岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます。

Yahoo! ブログから引っ越しました。

国債発行は減額に,しかし...(図解)

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国債発行は減額に,しかし...」では,歳入歳出一体改革に沿って歳出削減を進めても,国の一般会計の基礎的財政収支は改善しないことを指摘した。このことを図で示す。
 「進路と戦略」参考試算(内閣府)での国の一般政府の基礎的財政収支(国債費-公債金収入で計算)の計数より,2007年度から2011年度までの対GDP比(%)を計算したのが上図である。14.3兆円歳出削減・移行シナリオの場合を示した。このシナリオは収支がもっとも改善する楽観的なものであり,国と地方を合わせた基礎的財政収支は増税がなくても2011年度に黒字化するのだが,そのときでも2009年度にかけて国の一般会計の基礎的財政収支は悪化して,2011年度でも2007年度水準に回復するまでである。

 今年初めの推計なので,その後の経済情勢の変化は織り込んでいない。今年度補正予算・来年度予算案ができた際には,上図を更新した記事を投稿したい。

サステイナビリティ戦略セミナー

 12月14日(金)に,東京大学AGS推進室主催のサステイナビリティ戦略セミナーで,「高齢化社会における社会保障制度の課題」と題する講演をおこないました。

サステイナビリティ戦略セミナーの案内は下記のURLで。
http://www.ags.dir.u-tokyo.ac.jp/jp/agsclub2.html

国債発行は減額に,しかし...

 福田首相は12日,額賀財務相に2008年度予算の新規国債発行額を今年度(25.4兆円)以下に抑えるように指示した。指示するように首相に指示したのは誰か,という疑問は脇におこう。指示を受けたができませんでした,という茶番を財務省が演じることはまずないので,国債発行額が減額される予算が組めることが財務省で固まったものと観測される。
 歳出歳入一体改革に沿って歳出削減を進めているなかで,国債発行額が増えるのは,イメージ的なダメージが大きい。その意味で越えなければいけないハードルであったが,越えたといって,決して安堵できる状況ではない。
 概算要求段階では,要求額通りの歳出になると 27.6兆円の国債発行額となる見通しであったが,税収が下方修正されるなか,国債発行が抑制されるのは,国債費が大きく減額されることが大きい。これはサブプライム問題の影響で金利が上昇する見込みが薄らいだことによるが,サブプライム問題は日本経済に少なからず悪影響となると思われるので,明るい話ではない。
 財政健全化の指標である基礎的財政収支は,2007年度予算の4.4兆円の赤字から悪化する。歳出歳入一体改革に沿った歳出削減を進めても,国の一般会計の基礎的財政収支は改善していかないことは,あまり語られていないが,重要な事実である。

埋蔵金探訪(2):財政融資資金特別会計

 財政融資資金特別会計の積立金は,2007年度末で19.6兆円になる(当初予算見込み)。霞が関埋蔵金に注目が集まったところで,ここから10兆円を取り崩すことになり,たたけば埋蔵金が出てくるような受け止め方をされているが,もう少ししっかり考えるべきである。
 期末の貸借対照表には繰越利益(金利変動準備金)と本年度利益に分かれて計上されるが,この記事では一括して金利変動準備金の役割をするものとして扱う。
 財政投融資の意義の1つに,民間では提供できない長期資金を供給できることがあげられており,財政融資資金も調達した資金よりも長期での資金供給をしている。これを期間変換機能と呼ぶが,金利が変動した場合に損失を被るリスクがある。このため,短期での資金運用を同時におこなって,金利変動リスクを回避するための資金が,財政融資資金の積立金の役割と整理される。
 金利変動準備金を適切に積んでいるかどうかの検証では,2つの視点が大事である。
(1)
 財政投融資が提供する長期資金が民間で提供できないとすれば,その金利リスクを民間で負担することが困難だということになる。その一方で,財政融資資金(旧資金運用部)は民間金融機関に先駆けて,金利リスクを管理する手法(ALM)を導入して,基本的には金利リスクはないと説明されている。拙稿「日本の財政投融資」では,ならばALMは民間でもできる手法であるので,長期資金の供給(期間変換機能)は財投の意義とはならないのではないかと指摘した。
 もし民間で同等の期間変換ができて,長期資金が供給されれば,資産と同等の期間の資産を調達して,金利リスクに備える準備金をなくすことができる。
 金利変動準備金の規模は財政融資資金規模の10%と政令で規定されているが,資金調達の長期化ができれば,この比率を下げていくことができる。
(2)
 財政融資資金による融資規模が縮小すれば,準備金率が一定でも,必要となる金利変動準備金も小さくなる。
 行革推進法に沿って,2006~2015年度で財政融資資金貸付金を130兆円超縮減する目標があるので,これに沿って,今後も準備金が取り崩されることが予想される。これからも一層,財投の事業を見直すことが必要である。

(参考1)
拙稿「日本の財政投融資」は,高山憲之編『日本の経済制度・経済政策』(東洋経済新報社刊)に収録されています。[2019年12月15日加筆]

