岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます。

2008年03月

Yahoo! ブログから引っ越しました。

ガソリン税率の水準はいくらであるべきか

 もし道路特定財源が一般財源化されて,道路整備以外に充てられるようになれば,なぜ高い税率が課せられるのかがきちんと説明される必要がある。有力なのは,自動車利用にともなう外部費用(利用者が費用を払わないが,社会的な観点からは経済損失となるもの)の負担を利用者に求める,ピグー税の考え方である。また,ピグー税は一般財源と考えるべきものであり,その税収をすべて道路建設に使うことを示唆しない。
 3月24日の日本経済新聞・経済教室欄に,金本良嗣東大教授が,自動車利用の外部費用を計測して,ピグー税を課す場合の税率を示している。計算の詳細が示された原論文「道路特定財源制度の経済分析」は,金本教授のWebサイトからダウンロード可能(http://www.e.u-tokyo.ac.jp/~kanemoto/bc/NKK2006.pdf)である。
 この計算の枠組みは,Parry and Small (2005),Parry, Walls and Harrington (2007)に沿っており,国際的に認知された手法である。現在の道路延長が固定された短期の状況を考えて,自動車利用で生じる外部費用のうち代表的なものをリストアップし,文献調査で妥当な推計値を求めて,積算していく。Parry and Small (2005)が米国と英国について計算し,Parry, Walls and Harrington (2007)が米国についての後続研究となっている。
 これらの推計を比較してみよう。幅をもたせた推計がされ,低位値,中位値,高位値が設定されているが,ここでは中位値のみを比較する。いずれも2000年価格で表示されているので,2000年の購買力平価1ドル=152円,1バレル=3.785リットルを使って換算した。米国は,Parry, Walls and Harrington (2007)の結果による。
 望ましいガソリン税の負担は,
 日本 124円/リットル
 米国  45円/リットル (111セント/ガロン)
 英国  54円/リットル (134セント/ガロン)
となっている。
 金本教授の求めた日本のガソリン税率が高いので,その理由を調べていこう。

 外部費用として積算されたものは,以下の通りである。外部費用は,燃料消費に関係する費用と走行距離に関係する費用がある(括弧内は,低位値と高位値の範囲。単位は省略)。

燃料消費に関係する費用
 地球温暖化の費用
  日本 19円/リットル(3-32)
  米国,英国 2.4円/リットル,6セント/ガロン(0.2-24)
 原油依存の費用
  日本,米国 4.8円/リットル,12セント/ガロン
走行距離に関係する費用(各国の燃費データをもとに燃料消費当たり費用に換算)
 大気汚染の費用
  日本 10円/リットル,1.1円/km(0.1-3.2)
  米国,英国 16.9円/リットル,2セント/マイル(0.4-10)
 混雑の費用
  日本 65.8円/リットル,7円/km(0-36)
  米国 42.2円/リットル,5セント/マイル(1.5-9)
  英国 72円/リットル,7セント/マイル(3-15)
 交通事故の費用
  日本 23.5円/リットル,2.5円/km(0.7-4.8)
  米国 25.3円/リットル,3セント/マイル(中位値の1/2.5-中位値の2.5倍)
  英国 24.7円/リットル,2セント/マイル(中位値の1/2.5-中位値の2.5倍)
 道路損傷の費用
  日本 0.9円/リットル

