日本の首相は長らく,自民党総裁選あるいは自民党内の話し合いで決められてきた。国民が首相を選べないことへの不満から,大統領制や首相公選制の導入がこれまで提言されたりした。1994年の政治改革は,二大政党制による政権選択選挙を定着させて,多数党党首を選ぶことで実質的に首相選択選挙とすることで,この不満への回答とする意図も含んでいる。
選挙による政権交代はこれで戦後3回目となるが,片山首相は首班指名選挙で他党が「憲政の常道」により投票することで誕生し,細川首相は連立政権がまとまることで誕生した。今回は,衆院選で民主党が過半数を得た瞬間に,鳩山代表が首相になることが確定した。
「民主党への政権交代」に比較して,「衆院選による鳩山首相の指名」という出来事の注目度は低いように思われる。8月30日の開票速報番組では,いつものように各党党首に各局がインタビューしていたが,首相選択選挙には向いていない形式である。新しい首相に選ばれた第一声が,イヤホンをつけてテレビ番組のキャスターと一問一答というのは,違和感を覚えた。
戦前の内閣総理大臣の地位が限定されていたことを考えると,大げさにいえば,鳩山首相は,日本の歴史上はじめて,国民の選挙によって選ばれた指導者なのである。もちろん正式には国会で首相が指名されるので,そういう見方も可能だということであるが,国民が選挙で指導者を選んだ,という実感をもたせるような盛り上げ方もありえただろう。昨年の米大統領選のように,8月30日に過半数が確定した時点で,大観衆の前で新首相となる鳩山代表が勝利演説をするという演出はどうだろうか。
そういう演出は,首相の政権基盤を固めるために有効な手段となる。衆院選で首相を選ぶことが国民の常識となれば,選挙を経ない首相の交代には激しい世論の抵抗が巻き起こるだろう。総合調整機能が弱いことが日本の政治過程の問題であり,「なぜ財政赤字が発生するか」で触れたように,財政赤字の発生要因としても注目されている。その解決策のひとつとして強いリーダーシップをもった指導者をつくることが必要である。
しかし,総選挙開票後から日本は鳩山代表を事実上の首相として動き出したにもかかわらず,鳩山氏は国会で指名されるまでそうした立場で振舞うことを避けて,首相選択選挙を演出する流れには与しなかったように見える。
首相選択選挙の考え方が定着するかどうかは,気が早いが,つぎの衆院選の課題となるだろう。衆院選で首相を選択できることを国民が実感すれば,その権利を手放したいとは思わないだろうから,いずれその考え方は定着すると思われる。しかし,そのためには,すぐれた候補者が選択肢にならないといけない。与野党の党首の選び方から,しっかり見ていかないといけない。首相選択選挙の準決勝となる自民党総裁選は,世間の注目度が低いまま,まもなく投開票を迎える。
(関係する過去記事)
「なぜ財政赤字が発生するか」
「【政権選択選挙】党首の選び方」
選挙による政権交代はこれで戦後3回目となるが,片山首相は首班指名選挙で他党が「憲政の常道」により投票することで誕生し,細川首相は連立政権がまとまることで誕生した。今回は,衆院選で民主党が過半数を得た瞬間に,鳩山代表が首相になることが確定した。
「民主党への政権交代」に比較して,「衆院選による鳩山首相の指名」という出来事の注目度は低いように思われる。8月30日の開票速報番組では,いつものように各党党首に各局がインタビューしていたが,首相選択選挙には向いていない形式である。新しい首相に選ばれた第一声が,イヤホンをつけてテレビ番組のキャスターと一問一答というのは,違和感を覚えた。
戦前の内閣総理大臣の地位が限定されていたことを考えると,大げさにいえば,鳩山首相は,日本の歴史上はじめて,国民の選挙によって選ばれた指導者なのである。もちろん正式には国会で首相が指名されるので,そういう見方も可能だということであるが,国民が選挙で指導者を選んだ,という実感をもたせるような盛り上げ方もありえただろう。昨年の米大統領選のように,8月30日に過半数が確定した時点で,大観衆の前で新首相となる鳩山代表が勝利演説をするという演出はどうだろうか。
そういう演出は,首相の政権基盤を固めるために有効な手段となる。衆院選で首相を選ぶことが国民の常識となれば,選挙を経ない首相の交代には激しい世論の抵抗が巻き起こるだろう。総合調整機能が弱いことが日本の政治過程の問題であり,「なぜ財政赤字が発生するか」で触れたように,財政赤字の発生要因としても注目されている。その解決策のひとつとして強いリーダーシップをもった指導者をつくることが必要である。
しかし,総選挙開票後から日本は鳩山代表を事実上の首相として動き出したにもかかわらず,鳩山氏は国会で指名されるまでそうした立場で振舞うことを避けて,首相選択選挙を演出する流れには与しなかったように見える。
首相選択選挙の考え方が定着するかどうかは,気が早いが,つぎの衆院選の課題となるだろう。衆院選で首相を選択できることを国民が実感すれば,その権利を手放したいとは思わないだろうから,いずれその考え方は定着すると思われる。しかし,そのためには,すぐれた候補者が選択肢にならないといけない。与野党の党首の選び方から,しっかり見ていかないといけない。首相選択選挙の準決勝となる自民党総裁選は,世間の注目度が低いまま,まもなく投開票を迎える。
(関係する過去記事)
「なぜ財政赤字が発生するか」
「【政権選択選挙】党首の選び方」