(参考2 ALMの考え方の簡単な解説)
 銀行を例にとって,ALMによる金利リスクの管理方法を簡単に説明します。
 年利1%で1年満期の定期預金で資金を調達して,年利2%で5年間の融資をすると,最初は1%の利ザヤが生じるが,翌年に金利が上がり,1年定期を年利3%でしか販売できないと,1%の逆ザヤになる。これが金利変動リスクである。かりに3年間の融資資金を3年満期の定期預金で調達していれば,途中で金利が変動しても,利ザヤに変更がない。
 さまざまな資産を保有している場合のALMを単純にいってしまうと,資産と負債の平均残存時間をそろえることになる。
 財政融資資金の政策目的の融資は期間が長く,資金調達手段である財投債の満期よりも長い。このため,別に短期資金を運用して,資産側の平均残存期間を短くして,負債の残存期間に合わせるようにしている。

(参考3 財投のALMの現状)
下記資料の41ページ以降に,財投のALMに関係する説明がある。
第1回財政投融資に関する基本問題検討会 資料2(2007年2月23日)
http://www.mof.go.jp/kentoukai/gyouseiunei/kihonmondai/siryou/190223_02.pdf

(参考4 関係する法令条文)
 財政融資資金特別会計は2008年度から財政投融資特別会計財政融資資金勘定になるが,変更後に適用される条文を引用する。
特別会計に関する法律
(積立金)
第五十八条
 財政融資資金勘定において、毎会計年度の歳入歳出の決算上剰余金を生じた場合には、当該剰余金のうち、当該年度の歳入の収納済額(次項において「収納済額」という。)から当該年度の歳出の支出済額と第七十条の規定による歳出金の翌年度への繰越額のうち支払義務の生じた歳出金であって当該年度の出納の完結までに支出済みとならなかったものとの合計額(次項において「支出済額等」という。)を控除した金額に相当する金額を、積立金として積み立てるものとする。
2 財政融資資金勘定の毎会計年度の決算上収納済額が支出済額等に不足する場合には、前項の積立金から補足するものとする。
3 第一項の積立金が毎会計年度末において政令で定めるところにより算定した金額を超える場合には、予算で定めるところにより、その超える金額に相当する金額の範囲内で、同項の積立金から財政融資資金勘定の歳入に繰り入れ、当該繰り入れた金額を、同勘定から国債整理基金特別会計に繰り入れることができる。
4 財政融資資金勘定において、毎会計年度の歳入歳出の決算上剰余金を生じた場合には、第八条第二項の規定は、適用しない。

特別会計に関する法律施行令
(積立金からの国債整理基金特別会計への繰入れに関する算定)
第四十五条
 法第五十八条第三項に規定する政令で定めるところにより算定した金額は、同条第一項の積立金の額から法第五十六条第一項の繰越利益の額を控除した額に法第五十四条第二号に掲げる当該年度の予定貸借対照表上の資産の合計額の千分の百に相当する額を加えた金額に相当する金額とする。

埋蔵金探訪(1):総論

 特別会計の積立金は,正当な政策目的に基づいて積み立てられるべきものである。正当な理由もなく,それ以上に特別会計に存在する積立金が「埋蔵金」となる。2007年に成立した「特別会計に関する法律」では,こうした埋蔵金が蓄積されないように一般会計に繰り入れる仕組みが整備された(第8条第2項。第8条を以下に引用)。

「(剰余金の処理)
第八条
 各特別会計における毎会計年度の歳入歳出の決算上剰余金を生じた場合において、当該剰余金から次章に定めるところにより当該特別会計の積立金として積み立てる金額及び資金に組み入れる金額を控除してなお残余があるときは、これを当該特別会計の翌年度の歳入に繰り入れるものとする。
2 前項の規定にかかわらず、同項の翌年度の歳入に繰り入れるものとされる金額の全部又は一部に相当する金額は、予算で定めるところにより、一般会計の歳入に繰り入れることができる。」

 ただし例外として,財政融資資金特別会計からは国債整理基金特別会計に繰り入れる。また,交付税及び譲与税配布金特別会計と国債整理基金特別会計は,第8条第2項が適用されない。
 埋蔵金が蓄積されることは特別会計へのガバナンスが適切に働いていないことの証左である。特別会計を厳しく検証することが,結果として埋蔵金の発掘に結びつくのである。気楽に一攫千金をねらうような話ではない。
 これまでの研究で特別会計に関わってきた経緯から,特別会計の積立金に関した記事がいくつか書けそうなので,番号をつけて掲載していきたい。
 まずは,特別会計の積立金の全体像を財務省作成のパンフレット「特別会計のはなし」によって見てみよう。

下記資料の26ページ
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/tokkai1904/tokkai1904_03.pdf

 2005年度決算での特別会計の積立金等残高は210.8兆円で,その内訳は,
  157.3兆円 保険事業の特別会計合計
  15.6兆円 外国為替特別会計
  11.4兆円 国債整理基金特別会計
  26.4兆円 財政融資資金特別会計
  0.1兆円 その他
とされている。埋蔵金があるとして,大きなものがある場所は限られていることがわかる。

 次回は,「財政融資資金特別会計」です。

(参考)
2007年度予算政府案資料「特別会計の見直しについて」
http://www.mof.go.jp/seifuan19/yosan006.pdf
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