岩本康志のブログ

経済,財政の話題を折に触れて取り上げます。

2021年10月

Yahoo! ブログから引っ越しました。

Welfare economics of managing an epidemic: an exposition

 拙稿「Welfare economics of managing an epidemic: an exposition」がJapanese Economic Review誌にオンライン出版されました。DOIは、10.1007/s42973-021-00096-6です。
 Vol.72 Issue 4の特集号「SIR Model and Macroeconomics of COVID-19」に収録されます。日本経済学会新型コロナウイルス感染症ワーキンググループ(以下、WG)が編集した特集ですが、特集の論文選定では、利益相反を避けて、WGメンバーの自薦はおこなっていません。光栄なことに他薦で選ばれました。
 拙稿は、日本語の「感染症対策の厚生経済学:解説」を土台に、加筆しています。大きな加筆は、「動学的外部性」(5.2節)と「都市封鎖の事後評価」(6節)の追加です。後者の加筆箇所は、その日本語版「感染症対策の厚生経済学:都市封鎖の事後評価」を私のサイトで公開しています。「感染症対策の厚生経済学:解説」の数式の展開は一般の学術論文よりも丁寧に書いていますが、英語版は学術論文なみに簡略化してあります。日本人読者には、日本語版の「解説」「都市封鎖の事後評価」を読んでいただくのが、わかりやすいのではないかと思います。

「都市封鎖の事後評価」では、昨年の英国のlockdown、米国のstay-at-home orderの費用と便益を推計した6つの研究を紹介しています。Miles, Stedman and Heald (2020, 2021)を「簡易計算」と名づけて出発点としていますが、手法は私が昨年のブログ記事「感染流行の第1波を乗り越えることで得たもの(そのZ)」で書いた方法と同種のものです。費用が便益を上回るという結論は、私が日本を対象にした計算と同じです。
 そこから「精緻化」を図ったのが他の5編ですが、今度は逆に、便益が費用を上回るという結果で一致しています。精緻化すれば研究の質は上がり、そちらの結論を採用するのが当然にように見えますが、精緻化の内容を見てみると首をかしげることがいろいろあり、その問題が結論に影響を与えています。ただし、問題点を理解するには、いったん各研究を比較可能な形に整理して、どのような方法や数字が使われているのかを明らかにしておく必要があります。今回の加筆は紙数と時間の制約から、そこまでの作業と問題点(費用の過小推計、便益の過大推計)の簡単な指摘にとどめ、感染症対策の費用便益分析についてのまとまった論考は別の機会に回すことにしました。

(参考文献)
Miles, David, Mike Stedman and Adrian Heald (2020), “Living with COVID-19: Balancing Costs Against Benefits in The Face of the Virus,” National Institute Economic Review, Vol. 253, August, R60-R76.
https://doi.org/10.1017/nie.2020.30

Miles, David K., Michael Stedman and Adrian H. Heald (2021), ““Stay at Home, Protect the National Health Service, Save Lives”: A Cost Benefit Analysis of the Lockdown in the United Kingdom,” International Journal of Clinical Practice, Vol. 75, Issue 3, March, e13674.
(関係する過去記事)
「感染流行の第1波を乗り越えることで得たもの(そのZ)」

「Introduction to the special issue “SIR Model and Macroeconomics of COVID-19”」

Voice「安易な強権発動の危うさ」

 9月4日に登壇した医療経済学会第16回研究大会でのシンポジウム「公衆衛生対策において経済学者が果たす役割」が『Voice』誌に取材され、11月号(10月8日発売)にその模様を伝える記事「【医療経済学会シンポジウム】安易な強権発動の危うさ」が掲載されました。
 記事では私の基調講演「新型コロナウイルス感染症と経済学」と、大竹文雄教授(大阪大学)、橋本英樹教授(東京大学)、井深陽子教授(慶応義塾大学教授)による報告が、要領よくまとめられています。シンポジウムの想定する聴衆は学会員でしたが、記事は一般の読者も読みこなせるようにうまくアレンジされていますので、ご関心のある方はぜひ手にとってご覧ください。
 新型コロナウイルス感染症対策には様々な意見がありますが、『Voice』誌には、学会は特定の立場に与するものではないことをご理解いただいて、学会で発信された科学的知見を正確に紹介するようにお願いしました。地の文での記者の感想・意見にわたる部分は、学会とは無関係です。

 私の基調報告のスライド(PDF file)はすでに公開しています。他の仕事との兼ね合いで講演論文の清書がままならなかったのですが、近いうちに論文も公開する予定です。

(関係する過去記事)
「医療経済学会・基調講演『新型コロナウイルス感染症と経済学』」

「新型コロナウイルス感染症に関する研究」文献リスト(第5版)更新

 日本経済学会新型コロナウイルス感染症ワーキンググループ(以下、WG)による「新型コロナウイルス感染症に関する研究」サイトの文献リストを6日に、更新しました。これで4回目の更新になり、前回より46本の専門論文が追加され、合計175本が掲載されています。他に更新を停止した一般記事55本も掲載されています。
 このサイトの位置づけについては、「日本経済学会『新型コロナウイルス感染症に関する研究』サイトを開設しました」での説明を繰り返すと、新型コロナウイルス感染症に関する経済学的研究について日本経済学会員の研究成果を紹介し、経済学の知見を新型コロナウイルス感染症対策に活かすための活動をすることを目的としています。
 一般記事の扱いについては、「『新型コロナウイルス感染症に関する研究』文献リスト(第4版)更新」の説明をご覧ください。

 WGがJapanese Economic Review誌の特集号の編集にかかっていたこともあり、更新の間隔が少し伸び、5か月振りの更新となりました。今回は、この週末に開催される秋季大会に合わせて更新しました。
 専門論文はもともと分野別に整列していますが、ページ内の文献が増えてきたので、画面トップのナビゲーションから各分野に飛ぶことができるようにしました。
 全体として研究が少し落ち着いてきたという印象をもちますが、それでも多数の新しい研究が発表されています。また、以前に未刊であった文献の学術雑誌への掲載も増えています。WGの人力による情報収集では手に負えず、学会員からの情報提供に多くを依存しています。今回も多数の情報を提供いただいたことを感謝いたします。

(関係する過去記事)
「日本経済学会『新型コロナウイルス感染症に関する研究』サイトを開設しました」

「『新型コロナウイルス感染症に関する研究』」文献リスト(第4版)更新」

「Introduction to the special issue “The Impacts of COVID-19 on the Japanese Economy”」

「Introduction to the special issue “SIR Model and Macroeconomics of COVID-19”」
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