 ここから,いろいろと重要な事実が読み取れる。税率の水準に関して,大事なものを4つあげる。

(1)
 日本の温暖化費用が高めに設定されているが,ピグー税の推計結果の違いを説明できる大きさではない。日本のガソリン税が高く計算されているのは,燃料課税が燃費に与える影響の想定が違うことが主たる理由である。
 ピグー税を課すならば,燃料消費に関係する費用をガソリン税で徴収し,走行距離に関係する費用は何らかの走行距離課税で徴収する。ただし,走行距離課税は実務上困難であり,これをガソリン税で代替しているのが,上記の計算である。燃費(燃料消費と走行距離の関係)が税の影響を受けないならば,走行距離当たり費用を燃費固定の仮定のもとで燃料消費当たり費用に換算して,その分のガソリン税を課せばよい。
 しかし,ガソリン価格が上がることで,燃費が向上して,同じ燃料で走行距離が2.5倍に伸びるのであれば,燃料当たり費用の2.5分の1の税をかけることで,走行距離当たり費用の分の課税が達成される。米国・英国の研究は,このような想定を置いて,走行距離当たり費用の40%を課税するように考えている。
 ガソリン消費の価格弾性値は短期で-0.2程度,長期で-0.6程度である。ただし,最近は弾性値がこれより下がっているという見方も聞かれる。長期の弾性値が大きくなる理由のひとつには,短期では燃費は変化しないが,新しい自動車の燃費が改善して,長期的にはガソリン消費が抑制されることがある。Parry and Small(2005)は長期の弾性値を-0.55と置いた。燃費の反応は,長期と短期の弾性値の違いをほぼ説明する形になっている。
 日本の推計では,二村(2000)による,ガソリン消費と走行距離のガソリン価格に対する弾性値はともに-0.2であると推定結果に基礎を置いている。すなわち,ガソリン価格の変化は燃費に影響を与えないという想定になっているので,ピグー税の計算でも,税率が高くなる。同じ走行距離当たりの外部費用について,燃費の反応の違いによって,日本でのピグー税は2.5倍大きくなるというのである。
 ガソリン消費の価格弾力性は,現在もっとも重要な政策議論において,もっとも重要なパラメータである。長期弾性値が低ければ,燃費はあまりガソリン価格に反応しないだろう。弾性値の妥当な範囲が定まるまでに外国では数多くの研究が蓄積されてきたが,日本ではその研究の蓄積が薄く,燃費が反応しないという想定は,もしかすると真の姿とはかけ離れているかもしれない。もし,外国と同様の燃費の反応だとすれば,ピグー税は大きく低下する。
 別の角度から見ると,民主党が道路特定財源制度改革で主張するように,ガソリン消費の価格弾力性が低いのが本当だとすると,ガソリン税は高くなければいけない。

(2)
 上の議論は,道路延長が固定されているという前提である。まだ道路が足りないといって,道路を整備する場合には,建設費用の負担分にピグー税が上乗せされるものと考える(ただし,混雑の外部費用のいくらかは建設費用の負担に重なって,上乗せにならない可能性がある)。したがって,まず道路事業の適正な意思決定が重要である。その手順を踏んだ上で道路建設が必要ならば,暫定税率を含めたガソリン税を引き下げるのが正しい選択肢となる可能性は低いだろう。たとえピグー税の水準が英米での研究並みに低くても,同じである。
 真に必要な道路建設が大幅に少なくならなければ,ガソリン税の引き下げは政策の選択肢にはならないだろう。

(3)
 温暖化費用に対するピグー税は,他の費用に比べて小さい。温暖化による経済損失には諸説あるが,かなり大きな推計値をもってきても,揮発油税の暫定税率分を温暖化費用のピグー税と解釈することは難しそうだ。
 ピグー税を構成する種々のパラメータの推定値の信頼性を高めるように研究者は努力してきているが,まだまだ不安定なところがある。この場合には,温室効果ガスの削減目標が与件とされており,それを達成するための税(ボーモル=オーツ税)として,ガソリン税をとらえる方が適切だろう。その場合,かりに二村(2000)の弾性値をもとにしても,弾力性は低いがゼロではないので,ガソリン減税はわが国の温暖化対策とは逆方向の動きになるといえるだろう。

(4・やや専門的)
 Parry and Small (2005)の計算では,労働所得税がもたらす資源配分の歪みを考慮している。定性的には,ピグー税が税収をもたらすことで,労働所得税を減税して資源配分の歪みを減らすことができるので,ガソリンへの課税をより強めた方がいいことが示される。逆に言えば,ガソリン税減税の穴埋めを所得税増税でおこなうと,経済厚生が低下する(消費税増税で穴埋めするとどうなるかを調べた文献があるかどうかは,調査中です。もしなければ論文が1本書けます)。
 これは最近の専門的研究で注目されている議論であるが,定量的な評価には不確定な部分があり,政策現場で使うにはもう少し研究を積んだ方が良いように思う。金本(2007),Parry, Walls and Harrington (2007)が考慮の対象外としているので,ここでもそれに準じる。

(参考文献)
金本良嗣(2007),「道路特定財源制度の経済分析」,『道路特定財源制度の経済分析』,日本交通政策研究会
Parry, Ian W. H., and Kenneth A. Small (2005), “Does Britain or the United States Have the Right Gasoline Tax?” American Economic Review, Vol. 95, No. 4, September, pp. 1276-1289.
Parry, Ian W. H., Margaret Walls and Winston Harrington (2007), “Automobile Externalities and Policies,” Journal of Economic Literature, Vol. 45, No. 2, June, pp. 373-399.
二村真理子(2000),「地球温暖化問題と自動車交通:税制のグリーン化と二酸化炭素排出削減」,『交通学研究』1999年研究年報,137-146頁
「道路特定財源制度の改革について」(民主党)
http://www.dpj.or.jp/special/douro_tokutei/pdf/20080202seido_kaikaku.pdf

