロナウイルス感染症は、季節性インフルエンザにかかった場合に比して、60 歳代以上では致死率が相当程度高く、国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがある。ただし、オミクロン株が流行の主体であり、重症化する割合や死亡する割合は以前と比べ低下している。」(強調は引用者。4-5頁)
 これを裏付けるのは厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの評価であり、12月14日までは、
「オミクロン株による感染はデルタ株に比べて相対的に入院のリスク、重症化のリスクが低いことが示されているが、現時点で分析されたオミクロン株による感染の致命率は、季節性インフルエンザの致命率よりも高いと考えられる。また、肺炎の発症率についても季節性インフルエンザよりも高いことが示唆されているが、限られたデータであること等を踏まえると、今後もさまざまな分析による検討が必要。」(強調は引用者。4頁)
とされていた。この評価の根拠は、9月7日のアドバイザリーボードに提出された「第6波における重症化率・致死率について(暫定版)」と、3月2日のアドバイザリーボードに提出された専門家14名の連名資料「オミクロン株による新型コロナウイルス感染症と季節性インフルエンザの比較に関する見解」である。基本的対処方針に引用されている前者のデータが最新のものに更新されないことが、11月24日持ち回り開催の基本的対処方針分科会で指摘されていた(その問題点については、「第7波のデータが公表されない問題点」を参照)。

 12月21日のアドバイザリーボードの評価では、季節性インフルエンザと比較する記述が消えた。これは、12月14日のアドバイザリーボードに提出された、押谷仁、鈴木基、西浦博、脇田隆字氏による「新型コロナウイルス感染症の特徴と中・長期的リスクの考え方」に基づいていると考えられる。また、12月21日のアドバイザリーボードにやっと提出された、第7波のデータは、12月14日時点の評価を支持するものではない。

 これまではデータに基づく分析によって特措法の適用の根拠が基本的対処方針に示されていたが、その土台が変化して、根拠が失われたことになる。
 これを承けて、昨日にも政府対策本部の廃止の公示があるかと思ったが、動きはなかった。政府が状況の変化に機敏に対応していく能力を見せなければ、政府への信頼をなくした個人や事業者の協力が得られず、感染症対策の実効性を損なう事態になる。何をしているのだろうか。

(参考資料)
「オミクロン株による新型コロナウイルス感染症と季節性インフルエンザの比較に関する見解」(2022年3月2日、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(第74回)提出資料)

「第6波における重症化率・致死率について(暫定版)」(2022年9月7日、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(第98回)提出資料)

「直近の感染状況の評価等」(2022年12月14日、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(第110回)提出資料)

「直近の感染状況の評価等」(2022年12月21日、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(第111回)提出資料)

「新型コロナの重症化率・致死率とその解釈に関する留意点について」(2022年12月21日、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(第111回)提出資料)

(関係する過去記事)
「季節性インフルエンザの致死率」

「新型コロナウイルス感染症対策本部の廃止」

「新型コロナウイルス感染症対策本部はいつ廃止できるのか」

「第6波後半の致死率(そして馬はいつまでも幸せに暮らしました)」

「第7波のデータが公表されない問題点」
https://iwmtyss.blog.jp/archives/1081317484.html

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