12月21日に、COVID-19を新型インフルエンザ等対策特別措置法の対象とする(政府対策本部を設置する)根拠が消えた。以下は、全体像の説明である。

 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)では、新型コロナウイルス感染症は、
「新たに人から人に伝染する能力を有することとなったコロナウイルスを病原体とする感染症であって、一般に国民が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるもの」(第6条第7項3)
と定義され、特措法の対象となるのは、
「国民の大部分が現在その免疫を獲得していないこと等から、新型インフルエンザ等が全国的かつ急速にまん延し、かつ、これにかかった場合の病状の程度が重篤となるおそれがあり、また、国民生活及び国民経済に重大な影響を及ぼすおそれがあること」(強調は引用者。第1条)
とされている。現在は感染症法上の位置づけと特措法上の位置づけが同時に議論されていて混乱を招きやすいが、特措法が適用される条件となるのは、両法の差である「かかった場合の病状の程度が重篤」である。
 病状の程度については具体的に季節性インフルエンザとの比較が求められており、第15条第1項では、
「かかった場合の病状の程度が、季節性インフルエンザにかかった場合の病状の程度に比しておおむね同程度以下であると認められる場合を除き、政府対策本部を設置するものとする」
とされている。そもそも異なる感染症の間で比較することは難しいとの専門家の意見もあるが、法令で示されている以上、比較せざるを得ない。

 法令の要件を満たすように、現在の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(2022年11月25日変更)では、特措法が適用される根拠を以下のように説明している。
「重症化する人の割合や死亡する人の割合は年齢によって異なり、高齢者は高く、若者は低い傾向にある。令和4年3月から4月までに診断された人においては、重症化する人の割合は 50 歳代以下で0.03%、60歳代以上で1.50%、死亡する人の割合は、50 歳代以下で 0.01%、60歳代以上で1.13%となっている。なお、季節性インフルエンザの国内における致死率は50歳代以下で0.01%、60歳代以上で0.55%と報告されており、新型コロナウイルス感染症は、季節性インフルエンザにかかった場合に比して、60 歳代以上では致死率が相当程度高く、国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがある。ただし、オミクロン株が流行の主体であり、重症化する割合や死亡する割合は以前と比べ低下している。」(強調は引用者。4-5頁)
 これを裏付けるのは厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの評価であり、12月14日までは、
「オミクロン株による感染はデルタ株に比べて相対的に入院のリスク、重症化のリスクが低いことが示されているが、現時点で分析されたオミクロン株による感染の致命率は、季節性インフルエンザの致命率よりも高いと考えられる。また、肺炎の発症率についても季節性インフルエンザよりも高いことが示唆されているが、限られたデータであること等を踏まえると、今後もさまざまな分析による検討が必要。」(強調は引用者。4頁)
とされていた。この評価の根拠は、9月7日のアドバイザリーボードに提出された「第6波における重症化率・致死率について(暫定版)」と、3月2日のアドバイザリーボードに提出された専門家14名の連名資料「オミクロン株による新型コロナウイルス感染症と季節性インフルエンザの比較に関する見解」である。基本的対処方針に引用されている前者のデータが最新のものに更新されないことが、11月24日持ち回り開催の基本的対処方針分科会で指摘されていた(その問題点については、「第7波のデータが公表されない問題点」を参照)。

 12月21日のアドバイザリーボードの評価では、季節性インフルエンザと比較する記述が消えた。これは、12月14日のアドバイザリーボードに提出された、押谷仁、鈴木基、西浦博、脇田隆字氏による「新型コロナウイルス感染症の特徴と中・長期的リスクの考え方」に基づいていると考えられる。また、12月21日のアドバイザリーボードにやっと提出された、第7波のデータは、12月14日時点の評価を支持するものではない。

 これまではデータに基づく分析によって特措法の適用の根拠が基本的対処方針に示されていたが、その土台が変化して、根拠が失われたことになる。
 これを承けて、昨日にも政府対策本部の廃止の公示があるかと思ったが、動きはなかった。政府が状況の変化に機敏に対応していく能力を見せなければ、政府への信頼をなくした個人や事業者の協力が得られず、感染症対策の実効性を損なう事態になる。何をしているのだろうか。

(参考資料)
「オミクロン株による新型コロナウイルス感染症と季節性インフルエンザの比較に関する見解」(2022年3月2日、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(第74回)提出資料)

「第6波における重症化率・致死率について(暫定版)」(2022年9月7日、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(第98回)提出資料)

「直近の感染状況の評価等」(2022年12月14日、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(第110回)提出資料)

「直近の感染状況の評価等」(2022年12月21日、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(第111回)提出資料)

「新型コロナの重症化率・致死率とその解釈に関する留意点について」(2022年12月21日、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(第111回)提出資料)

(関係する過去記事)
「季節性インフルエンザの致死率」

「新型コロナウイルス感染症対策本部の廃止」

「新型コロナウイルス感染症対策本部はいつ廃止できるのか」

「第6波後半の致死率(そして馬はいつまでも幸せに暮らしました)」

「第7波のデータが公表されない問題点」
https://iwmtyss.blog.jp/archives/1081317484.html