国会同意人事のあり方

 日銀総裁の空席を招いた事態は国内では衝撃的かもしれないが,外国はもう少し冷静に受け止めるだろう。日本の中央銀行のことまで関心のある知的水準の人は,米国で議会多数派と大統領の支持政党が違うときに同意人事が進まないことも見てきている。Upper houseで多数派の野党の同意が得られない,と説明すれば,何が起こっているかは把握してくれる(議院内閣制なのにどうしてupper houseがそんなことをするのか,と聞き返されたら,憲法改正まで話がおよぶ統治構造をめぐる大議論になる)。
 国会同意人事は,国会のチェック機能と行政の円滑な執行をどうバランスさせるかで制度設計と運営を考える必要がある。まずは,不同意が起こり得ることを前提として,それが生み出す摩擦を最小化する工夫が必要だ。
(1) 空席は制度がまったく目的としないことなので,任期切れで空席になる事態を回避するために,後任が決まるまで前任者がその職務をおこなう規定を設ける。空席を狙ってゆさぶりをかけるような,誰が見てもチェック機能の乱用となる動きを封じる効果もある。
(2) 不同意にされた人が社会的に傷つかない配慮が政治にも国民にも求められる。国会の判断に対する議論をすれば,候補者がさらし者になる。心無い人たちが人格攻撃を始める懸念がある。メディアがそれに乗るようなことは厳に慎むべきである。不同意にされた人がさらし者になって傷つくことが続けば,誰も国会同意人事の打診を受諾しなくなる。
(3) 不同意にされたからといって,きちんとした候補者を出しているなら,政府も傷つく必要はない。不同意の結果も制度の想定内である。要は,人事が大変なだけである。(2)の条件が満たされていれば,すぐにつぎの案を出していけばよい。

 一番難しいのが,野党側の対応だろう。
 経済政策では賛否両論があるのが常である。金融政策では,金利を上げれば借り手は困るし,金利を下げれば貸し手が困る。どういう金利に対しても批判することが可能だ。政策に関わる経歴の候補者が野党の反対する政策に関与していたことは,よく起こると考えられる。それでいちいち野党が反対したら,可もなく不可もない,能力があるのかないのかわからない人しか選ばれなくなってしまう。多数派となった野党側にはある程度の許容が必要だが,その線引きは難しそうだ。

 両院の同意以外の方法に変更することは,二院制の理念に関わり,憲法にもつながる問題である。
 両院の判断が違った場合に衆議院の判断を優先させる規定を設けるのは,事実上衆議院の同意のみとすることと同じである。法案なら修正妥協の余地があるが,同意・不同意の二者択一では,両院協議会を開いても無意味である(内閣総理大臣指名の憲法規定も同じで,衆議院が内閣総理大臣を指名する,とした方がすっきりする)。
 衆議院のみの同意とする案は,一院制への移行の議論になりそうである。

日本銀行総裁の条件

 日本銀行総裁が空席になった。これまでの経緯で,関係者(メディアも含めて)に経済学のリテラシーがないことが非常に残念だ。
(1)
 最大の痛恨事は,伊藤隆敏教授の副総裁案が不同意になったこと。民主党が,伊藤教授が提唱しているインフレターゲット論がふさわしくないとしたのは,不合理。国会での所信(http://www.e.u-tokyo.ac.jp/~tito/20080311.pdf,マーカーを引いた部分)で伊藤教授が説明しているように,これはインフレを起こすことを目的としたものではなく,インフレを低位で安定させようとするものである。学界でも真剣に研究がされている議論であり,トンデモ経済学ではない。実際に導入するか否かは長らく議論があるが,伊藤教授が副総裁になれば日本銀行内での議論がより深まっただろう。世界に令名とどろく伊藤教授の見識が金融政策の現場に活かされないことは,大きな損失だ。
(2)
 総裁人事の争点が,「財務省出身者が総裁に就任すると,日銀の独立性が損なわれる」かどうかになったのは的外れ。もっと重要なのは,日本銀行総裁には金融の専門的知識と経験が必要とされ,財政は強くても金融が弱い人はふさわしくない,ことだ。
 「財務省出身者だから駄目だというのはおかしい」というのは正論だが,財務省(大蔵省)事務次官のほとんどは主計局畑で,国内での政治家との応対には長けていても,金融は専門外であり,国際経験も少ない(国内から一歩も出ていない経歴が彼らの世界のステータスであったりする)。一方で,財務官経験者はまったく違うキャリアパスを歩み,国際金融の現場で仕事をし,国際経験も豊富である。
 「外国では財務省出身者が中央銀行総裁になっている」のもその通りだが,その場合は経済,金融の知識と経験が評価されてのこと。外国ではその要求水準が高く,多くの人は経済学の大学院教育を受けて,現場で長く研鑽を積む。なお,米国の財務省は,日本の財務省から主計局が抜けたような役所で,金融,マクロ経済が所管。予算編成は行政管理予算局の仕事である。

(参考)
米国財務省のホームページ
http://www.ustreas.gov/

行政管理予算局のホームページ
http://www.whitehouse.gov/omb/

(関係する過去記事)
中央銀行総裁と経済学博士

たばこが安い国

 先進国のなかで日本はたばこが飛び離れて安い。
 たばこ産業の生産性が高いわけではなく,たばこ税が低いからである。3月4日に日本学術会議が出した要望「脱タバコ社会の実現に向けて」では,たばこの税負担が欧米の2分の1から5分の1程度と低いことを指摘し,たばこ税の大幅な引き上げを提言している。たばこ税に限らず,日本の喫煙規制の遅れは,「たばこ産業の健全な発展を図る」財務省が無益有害な横槍をいれることが元凶である。
 たばこ価格の国際比較データとして通常用いられるのは,厚生労働省の「健康ネット|最新たばこ情報」で公開されている,2002年5月31日現在の調査結果である。

http://www.health-net.or.jp/tobacco/product/pd050000.html

 「内外価格差の縮小・詳論」で紹介したEurostatとOECDの購買力平価調査でも,55か国のたばこ価格の比較が可能である。全体の様子は,健康ネットでのデータと同様である。同種のたばこの価格を調べる必要があるので,たばこにしぼった調査の方がより精度が高いと考えられるが,調査時点が2005年と3年新しい,CIS諸国など他の国の情報が得られる,といった価値もあるので,ここで紹介する。
 数値は内外価格差指数(購買力平価と為替レートの比)で,OECD全体を100に基準化している。数値が大きいほど,他国よりも割高であることを意味する。
 日本の指数は61と,先進国から飛び離れて低い。

269 ノルウェー
236 英国
226 アイスランド
220 アイルランド
173 ニュージーランド
167 カナダ
163 オーストラリア
160 フランス
138 スウェーデン
137 デンマーク
136 ドイツ
126 フィンランド
122 オランダ
120 スイス
118 オーストリア
118 ベルギー
114 キプロス
112 イタリア
111 米国
101 マルタ
98 ルクセンブルク
90 イスラエル
83 ギリシャ
80 ポルトガル
77 クロアチア
76 スペイン
68 スロベニア
66 ハンガリー
63 韓国
61 日本
59 チェコ
59 トルコ
57 スロバキア
49 ポーランド
47 エストニア
40 メキシコ
37 リトアニア
37 アルバニア
36 ブルガリア
35 ボスニア=ヘルツェコビナ
31 ラトビア
31 ルーマニア
30 グルジア
29 モンテネグロ
27 マケドニア
26 セルビア
21 アルメニア
20 アゼルバイジャン
19 タジキスタン
18 ベラルーシ
16 ロシア
15 カザフスタン
15 キルギスタン
15 ウクライナ
14 モルドバ


(付記)
 以下は,「たばこ事業法」の目的を記した第1条である。非常に邪悪な目的であるとしかいいようがない。

(目的)
第一条 この法律は、たばこ専売制度の廃止に伴い、製造たばこに係る租税が財政収入において占める地位等にかんがみ、製造たばこの原料用としての国内産の葉たばこの生産及び買入れ並びに製造たばこの製造及び販売の事業等に関し所要の調整を行うことにより、我が国たばこ産業の健全な発展を図り、もつて財政収入の安定的確保及び国民経済の健全な発展に資することを目的とする。

(参考)
日本学術会議要望「脱タバコ社会の実現に向けて」
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-20-t51-4.pdf

内外価格差の解消・詳論

 日本のGDPに関する内外価格差指数(購買力平価と為替レートの比,OECD全体を100に基準化)は,EurostatとOECDによる1999年調査の143から2005年調査の114まで20%下がった。
 2月29日に2005年の購買力平価調査の報告書「Purchasing Power Parities and Real Expenditures: 2005 Benchmark Year, 2007 Edition」が刊行された。またWebで提供されるOECD.Statから詳細なデータを入手可能である。
 ここで新しく発表されたデータをもとに,1999年調査と2005年調査の内外価格差指数を需要項目別に比較してみよう。ただし,こういう動きを見ることは,計数に計測誤差が含まれていると,真の値の動きを見ているのか,誤差の動きを見ているのかわからなくなるおそれがあることに注意して,一定の幅をもってとらえる必要がある。
 1999年→2005年(変化率)のように示すと,
 153→115(-25%) 現実個人消費(家計による消費)
 132→111(-16%) 現実集合消費(政府による消費)
 129→115(-11%) 総固定資本形成
 163→130(-20%) 在庫品増加
となる。
 1999年に割高だった消費財,在庫の価格が大きく低下して,全体でのばらつきが平準化する方向に動いている。国内の価格の動きだけを見ると投資財価格の低下が大きいが,上の指数は外国との比較のものなので,外国での投資財価格の低下も大きかったということがいえる。日本と外国の価格の比の,2時間点の比を,違った財で比べることをしており,比べる作業が3つ重なっているので,ややこしい。
 現実個人消費の目的別分類も公表されている(分類は,『国民経済計算』フロー編・付表13に対応する)。
 215→185(-14%) 食料・非アルコール飲料
 125→88(-30%) アルコール飲料・たばこ
 157→136(-13%) 被服・履物
 169→120(-29%) 住居・電気・ガス・水道
 174→139(-20%) 家具・家庭用機器・家事サービス
 102→73(-28%) 保健・医療
 143→118(-17%) 交通
 116→115(-1%) 通信
 144→101(-30%) 娯楽・レジャー・文化
 117→111(-5%) 教育
 190→130(-32%) 外食・宿泊
 171→116(-32%) その他
となっている。
 細分化していくと調査対象品目が少なくなるので,推計誤差がさらに心配になる。ここで大まかな傾向をつかんで,さらに各国の物価指数を参照して確認していく作業が必要であろう。これは論文を書く作業になるので,ここでは大まかな傾向をつかむだけにとどめる。
 1999年から2005年の指数の低下は,特定の財に起こったのではなく,広い範囲に共通して見られたといえる。個別財での問題を解決して内外価格差を解消したような動きではないような印象を受ける。こうした動きを生じさせる要因としては,(1)輸出財の価格が上昇して為替レートが円安に動く,(2)為替レートが投機的な動きで円安に動く,(3)流通・運輸業のコスト低下が生じる,などが考えられる。
 1999年時点で内外価格差指数が高かった項目のうち,「住居・電気・ガス・水道」,「外食・宿泊」,「その他」は,低下率が大きい。一方で,「食料・非アルコール飲料」は低下率が14%で,一段と高価格が引き立つ形となっている。農業が相変わらず一番の課題のように見える。
 低下率が一番小さいのは,「通信」である。わが国のデフレーターは下がっているのだが,外国でも価格低下が起きていることになる。
 2005年で割安な財に目を向けると,まず「アルコール飲料・たばこ」。とくに「たばこ」の指数が低いが,これは決してほめられたことではない。「保健・医療」は質の評価が難しいので幅をもって見る必要があるが,額面通りに受け取ると,OECD諸国では低価格になる。経済諮問会議のかねてからの主張は,効率化で医療・介護サービスの供給コストを低下させることであるが,内外価格差指数から見ると難事業であり,他にやるべきことがあるだろうということになる。

(参考)
Amazon.comでも「Purchasing Power Parities and Real Expenditures: 2005 Benchmark Year, 2007 Edition」が見つからなかったので,OECD Online BookshopでのURLを載せておきます。
http://www.oecd.org/bookshop?pub=9789264026766

OECD.Stat
http://www.sourceoecd.org/database/OECDStat

(関係する過去記事)
「1人当たりGDP 日本は18位に後退」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/1027049.html

「内外価格差の解消がもたらしたもの」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/1197471.html

「【お薦め】SourceOECD」
http://blogs.yahoo.co.jp/iwamotoseminar/266985.html
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